ボンスタ(三) -新たなる大地-
いよいよ、いよいよ…か?
ぎゅうぎゅうの満員電車が行くのを見送る。いつもより早く起きたがすることがないと駅まで来たが、さすがに、あれには乗れない。
ホームからは一時的に人が減ったため、空いたベンチに座る。
スマホを取り出し起動したのは『モンスタースカッド』。最近よく遊ぶ暇潰し系のゲームだ。
最大6枠のパーティ(ゲーム内ではスカッド)を組み、ただただ並んで敵に突き進むだけのゲームだ。
登場するモンスターに固定の職業はないが育ちやすい資質はある。
先頭に配置するのは体力系や防御系のタンクかパワー系の近接戦闘員。後ろには槍だったり鞭だったり、種族特性の毛針など中距離を戦えるモンスター。真ん中にはヒーラーなど回復補助系を配置。その後ろには弓や魔法の遠距離攻撃可能なモンスターや、位置取り自由なシーフ系スキルを持つものだったり予備タンクを配置する。
最初こそモンスターが居なくてクリアは難しいが、攻撃やスキルを使う度、攻撃を受ける度にステータスゲージが伸びていくのでわりとすぐに戦える。
パーセント表示はないのだが、満タンになるとモンスターから上がった資質(力、耐性、スキル練度など)にあわせた色のオーラが沸き上がり、ステータスが1上がる。
低レベルのモンスターは見てる間にポンポン上がるので眺めてるだけで楽しい。
モンスターの成長は、力や命中率、スキル練度は攻撃やスキルが成功する度に上がるが、耐性は攻撃を受ける度、かしこさはまだ謎仕様でなかなか上げづらい。すばやさにいたっては攻撃をかわす度とあって、避けタンクを目指そうにも序盤に体力は必須だ。
命中率については上げていくと二連攻撃になるという話もあるがまだ見たことがない。
今使っているモンスターは、
先頭に【索敵】を持ったウルフ型のケイブウルフ。
初日に手に入れた【索敵】持ちウルフ。当初は避けタンクを目指していたが仕様を知って諦めレベルを上げることで体力が伸びている。攻撃も体力も高くはないが、【索敵】スキルで高レベダンジョンでも戦闘を回避しながら進むこともできる。
次にロックウォール。ただの岩壁なモンスター。高さがあるため後続への攻撃を防ぐ。ただし後続は【遠視】や【鷹の目】などのスキル持ちの攻撃か、【百中】のようなロックオンスキルを使った魔法などでないと攻撃が出来ない。それにしても、どうやって移動してるのかは謎だ。
三枚目には【ヒール】を持ったシャドーフェアリー。闇系なのにヒールってのが気に入っている。最初にロックウォールを伏せさせて【ナイトカーテン】を使うのがお気に入りの戦い方。
ふふふ、【ナイトカーテン】こそ望んだスキルだった。相手は暗闇に捕われ攻撃の命中率が下がる。ということは、先頭のケイブウルフは避けを繰り返すことができ、今ではすばやさはメキメキ上がっている。
四枚目には【ぬすむ】と【お宝のにおい】を持ったカーバンクル。【ぬすむ】は戦闘中、どの位置からでも敵に近付きゴールドだったりアイテムをぬすむ。成功率は不明だがすばやさが関係してるのではと噂されている。【お宝のにおい】は壁だったり地面だったり、なにもないようなところでもスキルを使うとまれにアイテムが見付かる。ほんとにまれ。
五枚目は一番の火力を持つフレイムエレメント。ウルフの体力が危なくなったら【フレイムサイクロン】一撃で終わらせる。普段は【火属エンチャ】で火属攻撃と火耐性アップを支援している。
六枚目は、
いない。…フレンド枠だから。
ほら、まだ出たばかりだし。…既に正式サービスから一ヶ月。
傭兵システムから連れ出せるモンスターは最大4枠。スカッドコードから申請するか、エリア検索で自分の住む地域の人にフレンド申請を行い、そのフレンドのモンスターを雇うことが可能になる。
フレンド枠の最大は40。課金で上げることも可能。
出遅れたのもあるが、今さら弱小部隊ではお相手にならないのか、5通のフレンド申請は返答なく、日を改めてさらに5通出しての無反応に心が折れた。
都会に出てきたばかりの冬は、ゲームでも冷たかった。
ぼ、ぼぼぼっちじゃねーし。
避けタンクを目指している為攻撃がウルフとエレメントしかいないので、ほどほどのダンジョンをまわっている。ダンジョンと言っても、背景は草原だったり湖のほとりだったり、地下墓地だったり様々。
ただし移動は迷路だ。スタートとゴールは最初に分かるが初めての場合は黒く塗り潰されている。
二周目以降マップが表示され、【索敵】持ちなら敵アイコンを回避しながら進めることができる。
マップを見ながら左右どちらかの親指で移動させる。
二周目以降のダンジョンは入ると自動で歩くので放置プレイも可能。ただ曲がり角の度に止まるし最短ルートを選ぶわけでもないので進行は遅い。
また、作戦も『いのちだいじに』などはない為、死亡の可能性もある。モンスターが死亡すると、そのダンジョン内では【蘇生】の魔法やアイテムがないと復活できない。また、ダンジョンの外では再召喚可能になるが、ステータスゲージが10%のマイナスにされる。
全滅した場合は全モンスターがこのデスペナな上、所持金も5〜30%、ランダムで落とすことになる。
そして新しい電車が来た。少なくとも乗車中の時間で全滅しないダンジョンに入り放置モードでスマホを内ポケットにしまう。
いつもの通勤時間にはまだ少し早いが他人に触れなければならない程じゃない。電車に乗り込み、入ってすぐの手摺の位置にもたれかかり目を瞑る。
ノイズキャンセラの付いてないイヤホンでまわりの音を多少消して最寄り駅への到着を待つ。
途中ダンジョンクリアに震えるバイブにスマホを取り出す。次のダンジョンを選ぼうとするも、アップデートが必要と、一度タイトルに戻って更新開始。
再度目を閉じてしばらくすると…
茶色い粘土か古ぼけた紙か。そんなのを背景に、粘土にヘラでつついたような穴。
斜めだったり三角だったりダイヤだったり…これは文字か?
よく分からないものが下から上に流れていく。
目を開こうとするも思うだけで、目は、閉じたまま意識は文字を追っていく。
文字が流れ終り、瞼を開くと…
湖のほとりだった。
えっ?へっ?なに?
海と呼ぶには穏やかで池と呼ぶには広大な水面には、雲一つない青い空と…数千メートル級の山々が反射していた。
どこ?ここ?
ふと我に返り辺りを見回すも誰もいない。
湖と、その奥に連なる山脈と、ただ緑に染まった大地だけだった。
膝を前に出すだけの足取りは重く、ザッザッザッと水辺の土埃を巻き上げる。
ピチャン
両手を突っ込み膝をつく。orzの形で水面ギリギリに映る自分の顔を見る。
なにも変わったところはない。
ザブン
そのまま顔を突っ込み目を覚まそうとするが、
ボトン
内ポケットにあったスマホは水の中に。
「うわっ!ちょっ!」少し先に落ちた為、膝歩きで一、二歩。すっかり膝周りが濡れるも回収。
防水仕様のスマホは無事のようだ。
アップデートも終わっているようでいつものタイトル画面が写し出されていた。
ただそこに不穏な文字が。
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ようこそ、タケルさん
新たなる大地、エナカリマへ
OK
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いやいやいや、ないないない。
…でもタイミング良すぎるか。
つまり、そういうこと?ゲームの世界?
「OK」ボタンを押してタイトルからログインするとスカッド画面には6つの空の枠、本来居るべきモンスターが居なかった。
点滅する傭兵アイコンを選ぶと、さらにフレンド検索が光る。
エリアの中にあるのは見慣れた日本の都市名ではなく『エナカリマ』の文字だった。
どうやらほんとにゲームの中みたいだ。
やだ、なにそれ、こわい。
二人目の主人公、タケル登場。
ゲームの説明はできたけど進まないストーリーは仕様。
廃プレイヤーでもないみたい。
次こそ、異世界からスタートだ!
なお更新予定は未定です。




