第六話 アリスが刑事になったわけ
家に久々に早く帰った。課長には怒られたけど、始末書までは書かずに済んだから。
「ただいま」
誰もいないと思いながらも声が出る。
「おかえり!」
声が二階から聞こえてくる。え!?
「類帰ってたの?」
兄の類が降りてくる。失敗したこの半年なんとかやってきたのに、やりきれない事件に体も心も休みを求めていた。
「帰ってるよ。いつも。アリス毎日遅いんだから」
………
この半年に溜まっていた、ううん、もっとずっと前から押さえ込んでいた思いが吹き出す。
「わざと…」
「え?」
「わざと毎日遅くなる忙しい仕事選んだのに!こんなに離れてれば大丈夫だって、そう思ったのに」
私はその場にしゃがみ込んだ。ずっと、ずっと抱え込んでた思いが溢れ出す。ああ、もうダメだ。事件のせいだ。理不尽な事件の。
「アリス…」
類は近寄ってくる。来ないで、近くにっ。類は私のそばでしゃがみ込む。
いつも類は類だけ平気そうだな。昔の類を思い描く。
「類は平気なんだよね。もう昔の事なんだから」
「アリス、俺は…」
「いいよ。昔昔のお話だよね。そう鏡野類になる前の、柏木類の頃の事だもんね。中学生の柏木類」
昔の類を思い出す。そして、あの日父に会わされたんだ。付き合ってた柏木類とその母親に。私達は言えなかった。付き合ってるなんて。その一言がなかったことが、こんなにも苦しい日々を私に与えるなんて。
「アリスまだ俺のこと…」
やっぱり類には昔話なんだよね。
「いい。気にしない。疲れてるの。もう寝るね。」
立ち上がり類の横通り過ぎる。
「アリス!」
「さっきの私は忘れて!」
階段を駆け上がり部屋に入る。
類は私の部屋の前で何か考えていたんだろう。しばらくして自分の部屋へと入って行った。
*
ベットに横になる。全く寝れない。お腹空いたなー。あ、忘れてた翼のこと。
救いを求めるように翼に電話する。翼はまたいとこ。年が二つ上と高校、大学と同じだっから、それと翼といると楽だったので昔から仲がよかった。翼が医者になってからは忙しくって連絡をとっていなかった。今いけるかな?できればこの家から出たいという期待を込めて、呼び出し音を聞く。無理かな、と諦めた時。
「アリスどうした?」
翼の声がする。なんか懐かしい。類と会わないようによく翼といたな、そういえば。
「あー、と。華音に怒られちゃって」
「はあ?華音?帰って来てるの?」
「うん。それより、今から空いてる?お腹減ったー!」
昔のように言ってみる。何故か翼には言える。
「ああ、わかった。迎えに行くよ」
「うん。じゃあ、着いたら電話して」
「わかった30分ぐらいだから、用意しとけよ」
「はーい」
相変わらず翼は優しいな。さて、もう一度着替える。メイクもそのままだったし、良かった。時間も時間だし泊まる用意しとこう。
昔もよく翼の家に泊まったな。類と同じ家が嫌で。
高校に入って類と兄妹になった。父に紹介されてすぐに類に別れを告げられた。でも、私は想い続けた。いや、変えれなかった気持ちを。
翼のところに逃げていたけど。翼が医者になり逃げ場がなくなり刑事の道を選んだ。逃げてばっかりだな私。
遠い記憶を思い返してまた苦い気持ちが蘇る。
*
携帯がなる、翼だ。
部屋を出るとすぐに類が出てきた。
「アリス?」
「翼に話があるから翼と話してくる。あ、っと。帰らないでそのまま仕事いくかも。いってきます」
一気に話して階段を駆け下りる。
後ろから類の声がする。
「いってらっしゃい」
その言葉にホッとすると同時にガッカリする。さっきのはなかったことのようだな。




