やさしい手
「ごめんなさい」
ベッドの上に舞い戻ってしまったニコラは、毛布を目深くかぶって、側で控えていたアイラに呟く。
アイラは持っていた水差しを置いて、ニコラの額にあるタオルを冷えた物に取り替えてくれた。
熱が高いようで、油断すると混濁する意識に飲み込まれそうだった。
「ゆっくりやっていきましょうね、今はお休みください」
アイラはそれだけ言うと静かに部屋を出て行った。
王宮に来て二日目、寝てばかりいる自分に呆れながら、襲ってくる睡魔と疲労感に耐え切れずニコラは再びその瞳を閉じた。
ふと、意識を取り戻したニコラは、自分の頭を撫でている暖かい手に気付く。
瞼はまだ重く、うっすらと開けた瞳には暗がりが映る。
いつの間にか夜になっていたようだ。
その手はニコラが目覚めた気配に気付いた様子もなく、そのまま頭を撫でてくれていた。
触れるか触れないかのその手はあまりにも心地よく暖かい。
――ああ、アイラが様子を見に来てくれたのですね。
おぼろげな意識の中でニコラはわずかに微笑んだ。
小さい頃から眠っているニコラの頭を撫でてくれるこの暖かい手が大好きだった。
そして、こうやって撫でてもらった翌朝は非常に調子がいい。
小さい頃に毎日して欲しいとアイラにねだったことがあるが、アイラには「何のことですか?」と白を切られてしまった。甘やかしてはくれないらしい。
成長するにつれそんなこともなくなってきたが、それでも本当に時々、ニコラの体調がすこぶる悪い時には、今でもこうして夜中に頭を撫でにきてくれる。
目を開けるとそれが終わってしまいそうで、ニコラはこの時気付いても気付かない振りをすることにしていた。
――ありがとう。
言葉に出せないそれを何度も唱えながら、ニコラはまたまどろみに落ちていった。