25 カードクイーンは眠らない
ルイとユメと、そして自分。三人でのんびりと、お父さんを待ち続けた。
ただ待つだけだと退屈だと言って、ルイがトランプを持ってきた。
遊ぶ前にババ抜きというもののルールを教えてもらったのだけれど、自分の感覚的に思っていたそれと、ルールは全く同じだったのが、何とも不思議だと思う。
自分が勝てることは一度も無かった。そして、一切ルイが勝つことだって。
ユメこそが女王だった。
軽々と敵陣に入り込み、じわじわと支配していく。やがて戦の全てに勝利し、そして家畜を見るかのような哀れみの視線をこちらに送ってくる。背景は黒と紫のコントラストを描いていた。
正にカードクイーン。彼女は読みと騙しの天才だった。
初めはカードゲームなんて、単なる運が絡んだゲームかと思っていた。
だが、そんなことは一切なかった。それはユメを見ていれば分かる。
顔色を窺いながら、ババを引かぬようにする。それだけでなく、いかに表情を隠してババを引かせるか。更には、呼吸、手の力、目線、手汗の量……。
深海ほどにも奥深すぎる、心理を支配するゲームで間違いない。
ルイと共に何戦したのか、もう覚えていない。時には一対一で勝負して、必死でユメに勝とうと食らいついていった。だが何戦、何十分、何時間やったとしても、勝てはしなかった。
決してユメが、表情を表に出していない訳ではない。
寧ろ表情や感情を出している。ただし、それは全て偽りのもの。
全てが自分たちを陥れ、コントロールするための罠。
最初はババ抜きをあまりやったことがないことを装い、ババを引こうとすると表情を強張らせて、目をぎゅっと瞑る。
ユメもお父さんやルイのように、表情が豊かであるだろうと、そう認識していた。だから騙された。
読み合いと騙し合い。その全てを支配して、全てを更地に変えていく。
戦略の神、現人神がここに居た。
自分たちは神の前に成す術なく、じわじわと能力と体力を蝕まれ、やがて力尽きてしまった……。
それから目が覚めたのは昼前だ。
ユメがゆさゆさと身体を揺すってくれたお陰だ。起こしてくれなかったら、昼過ぎまでは眠っていたかもしれない。
彼女はルイを起こそうとはしなかった。
仕方ないよな、昨日は疲れてる中、朝方まで起きていたんだから。彼女はそれを理解しているのだろう。
「お父さんは?」
「……ずっと起きてたけど、帰ってこなかったの」
「……そっか」
どうしたんだろうな。子供たちを置いて、彼は一体何をしているのだろう。
もしくは、何があったのだろうか。
「夕方までに帰ってこなかったら、警察へ行こう」
「ん、そうする……」
本当なら、事はあまり大きくしないほうが良いのかもしれない。けれど親が帰ってこない寂しさが日を跨ぐとなれば、寂しさが余計に膨れ上がることだろう。
それよりかは、すぐにでも安心できるように、捜索願を出すのが一番だろう。
警察には月下って人も居ることだし、きっと分かってくれるはず。
…………。
さっきユメ、寝てないって言ってたよな。よく見ると凄く眠そうに見えるけど。
「ユメ」
「……んう?」
「いつも何時に寝てるんだ?」
しばらく寝ていないらしいユメを部屋に送りつけ、眠るように言っておく。お父さんが帰ってきたとき、もしくは夕方になったら起こすことにしよう。まだまだ幼いのだから、身体を壊したら大変だ。
ルイが寝ている今、家を支えられるのは自分なのだ。例え居候だとしても、守りたい気持ちは非常に大きい。気持ちを強く持たなくては。
……お昼ご飯、何かあるかな。というか冷蔵庫を勝手に開けていいものだろうか。若干不安だが、空腹には勝てない。
とりあえずそっと開いてみるが、何もない。
殆どが飲み物だ。空腹を満たすものはそこに何もない。
けれどまあ、起き抜けで喉も少し痛いしな……。
とりあえずお茶を飲んだ。冷たさが胃に沁みる。腹痛にならないかとひやひやするが、暫く経ってもトイレに駆け込むことはなかった。
それから暫く、キッチンの椅子に座りながらゆったりとしていた。すると。
「おはようなの」
「うわっ!」
部屋に入れたはずのユメがこっちに来ていた。何でさ。
「何かあったのか?」
「ううん、もう眠れないの」
「へ?」
先ほどは詳しく聞かなかったのだけれど、彼女は睡眠時間が極端に短いらしい。
この間わずか十数分。これほどの睡眠時間で生きていけるものなのだろうか。
昨日のトランプのせいか、妙に疑り深くなってしまう。常識的に考えて、本当にそのような人が居るかと問われたら、そう易々と頷くことは出来ないだろう。
「疑ってるー……」
ふくれっ面だ。非常にキュートであるが、それが証拠にはなり得ない。
うーん……信じていいのか分からないが、まあ信じておこう。
先ほどの眠気はどこへやら。一転して、今は元気そうではないか。本能的な部分だし、こればかりは騙すことなんて出来ないだろうからな。
……相変わらず、ルイは眠り続けている。
とても穏やかな寝顔じゃないか。起こすのも酷だ。どちらかというと、ずっと見ていたい。
「(じー)」
「……な、何でもないぞ?」
「ほんとかなあ」
女王の目は誤魔化せないか。本当に鋭いよ。
諦めるような気持ちで、はあとため息を吐く。その瞬間、何やら変な音が部屋に響き渡っていく。
「インターホンなの。ちょっと見てくる」
「あ、ああ……」
初めてのことで驚きを隠せない自分だが、思い起こせばこんなこともあったようなと、気持ちを落ち着ける。そうか、お客が来ることもあるんだ。
「えっ……どちら様……え? ……え!?」
初めてだった。素でユメが驚いているのは。
ルイを見つつ、また受話器の方を見て、またルイを見る。
「ごめんなさい、ちょっと待っててほしいの!!」
受話器を下した彼女は、明らかに慌てている。一体何があったのだろうか。
「……あの、出てもらって、いい?」
「え、ああ、良いけど……」
玄関に行き、これから起きることが何なのかを想像する。敵か味方か……。いや、そういうものではない、不思議が待っているのか……覚悟を決めて、扉を開ける。
「…………」
「え……」
そこに居たのは、ルイだった。




