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第1話 邂逅

【登場人物紹介】

ミナト 17歳。現代日本で一度死に、この世界に転生してきた。

アリス 見た目は10歳程度に見えるが、実年齢は不明。銀髪の少女の姿をしている。冒険者ギルドの創設者であり、世界最初で最強の冒険者と謳われる。

ミナトが目を開けると、そこは薄暗い部屋の一角であった。


まだぼんやりとする頭のまま、眼球だけで辺りを見回すと、この部屋はそれほど広くなく、コンクリートのような無機質な壁は所々崩れているということが分かった。

今自分が横たわっているベッドは硬く、寝ていると逆に疲れが溜まりそうだ。


ミナトは混乱した。あれ、さっきトラックに轢かれて死んだはずじゃ?

それより、ここはどこだ?病院?助かったのか?それにしては、天井の蛍光灯はそのほとんどが切れてしまっており、廃墟のようだ。自分が意識を失っている最中に、大災害でも起こったのだろうか?


まだ眠い目を擦ろうと腕を上げるが、何かに引っ掛かって動かせない。


「これは……?」


見ると腕には無数の点滴の管のようなものが刺さっており、管の先は自分が横たわっているベッドの横の機械につながれていて動かせそうにない。これで栄養を補給していたのか……?


「気がついた?」

「うわっ」


突然声を掛けられ、思わず声が出てしまった。

声の主は銀色の髪をした少女であり、顔には笑みを浮かべていた。歳は……10歳くらいだろうか。


「初めまして、私はアリス。近くにある冒険者ギルドのマスターをやっているわ」

「ぼ、僕は高橋ミナト……って、冒険者ギルド?」


生前、ネット小説などでよく耳にしたファンタジックな単語だった。ミナトはさらに混乱した。もしかすると自分が今いる世界は、いわゆる異世界というやつで、剣とか魔法のファンタジーな世界で――


……荒唐無稽な話だ。有り得ない。

きっと自分は今、死後の世界で馬鹿らしい夢でも見ているのだろう。


「そうよ。今、世界中に出現したダンジョンから魔物が溢れて人類は危機に陥っているの。魔物を討伐して人類を守るのが、私たちの役目」

「そ、そっか……」


ミナトは呆れた。余りに出来過ぎている。異世界ファンタジー小説の世界観そのものだ。

こんな恥ずかしい妄想みたいな夢なら、早く覚めて地獄にでも行かせてくれ。

そう思い、ミナトは自分の頬をつねる。すると、反対側の頬をアリスにつねられた。


「むぐ!?」


あまりに突然の暴力に成す術なく、そこにアリスが薄ら笑いを浮かべながら顔を詰め寄らせてくる。


「夢じゃないわよ。これは現実。あなたは一度死に、転生したの」


アリスの口角は上がっているが、その目は死んでいる。黒々とした瞳は深い海の底のようで、得体の知れないものを見てしまったかのような、根源的な恐怖を感じさせた。


「あの、色々聞きたいことはあるんですけど……まずアリスさんは、どうしてこんな所に?この建物すっごいボロボロで危ないよ。」

「さっきも言ったけど、私は冒険者ギルドのマスターよ。あなたを助けるためにここに来たの」


そう言うとアリスは頬をつまむ力を強めた。


「イテッ!?」

「だから私のギルドに来てほしい。私の召使いとしてね♡ それと私のことは、マスターと呼ぶように」

「えっ……は、はい……」


ウィンクするアリスに対し、ミナトはただ頷くしかなかった。


「まあ、いいわ。その右腕に刺さってる点滴も抜いちゃうわね」


すると徐にアリスは点滴の管をつかみ、引き抜いた。その瞬間から、病み上がりのようにどっと体が重くなった。ミナトは管の先端についた太く長い針を見ながら冷や汗をかいた。


「よくやったわ!痛みに強いのね♡」

「は、はぁ……」


力任せに引き抜いたその傷口からは出血が止まらなかった。ミナトが苦痛に顔を歪めると、アリスが傷に向けて手をかざした。みるみるうちに傷が治っていく。これが魔法か……


「すごい……ありがとうございます」

「さあ、早く行くわよ。ここはダンジョンの最下層だから、1階までワープしましょう」


次の瞬間、二人の体が淡い光に包まれたかと思うと、一瞬の後にミナトは太陽の日差しに照らされた。ダンジョンの壁が一部崩壊しており、そこから光が漏れているのであった。


光が差し込み、ダンジョン内部の様子も先ほどに比べるとよく見えるようになった。近くには光を失った非常口マークも見える。あれが出口に違いない!


「あれ、アリスさん……いや、マスター?」


ここでミナトは、アリスの姿が見えないことに気づく。

さらに運の悪いことに、出口の前に、屈強な体格をした二足歩行の牛のような生物――ミノタウロスだろうか――が待ち構えており、ミナトはばったりと目を合わせてしまった。


なんでこんな浅い階層に強い魔物が……!?というお決まりの流れに笑う余裕もなく、数秒間、目線を合わせたまま互いに沈黙が続く。殺される!と思ったが、相手の反応は予想に反したものだった。ミノタウロスはミナトの顔を二度見した後、視線を逸らし、出口から離れて部屋の奥へと消えていったのだ。


「えっ……?」

ミナトは戸惑ったが、ミノタウロスの姿が見えなくなったのを確認すると、慎重に出口へと進み、扉を開けた。


「無事に出られたのね」


扉を開けると、アリスが日傘を差しながらスマホで自撮りをしていた。


「あの、いつからそこに」

「魔物の気配を察知したから、先にワープで外に出ていたの」


彼女は当然のように言い放つと、手にしていたスマホと日傘を虚空へと放り投げた。それらは何処かへと吸収されるように霧散し、跡形もなく消えてしまった。


「さあ、私の冒険者ギルドに行きましょう。飛んで行けばすぐよ。私に掴まって」


……ミナトがアリスの腕を掴んだ次の瞬間、亜音速の風が吹き抜けた。

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