21 水神様、水龍を呼ぶ
自分は回避能力が高い。まさかそんな事実をこの戦闘で知ることになるとは。
彼女の本気は凄まじかった。剣のような武器をスラッとしたサーベル状に変えて、際限なく突いてくる。
大剣ならば避けることの出来た自分でも、これは流石に厳しいか……。
そのように思っていたが、懸念は一切現実になることはなかった。
寧ろ、自分の特技を把握する良い機会を得た。
スローモーションに見えるという訳ではない。それよりも、先が読める(軌道が読める)ような感覚だ。
剣がこのように動いたら、その後はこうなるなと、一瞬で捉えながら回避する。
その回避の感覚が気持ちよくて、攻撃を受けているにも関わらず、思わず気分が良くなってきてしまった。
爽快な表情で回避をされてしまっては、ローテナリアも嫌な気分なのではないか。それは申し訳ないけどな。
「潮時かの~?」
ずっと黙っていたフェーリエントが、戦いの最中、初めて口を開く。
折角の戦いに水を差されるのは、少し不服だ。だけど、このままずっと居ても、勝負が一切つかないのは分かり切っていた。だからこれでいいのか……?
「ふっふっふぅ」
フェーリエントは草の茂みから出てきた。今度はしっかりと服を着ている。確かに青少年にも優しい、しっかりとした服装をしているが、一体どこから調達していたのやら。
《幻想魔法:水龍》
「何をする気だ!?」
ローテナリアは水神を恐れているのだろうか。
……それもそうか。水の攻撃によって、少しでも弱らせられているのだ。恐怖しない方がおかしいというものか。
彼女を気にしている内に、どこからともなく現れた、巨大な水の球体。それはやがて形を変えていき、水の龍へと姿を変えていく。
身体中を覆う鱗や、ドラゴンらしいその雄々しく勇ましいその姿。
カッコよさなのか、それとも別の気持ちなのか分からないが、思わず自分は身震いしてしまう。
「なんだよ……これ……」
「か……かっこいい……!」
「にゅははは!! こいつは相棒のピーちゃんじゃ」
名前と姿が一致していないぞ。何でその名前をチョイスしたんだ。
これぐらいのドラゴンならば、それはもう凄まじい『グギュアアアアアアア』みたいな雄叫びをあげるだろうに、この龍がピーって鳴く訳――。
「ピィイイイイイイイイイイ!!!」
「――本当にピーちゃんだな」
「じゃろ?」
こればっかりは一本取られた。
……想像よりも甲高い声をお出しになるんだなこの龍は。確かにルイの言う通り、外見はとてもかっこいいけど……。
「いけぃピーちゃん!! 遠慮はいらんぞ~!! 水線じゃあ!!」
「ピュイイイイイ!!」
何だろうな。ここまで来るとカッコイイというよりも、可愛いというのも正しい気がしてきた。
鳥肌が立つ程にかっこよくて、そして恐ろしくも見えるドラゴンが、こうも愛らしく感じるなんてな……。
「……まずい。これは……退避です!!」
ローテナリアは胸に両手を当てて、何かを念じている。その時だった。
「グゥルゥゥゥゥゥ……」
《フォール・スプラッシュ》
「ピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
レーザー光線顔負けの水勢。そしてその圧力。
まるで目の前で竜巻が発生したかのように、爆発的な水流が吹き荒れる。
下手をすれば、周囲に居る自分たちまで、吹き飛ばされてしまいそうだ……!
そして耳が痛い!! 高音で耳がやられそうだ!!
「ピーちゃんやめじゃ!」
「ピプッ」
フェーリエントの合図で龍は攻撃を止める。周囲は水の勢いが強すぎて、煙まで発生していた。
これだけの攻撃を受けたなら、一溜りもないだろう。攻撃を受けたローテナリアは一体どうなってしまったのだろうか、良く見えない。
確かに彼女は自分にとって、敵なのかもしれない。でも、慈悲ぐらいは持ってもいいじゃないか。
「……居ない?」
煙の取れたその場所には、誰も居なかった。ローテナリアの姿も無く、ただ大きな水溜りが出来ているだけ。
「ぬぬぅ……逃げられたようじゃのう。おっと、ピーちゃんありがとなあ。楽しかったぞぉ!」
「ピィイイイ!!」
再び龍は水の球体に戻っていき、やがてどこかにに消えて行った。溶けて行ったというのが正しいのだろうか。分からないけれど。
「さて……我はこれで失礼するのじゃ。あの少女の動向が気になるからのう」
「調べてくれるのはありがたいよ。こっちは何も聞けなかったから……」
何を言おうと、『リオンヴァレムに話すことは無い!!』と言われてしまった以上、自分に対して心を開くつもりも、何かを語ることも無いだろう。
「あの少女も、第三者の我にならば何かを語ってくれることじゃろう」
「で、でも、あの……」
ルイは何かを言いたそうだ。まあ彼の言いたいことは何となく分かるかもな。
「彼女はルイにとって恩人だ。酷い目に遭わせることはしないで欲しい」
「んにゅう……我がそんなことする奴に見えるのか……」
水神は不服そうだ。表情が分かるって良いな。相手のことがより理解できるから。
「そんな訳ないよな。ごめんよ」
とりあえず謝っておく。
いやそれよりも、自分にはもっと気になっていることがあるんだよ。
「ところで、どうしてお前はオイラ達に見えるようになってるんだ?」
そう聞くと、左右の人差し指同士で、イジイジとし始めた。ぶりっ子ポーズみたいだ。顔も少し照れ照れとしている。
「……話すと長くなるけど、よいか?」
丁重にお断りした。




