17 さあ、町をたんけ……遭難!?【樹海編1】
時刻はまだ14時だ。夜まではまだまだ時間がある。
もしも夜を少し過ぎたとしても、お父さんがおぼつかない呂律で「夜遅くなる前には帰ってこい」と言っていたので、大して問題ではないのかもしれない。遅くなければいいのだ。
個人的に大問題なのは、セーラー服(?)が濡れてしまって着れないということだ。どうも他の服だと落ち着かないな……。
動きやすくて、世間に出ても違和感がない服装をルイに選んでもらったつもりだ。それでも何だろう、自分にとっては違和感になってしまう。
元々センスが無いのかもしれない。服装に関しても勉強しないとな……。
「具体的に時間を言ってないんだから、21時ぐらいまでは遊んじゃおうよ」
「遊びすぎも良くないが、まあ……少しだけ……」
ああ、夜の風景は見てみたいな。
昨日の夜は外に出なかったし、余計に。
「そうだ、星屑ヶ原行こうよ!」
「星屑ヶ原……? それって……」
昨日、自分が記憶を失ってから初めて目を覚ましたあの時。ルイは自分に、落下した当時のことを詳しく説明してくれた。
その時明らかになった場所の名前が、星屑ヶ原。
不思議なもので、天ノ峰家には存在を否定されたと言っていた。だが歴史書の存在をひた隠しにしている辺り、天ノ峰家には何か裏がありそうなんだよな。
『もし口外するようなら……総力を挙げて止めるから』
ヒカリはそう言っていた。世に出てはいけない情報だからこそ、隠し通そうとしているのだろうか。
……考えたところで仕方がないか。ルイが見つけたのだから本当に存在するのだろう。
夜の少し寒い気温で満天の星空をこの目で見る。しかも、素敵な少年とたった二人っきりで。
とっても素敵じゃないか。夜が今から楽しみだ。
「カレイドスコープも置きっぱなしだし、早く取りに行きたいなあ」
「望遠鏡のことか?」
「そうそう、メルカ語風の呼び方。ちょっとかっこいいでしょ?」
「オイラは望遠鏡呼びの方が好きかなぁ。というかメルカって?」
ここに来て、全く知らない単語が出てきた。
「んえ、えっと、メルカはメルカ。国の名前だよ。通称米国って呼ばれてる」
「……え、アメリカじゃないのか?」
「え、何それ?」
「えっ」
……いや、考えてみたら、逆にそもそもアメリカって何だ? 確かにそういう国があったような感覚があるんだが。
待って、それ以前にどうしてこの星の国を知っている?
ああ、もう。
どうして自分が宇宙人だと納得し始めていた辺りで、こう裏付けし切れないような事柄を思い出すんだよ……。
しかも、それが間違いであると。余計に訳が分からなくなってきた。
これ、一体何なんだ……? 一体、自分は何者なんだ?
「ベガ、もうそんな顔しないって言ったじゃない。悲しい顔のままじゃ、きっと楽しいことも退屈になっちゃうよ」
「……あ、ああ、そうだな。ごめんよ」
「ベガが一番大変なのは分かってるからね。とりあえず、出来るだけ気持ちを紛らわせればいいなって、そう思うんだ」
本当に……なんて良い子なんだろう。
どうして恥ずかしがらずに優しい言葉を言えるんだろうな。
自分には到底できない。恥ずかしくって。
『ルイ、大丈夫か? オイラがついてるぞ』
なんて……。
いやいやいや!! 違う違う!! そういうのじゃなくてだな……。
「ベガ~? 行くよー」
「ほぇ……? あ、ああ!!」
「待ってろよぉ~僕のカレイドスコープー!!」
「迷ったあああああああ!!」
ルイによれば樹海のとある場所を抜けたら一本道が続き、そこを歩けば直ぐに星屑ヶ原が見えてくるらしかった。
だが、そのとある場所を抜けても一本道なんて有りはしない。見るからにもう入ったら出て来ることが出来ないような、そんな場所であるにも関わらずルイは「真っすぐ行けば大丈夫……きっと大丈夫……」などとのたまった。だからそれを信じて進んでいったのだけど……見事に。本当に見事なまでに迷ってくれた。
戻ろうとしばらく反対方向を歩いてみたものの、最初に来た道に戻る気配は全く無かった。恐らく歩いている内に角度がずれていったのだろう。
「どうするんだよこの状況……」
「……ごめん」
自分とて流石にこの状況は怒りたくもなる。だが、静止しなかった自分も悪い。
露骨に「迷いますよ」と身を以て警告している場所が目の前にあったにも関わらず、ルイに注意をせず受動的に進んでいってしまったのだ。自分にも間違いなく非が有る。
それにルイは涙目だ。自分にはこんなに悲しそうにしている彼を叱ることは出来ない。
「おかしいよ。どうして、どうして迷っちゃうの。小さい頃から何度か星屑ヶ原には行っていた。その通りのルートを辿っただけのはずなのに……こないだといい、今回といい……」
自分と出会ったのがその星屑ヶ原で、それがおよそ二日前。
たった二日間で木々か急激に成長し、道を塞ぐなんてことはあり得ない。
ならば、一体どうして、星屑ヶ原へ行けなくなった……?
ああ……今だけはフェーリエントが居ないことが悔やまれる。彼女なら何か知っていることがあったかもしれないのに。それに、彼女が居れば割と直ぐに出られたような気がするのだ。
一つ閃いたのが、彼女が自身の周波数をコントロールすること。人間に見えているものをあえて見えなくして、樹海の先を見渡すというものだ。そういった方法が使えたなら、もしかしたら樹海の出口が見つかったかもしれない。
本当にそんなことが可能なのかは知る由も無いが、神様なんだし出来そうではあるよな……。
そんなことを閃いた所で、彼女がこの場に居ない以上は実行に移せないのだが。
じわりじわりと、時間が明るさを奪って行く。
早くしないと日が暮れてしまう。
どうすればいい。自分には一体何が出来る……?
黙っていても事は進まない。二人で意を決して、また移動を始めることにした。




