33 知能極振りだからこそ
「朝倉さーん!! つれて来ましたよー!!」
研究所に着くなりはしゃぎつつ、元気よく声を出す星夜に和みながら返答を待つ。
だがしばらく待っても返事は聞こえてこない。
「んー、やっぱりお忙しいみたいです。とりあえずそこのソファーに座って待っててください」
「ああ、悪いな」
そう言うと星夜は幾らかある扉の内、真ん中にあるものへ入っていった。
靴を脱ぐ場所が無い辺り、ここが天ノ峰邸のように家とはまた違う施設なのだと思わせる。一応あっちは家だけれど、融合施設みたいなものだから間違ってはいないかな。
周囲の構造を見るに、この部屋を中心に移動していく形になっているようだ。
座れと言われたのだから腰をかけないのも逆に失礼だろう。
ソファーに腰掛けると正面には盤面が黒いテーブルが一つと大画面のモニターが一つ。テーブルの上には何やら小道具が沢山置かれているが、これらが何のために使われているのかは分からない。
それ以外特に目に入るものはなく、ふと上を見上げる。ルイもほぼ同じタイミングだった。
「わぁ……」「ひぇえ……」
中央にあるこの部屋は二階まで吹き抜けになっていた。
そこに何が有る訳でもないというのに、その金属で出来た内装に思わず圧倒された。いかにも研究所と言わんばかりの科学的な匂いをそこらかしこから感じ取れる。
そして何やら2階からカンカンと金属の音がしたのでそちらを見てみると、そこには星夜がいた。
なるほど先ほどの扉は階段に繋がっているのか。
彼もこちらの視線に気がつくとその場で立ち止まって、ピョンピョンと飛びながら両手を振ってくる。落下防止のための手すりが付いているから流石に大丈夫だとは思うが、下手してこちらまで落下しないか心配になる。
「和むねぇ」
確かに和むがそれよりも落下の懸念が先に出てそれどころではない。
だがそんな心配も杞憂に終わり、そのまま彼は部屋へ入っていったようだ。
「……にしても、どうしてここに来たんだっけ?」
「……忘れたのか」
「んー……あっ、ごめんごめん覚えてるよ。過去から来た父さんらを助けてもらわないとね!」
あれ程衝撃的なことに遭遇してきたのにお前って奴は……。
いや寧ろあんなことがあっても忘れられるだけの強靭なメンタルを持っていると思っていいのか?
や、でもルイってそこまでメンタル強くないと思うんだが……何だかんだ一度メンタルブレイクをしている彼なので、少しは強くなっているのだろうか。
それともただの天然か。
そんな適当な妄想をしている内に二つの音がカンカンと、二階から聞こえてきた。一人は星夜であると把握できたが、もう一人の姿はギリギリ見えない。扉側を歩いているのだろうか、それとも……。
「ちょっとこわいなあ……」
そうルイは言う。確かに先ほどとは違って圧迫感というか、張り詰めた空気が重くのしかかってくる。その朝倉という人物が放っていることに間違いはないのだろうが、ここまでの重圧だとは思わなかった。
やがて扉を越え、階段を下りてくる音が微妙に聞こえてくる。
研究者朝倉とは一体どのような人物なのか。
自分らは立ち上がって扉へ注目する。
ルイの生唾を飲み込む音が緊張感を漂わせた。
「よく来たね、ベガ、そしてルイ!!」
扉が開き第一声。
星夜よりも背が低い白衣姿の少年が足を開き、仁王立ちで自分らを迎えてくれる。
彼が朝倉だろうか。
自分が想像していたよりも遥かに身体は小さい。先ほどまで自分にあった重苦しい重圧感はとうに消え去り、そこに居るのは「単なる人間」であると納得できてしまった。
それでもルイの目はキラキラしている。
そうだな。背の高さは大した問題ではないのだ。別世界からやってきたということが何よりもルイにとって喜びだろうし、感動なのだろう。
その点について茶々入れをするのも気分が良くないし、自分も極力気にしないようにしよう。
「では座りたまえ。なあに、言いたいことは殆どお見通しだよ」
彼があまりにも自信満々に述べるため、これで間違えたらどうするつもりなのだろうと焦ったがそれも杞憂に終わる。
自分の身に起きた出来事から、ルイに関するありとあらゆる情報が彼の手にも行き渡っていた。当然、親が帰ってこないということや過去の世界からルイのお父さんらがやって来たということも。
「えっ? どうして分かるんですか!?」
なんてルイは驚いていた。当然自分も驚いたが、冷静になって考えてみるとヒカリが一報入れただけなのではないかと察してしまったが、ルイは何か科学の力だと思っているようなので放っておく。
そして隣に居る星夜も一緒になって驚いてるじゃないか。ルイ以上にビックリしてるの可愛いな。
当然この朝倉も「フフフ」と言って本当のことを語ろうとしない辺り余計にタチが悪いというか、何だか怖い。
「さて、前置きはここまでにしよう」
話が逸れる前に話を区切り、改めて朝倉は口を開く。
「では何故ルイの父さんら……そうだな、仮に転移少年隊としよう。彼らがこちらの世界に来てしまったのかを説明しよう」
朝倉の真剣な表情に空気は再び張り詰めた。
その場にいる全員の心も自然と纏まるほどに。




