22 平和な町のお巡りさん
フェーリエントが森の中に入って行くのを見届けて、自分たちは反対方向へ。ローテナリアが教えてくれた出口へと向かって行く。
彼女とは一戦交えた訳だが、彼女自身はきっと悪人という訳ではない。兄を殺した自分を発見したために、怒りが満ち満ちて、暴走してしまったのだ。
……自分はとんでもないことをやらかしてくれたな。
今更こんなことを言っても、何も解決しないし、自分を責めるのもやめようか。
それはさておいて、ローテナリアは寧ろ善人だと思う。心を閉じ込めかけたルイを救ってくれた所からも、それは明白だ。
ところで、彼女は緑色の光を放ちながら、メンタルケアをしていた。いやそれだけでなく、武器生成まで行った。
その力についてとても気がかりだったので、フェーリエントに聞いてみた所、その手の力が使える人種だということらしい。凄く遠回しに言っていた。
ああもう、透明でなくなったことについて聞かなくて良かったよ本当。聞いたら絶対にもっと長くなっていた。
服装の件を含めて気になる所ではあるけれど、別に今でなくてもいいだろう。
本音を言うと、あのわざとらしいテレっテレな態度がなーんか気に障ったので、却下したというのもある。もしかしたら寧ろ、聞いてほしくないからあんな風に言ったのかもしれないけど。
……いやあ、多分無いな。
そう言えば去り際に、『ぴんちになったら、内に秘めた輝玉の力を意識するのじゃ。己に秘められた力もまた、大切にするとよいぞ!』などと言っていた。
輝玉が心の中に入って行ったのは分かるのだけれど、その力に意識を向けるって、一体どういうことなのだろう。それに、秘められた力というのもピンとこない。
「…………」
立ち止まって、輝玉に意識を向けてみる。だが今出来るのは、輝玉そのものを取り出すことだけ。
水晶玉のように美しい球体で、優しく水色を放っている。
見ているだけで心が癒されるな。何だか、ずっと見ていられる気がする。それだけの、一種の穏やかな自然をこの中に感じる。
「ええ、ベガ今何したの!?」
「ああ、これが輝玉だよ。フェーリエントが言ってたやつ」
「これが……綺麗……」
ああそうか、ルイはまだ見てなかったんだった。輝玉に初めて触れた時、彼は隣にこそ居たが、中身は水神だった。憑依されてたっていうのも変な話だけどな……。
本当に、変なことだらけな一日だった。
「それでまた、心で念ずると……」
「わあ、消えてった!」
今自分が生きていなかったとしたら、こうして楽しい会話もできなかっただろう。
ルイも悲しんだかもしれない。
それを思えば、選択を誤らなくて良かったと思う。
もう、自分勝手に事を決められないな。
さて、樹海からは出た。これでようやく帰れるのだ。きっとお父さんにも心配をさせてしまっているだろうし、出来るだけ急いで帰らないとな。少し急ぎ足で、一緒に歩き出す。
「夜でも人は歩いてるんだな」
「この町が安全な証拠なんだって、父さんが言ってた」
確かにそうか。夜には変な輩が現れることだってある。だから本来なら外に出ない方が良いはずなのだ。安全だからこそ、人々は外に出られる。
本当に素敵な場所だな、天ノ峰は……。
「君たち」
突然後ろから声をかけられた。
「あ、お巡りさん」
「いつも言うけど、月下でいいからね、ルイくん」
いきなり声をかけられるから何事かと思った。どうやらルイの親戚だったらしい。そしてどうやら、この町の警察……なのかな。
「こんな夜遅くに出かけるなんて……お父さんと何かあったのかい?」
「いえ、そんなことないです」
「そっか。なら良いんだ……」
「えっと、月下さんの方こそ、何か有ったんですか……?」
ルイは心配そうに尋ねる。
安全な町で何か悪いことが起きれば、それこそ一大事だ。人々は混乱して、怖い夜を過ごさなければならなくなってしまう。警察が出動しているというのだから、心配にもなるよな……。
「いや……ね。先ほど『全裸で堂々と徘徊する十代ぐらいの少女が居る』と通報が入ってね」
「…………」「…………」
「何か情報を知らないかと思って、こうして聞いて回ってるんだよ」
十中八九フェーリエントだ……。
「そ、そうなんですかぁ……変な女の子も居るんですね……」
「ちょっとドン引きだな……」
彼女に対する事実を申し上げる。何も嘘は言っていない。
「まあ知る訳ないよな。悪いね引き留めて」
「いえ、久しぶりに会えてよかったです」
「お父さんによろしくね。それと、お友達も……ん? 君は……――」
……自分を見る目が、やけに真剣だな。
「何か付いていますか?」
「――いや、何でもない。気を付けて帰るんだよー!」
明らかに顔を凝視していたな。
……そんなに赤髪が珍しいだろうか。それとも、友達だから顔を覚えようとしていたのか……。
「月下さんって、父さんと同級生だったんだって」
「へぇ、そうなのか」
「良く武勇伝の中でも出て来てさ、大体月下さんの話も入ってるんだ。大冒険したんだーって、酔っぱらいながら誇らしげに言うんだよね」
少し気になる。お父さんがどういう冒険をしてきたのか。
自分たちと同じように洞窟を探検したというし、他の場所も勿論歩き回ったことだろう。
国内に留まらず、もしかしたら世界中を旅したのかもしれない。
長くなったっていいから、その話は聞いてみたいな。




