26 アザー・ワールド
彼が一体何者であるのか、見るだけではその一切が分からない。
何よりも、ルイと顔が非常に似通っている点や、この家を訪れた理由。それらが把握できない以上は家に上げることも出来ない。とりあえず玄関先で話をするぐらいだな。何か問題が起きてからじゃ遅いしな。
「何か用件があるのか?」
「……いや。そういうことじゃないんだけどさ」
声がルイよりも低いように思えた。よく見れば、顔も彼より男らしい。
……けれどこの声、どこかで聞いたことがあるような。
「用事がないならどうして」
「あるっちゃああるんだよ……何て言えば良いんだろうな……」
何かに困っているのだろうか。それだけは何となく伝わってきた。
「ゆっくりでいいぞ。落ち着いて」
そう言うと彼は大きく息を吸って、吐き出す動作をする。
ううん……やっぱりルイと似てるな。
「ええと、まずさ、信じてくれるか分からんけど、ここ、俺んちのはずなんだけど……」
…………。
随分と端折ったな……いや、最初から話してたとしても突拍子もない発言に思えてしまうのだろうけれど。
ええと、ここが彼の家?
いやいや、ここは夜天家だろう。なのにどうして彼の家だと言うのか。
「やっぱ固まっちゃうよな。ごめんよ変なこと言って。それじゃ」
「いや待て待て。とりあえず具体的に話を聞かせてくれないか?」
「え、ああ、いいけど……」
とりあえず敵意が無いことを確認しつつ、玄関と廊下の段差に座らせる。
「自分でも何が起きたかよく分からないんだよ」
「具体的に、どんなことが起きたんだ?」
「仲間と一緒に樹海を探索して、帰ってきたと思ったら、町の風景が今までと違ってさ……」
「不思議だな」
悪いけど、そうとしか言えない。自分の身に体験してないからかな……。
この数日だけで結構な数の不思議に遭ってる身としては、何となく気持ちは察することができるけれど。
「それで、自分の家があった場所はどうなってるんだろうと思って来てみたら……」
「なるほどな。オイラ達が住んでたって訳か」
家の位置が全く同じということ、そして彼がルイとそっくりというのは、偶然ではない気がする。
それに気がかりなのは、今回もまた樹海が関わったということ。
何の運命なんだろうな。あの樹海には間違いなく、何かが隠されている。
どうして断言できるのかは分からない。けれどそれしか考えられない。
「ところで、その仲間はどこにいるんだ?」
「ああ、それぞれの家を見に行ってる……」
単なるいたずらとは思えない、複雑怪奇なこの現象。一体どうしたことだろう。
異質な空気に包まれながら話を続けていると、やがてルイがこちらにやって来てしまった……。
「ベガー、どうし……えっ」
「は……?」
ピタリと、時が止まったように、その場が一瞬限り凍り付く。
やがて何も理解できぬまま、彼らは動き始める。
「「ええーーーーーーーー!!??」」
いやいや流石に煩いな……。周囲の家にこの声が広がってないか心配だ。
けれどまあ、こうなるだろうとは思ったよ。
まさか彼らは自分自身とそっくりな人間に会うなんて、思っても見なかったと思うけれど。
「ドドドドドッペル……ドッペルゲンガァ……」
「何でこんなことが起きてんだよ……夢なら覚めろよ……」
「二人とも……」
現場はしばらく混乱したままだった。
そっくりさんも驚いたときに立ち上がってしまったので、とりあえず二人とも座らせて、心を落ち着かせておく。
どうにかルイに理解してもらって、それからは事が早く進んだ。
とりあえず彼に協力して、元の場所へと帰る手段を考える必要があるのだ。
話によると、なんとそっくりさんが住んでいた地域の名前も「天ノ峰」なのだという。
それを聞いた瞬間に、ルイはピンと閃いた。
「……ちょっとした世界線のズレで、別世界の天ノ峰からやって来たんじゃないかな」
「世界線、ズレ? 意味わかんねえ……」
「とりあえず、帰れなくなっちゃうかもしれないから、自分の名前を言わないようにね」
「あ、ああ……」
そっくりさんに理解してもらうのには手間取ったが、そちらもとりあえず割り切ってもらった。けれど名前を言ってはいけないってどういうことなんだろうな。
さて、大まかに事が進んだはいいけれど、肝心な別世界への行き方が分からない。
……とりあえずまずは、この世界にやって来たという人達を全員探す必要がある。
「全員集合させて、それからかもな……」
「そうだな。あいつらのことも気がかりだ。ちょっと探してくる」
「いや待ってくれ。オイラも行く」
「僕も」
今日もまた不思議なことが沢山起きそうだな。
それが楽しみだけれど、反面怖くもある。
「ユメ、ちょっと出てくるね」
留守番は任せてと手を振るユメは、どうも落ち着きがなかったという。




