27 仲間探し
自分たちから見ると、景色は昨日までとは全く変わらない。
だがルイのそっくりさんによれば、合っている場所を探す方が困難なのだと言う。
「道路はもっと汚いし、砂利の方が多いはずだ。細道とかなんて特にさ」
深くため息を吐く彼の心には、不安しか無いことだろう。ルイの考えが事実だったなら、別世界から飛んできたということになるのだから。帰り方も分からない中で、希望なんて持てるのだろうか。
「駄菓子屋も、八百屋も無くなってる……」
本来はそこに存在したのだろうか。住宅街にぽつりと、シャッターの下りた家を見つめている。その表情は切なそうだ。
自分が同じ境遇に置かれたなら、どう思うんだろうな。
やっぱり呆然と、何も考えられなくなってしまうのかな……。記憶喪失とはまた違う苦しみであろうことは、何となくにでも理解できるけれど、それ以上のことは、体験した本人たちにしか分からないのだろう。
踏切を越えて、さらに歩く歩く。
「彼はどこへ向かってるんだろうな」
「何だろうね……」
ルイにはそう言ったが、自分の中には一つ予想がある。
そっくりさんが来たということは、その繋がりで今度はヒカリのそっくりさんが現れるのではないか……というものだ。
何の根拠も無い予想でしかないものだし、きっかり本当になる訳がないよなあ。
それに天ノ峰家の方向へ向かってるとも限らないんだし、安易な考えを持たない方が良いか……。
「すげえ、変わってない!!」
「えぇ……」
予感は見事に的中した。どの角度から見ても、どの場所から見ても、見事に天ノ峰家だった。仲間の家は寸分たりともここで間違いは無いらしく、外見も全く同じだという。となれば、その仲間というのも……。
まさか自分でも予想が当たるとは思わなかったため、少しばかり動揺している。もしかしたらこの後に出て来るのが本当にヒカリだったとしたら……。
そうしたら、いよいよもってルイの考えが正解となるのだろう。
だが正解だったとしてどうなる?
自分たちに打つ手は無い。ただ全員を集めて樹海へまた足を運ぶことぐらいしか、出来ることは無い。それに、また迷うとか絶対嫌だな……。もう助けてくれる人には遭遇できないだろうし。
「あ、居た」
そう言うと、彼は自分たちが何を言う間も無く駆けていってしまった。
よく見ると正門に人が居るじゃないか。その人に彼は近づいていく。
……女の子のようには見えないな。どう見ても男の顔つきをしている。将来立派な髭が生えて、イケてるおじさんになりそうな顔だ。
「なんか、ルイに似てるのは外見だけみたいだな」
「そうだね。何というか、性格は父さんに近いかも」
「そうか? お父さんはもう少し落ち着いてるイメージだったけど」
およそ二日間も話ができた訳では無いのだけれど、お父さんは落ち着いた、マイルドなおじさんと言っても良いような性格をしていたように思う。
「あー、多分恰好つけてただけだ」
「へへっ……なるほどな」
そういうことか。こんな子供らしい一面が未だに残っているって良いよな……。
いつか見てみたいと思うけどな。こんなお父さんも……。
…………。
そっくりな彼と重なるな。
「話は付けてきたぜ」
結構長いこと話していたみたいだが、どうやら先ほど自分たちが話したことを、そのまま伝えてくれたらしい。それこそ伝聞を伝えているのだから、伝わりきらなくて当然のような気がする。
「ええと、彼は彼であってリュ……彼でなくて、自分は自分で……」
佇んでいた少年はパンクしそうな頭を抱えながら、名前を呼ばないように必死になっているようだ。
「ところで、どうして名前を呼んじゃいけないんだ?」
「その世界に馴染んで行って、帰れなくなってしまうから。本来その世界の住人じゃないなら、名前はしっかり隠しておいた方がいいんじゃないかなって。念のためね」
理屈はよく分からないが、万が一帰れる希望が断たれてしまうことになっては大変だ。ルイの言う通りにすべきだろうと、その場の全員で思いを固めた。
「ところで、家はどうだった!? 何かあったか?」
「一応館内の一部には入れてもらえたんだが……」
確かに館内には入ることが出来たが、主には会うことが出来なかったらしい。代理で現れた女性―恐らくヒカリだと思われる―に事情を説明するも、非常に不機嫌そうであまり質問できなかったという。流石に怖かったか。
「殺気立っている人に対してはっきりと質問できるかい……?」
「……出来ねえな」
「今主の人が行方不明で、捜索してるんだってさ。だから迷子に構ってる暇は無いって」
うわヒカリ辛辣だな……。来客に対してそんな態度をとるか。自分たちに対してはもっと優しかったよな気がするけれど、状況が悪かったんだろうな……。
「ちょっと待って。今、主が行方不明って言った!?」
「え、あ、はい」
ルイが驚きの声を上げる。言われて自分もはっと気が付いた。
「ベガ、これって……」
「ああ。間違いなく、何かが関係しているだろうな。少なくとも、ただ事では済まされない何かが……」
運命か必然か、それとも偶然の中の奇跡なのだろうか。
数日に渡って、こうも不思議な出来事に巻き込まれる自分の身には、もう安息の二文字は無いのだろうか。




