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クレーム転生   作者: つきゆかり
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第七章:聖剣(物理)になった女神

さわやかな風が青々とした草原を吹き抜け、名も知らぬ野花の香りを運んでくる。


俺、佐藤誠は、RPGの序盤で最もよく見かけるような「はじまりの村」の入り口に立っていた。

装備しているのは、防御力ゼロの粗末な布の服。背中には、数枚の銅貨と石のように硬い保存食が入ったボロボロの小さなリュックを背負っている。


そして俺の腰には、地味な革の鞘に収められた一振りの「鉄の剣」がぶら下がっていた。

鞘は少し年季が入っているが、意外と頑丈そうだ。


頭上には抜けるような青空、遠くには中世風の風車とレンガ造りの家々が見える。

すべてが平和で、すべてが王道そのものだった。


――俺の脳内で、発狂したような絶叫が響き渡っていること以外は。


(ウソでしょ!絶対ウソですよね!?なんでこんなことになってるんですかぁぁぁっ!)


その声は甲高く、絶望に満ちており、俺の脳神経に直接、ステレオで響き渡っていた。


(おかしいですーーっ!なんで私まで一緒に転生させられてるんですか!しかもなんで、この暗くて狭い鞘の中に詰め込まれて、「剣」になっちゃってるんですかぁぁぁ!!!)


俺はガンガン響く絶叫を頭から追い出そうと、苦痛に顔をゆがめてこめかみを揉んだ。


時間は10分前、天界転生管理事務所・第三支部のオフィスルームへとさかのぼる。


ルシアンによるあの破滅的な「ヤクザ鎮圧」を食らった後、俺は震える手で、光り輝く[封印指定・ランダムガチャチート]の転生許可証にハンコを押した。


指紋が羊皮紙に触れた瞬間、部屋の中央にまばゆい転送陣の白い光が浮かび上がった。


その時だ。

脇で黙々とせんべいをかじっていたレジス主任がニコニコと立ち上がり、床に正座したままのリリアの前に歩み寄った。そして、お年玉をあげるおじいちゃんのように優しい声で言ったのだ。


「いやはやリリアくん。キミは今回の案件に『非常〜に』尽力してくれたね。

その労をねぎらい、早く現場の業務に慣れてもらうため、ワシの主任特別権限で、この書類の『同行案内人 兼 連帯保証人』の欄に、キミの名前を追加しておいたよ」


「……えっ?」

リリアはポカンと顔を上げた。


レジス主任は、手慣れた様子で甘い言葉エサを並べ続けた。


「これはめったにない『異世界の実地調査および労働安全評価』の研修チャンスだよ!

キミが佐藤さんを無事にクリアに導いて帰ってきたら、すぐに正社員登用のハンコを押してあげよう!乙級への昇格はもちろん、給料も20%アップだ!

行っておいで若者よ、多次元宇宙の平和はキミに託された!」


「ま、待ってください!主任、私、荷物もまとめてないし、護身術だって……わああぁぁっ!」


抗議する間も与えられず。

リリアは「昇給と正社員化」という甘い言葉と、極度のパニックに包まれたまま、急激に膨張する転送陣の光に俺と一緒に飲み込まれた。


光が俺たちを完全に飲み込む直前の1秒。

オフィスからこんな会話がかすかに聞こえた気がした。


金縁メガネをクイッと押し上げたルシアンが、誰もいなくなった転送陣を見つめながら、淡々と言った。


「さすがは主任、老練な手腕ですね。苦労することなく、一度に『ふたつの厄介払い』が完了しました」


レジス主任はお茶をズズッとすすり、隠しきれない喜びを含んだ声で答えた。


「いやいや、それほどでも。上が『新人の教育は上司の義務』なんて面倒なルールを作るからいかんのだ。あの二匹は異世界に放り込んで、現地の生態系を乱してもらったほうがよっぽど『エコ』というものだよ。

ところでルシアンくん、魔界からどんなお土産を買ってきたんだい?二人で山分けしようじゃないか……」


……。


回想終了。

俺ははじまりの村の土の道に立ち、腰で微弱な青い光を放ちながら、脳内でずっと愚痴をこぼし続けている「鉄の剣」を見つめ、深いため息をついた。


「わめくな」

俺はイラッとして鞘をポンポンと叩いた。

「お前、女神なんだろ?天界に直接連絡とれないのか?」


(あっ、そうでした!)

リリアの声が急に元気になった。

(佐藤さん、剣の柄を握ってください!今の私の魂の入れ物はこの剣なので、触れてもらえれば天界の内線に直通ダイレクトでつながります!)


言われた通り、俺は剣の柄をギュッと握りしめた。


『プルルルル……ガチャッ』


なんと、脳内に本当に電話がつながる音が響き、続いてあの人をイラつかせるレジス主任のダルそうな声が聞こえてきた。


『はい、こちらレジス。神聖保険の勧誘なら切りますよ』


(主任!私です!リリアです!)

リリアは命綱をつかんだように、心の中で絶叫した。

(なんで私が剣になってるんですか!実地調査って言いましたよね!?人間の姿に戻してください!この鞘の中、真っ暗で怖いんですぅ!)


『おや、リリアくんか』

レジス主任の声には一切の感情がなく、まるで用意されたセリフを棒読みしているようだった。

『キミも知っての通り、高位の神が下界でうかつに真の姿を現せば、信仰の混乱と生態系の破壊を招く。キミの魂のデータを初期装備の武器に圧縮したのは、すべて異世界の秩序を守るためだよ』


(ウソつけーっ!私が実体化するための経費の申請書を書くのが面倒くさかっただけでしょうが!

しかも、なんで村の鍛冶屋すら見向きもしないような『ボロい鉄の剣』なんですか!せめて聖剣エクスカリバーくらいにしてくれたって……)


『おっと、次元をまたぐローミング通話料は高いからね、なんだか電波が悪いようだ。もしもし?もしもし?

まぁそういうわけで、実地研修よろしく頼んだよ。定期的に観察レポートを提出すること。じゃあね〜』


(待って!主任!このハゲーッ!)


「プーッ、プーッ、プーッ……」


無情にも、通信は一方的に切断された。


……静寂。


およそ5秒後、俺の脳内でかつてない規模の超大地震が起きた。


(あのクソハゲ古ダヌキ!給料ドロボウ!三万歳の老害!絶対わざとだ!何が実地調査ですか、完全に私を『枯れた観葉植物』と一緒に粗大ゴミとして捨てただけじゃないですかぁ!

ああああムカつくムカつく!天界に帰ったら絶対に最高神評議会にパワハラで訴えてやる!あいつの高山茶に強力な下剤を盛ってやる!残ってる髪の毛を全部むしり取ってやるぅぅ!!)


俺は心の中で響き渡る、息継ぎなしの、元気いっぱいで毒に満ちたそのマシンガン・クレームを聞いて、完全に呆然としていた。


「おい」

俺は心の中で静かにツッコミを入れた。

「お前、さっきオフィスにいた時は、ウズラみたいにガタガタ震えてどもってたじゃねえか。なんで今は息継ぎもせずにスラスラと暴言が吐けるんだ?お前の『コミュ障』はどうした?」


(う、うるさいですね!)

リリアの声が一瞬だけ詰まったが、すぐに堂々と反論してきた。


(あれは『対人恐怖症』です!他人の目を見ると緊張してどもっちゃうんです!

でも今の私は剣です!実体がありません!誰とも目を合わせる必要がありません!この純粋なテレパシー(脳内チャット)は、50年間ぼっちだったコミュ障の私にとって、究極の『安全地帯』なんですよ!

今の私は、無敵の『ネット弁慶』状態なんです!!)


なるほど。

肉体という縛りがなくなったことで、こいつの奥底に眠っていた「おしゃべり&ツッコミ狂」の裏の人格が完全に覚醒したのか。

これぞまさに伝説の、「リアルでは陰キャ、ネットではイキリ」の究極体じゃないか!


「……まあいい、毒を食らわば皿までだ。とにかく転生には成功したんだ」

俺の社畜特有の適応力がここで発揮された。俺はポンと鞘を叩いた

(リリアから『気安く触らないで!』と抗議が来た)後、言った。


「どっちにしろ、俺たちは同じ船に乗った運命共同体だ。あの金髪ヤクザが【封印指定・ランダムガチャチート】ってのをくれただろ?まずはその中身を確認しようぜ」


(あ、そうでした!ルシアン先輩がくれた特権アイテム!)

リリアはすぐに元気を取り戻した。


(ガチャなら、超レアなスキルがいくつか入ってるはずです!今はまきを割っても刃こぼれしそうな「ただの鉄の剣」な私ですけど、ガチャの中に『聖剣覚醒』みたいなスキルがあって、アップデートされるかもしれません!早くステータス画面を開いてください!)


俺が心の中で「システムウィンドウ」と念じると、目の前に俺にしか見えない半透明のウィンドウがパッと浮かび上がった。


ウィンドウの中央には、神秘的な金色の光を放つ「?」マークのアイコンが5つ、静かに並んでいる。

これが俺たちの「5連ガチャ」だ。


「スキル5個か……太っ腹じゃねえか」

俺は両手をこすり合わせ、ガチャ魂を激しく燃やした。

「どんな世界を滅ぼす大技が出るか楽しみだな。よっしゃ!まずは1連目!」


俺は深呼吸をして、念動力で最初の「?」マークをタップした。


『ピロリンッ!』


大げさなほどに派手な黄金の光が走り、天使が舞い降りるようなエピックな効果音とともに、1つ目のガチャがゆっくりと開いた。

そこから、SSR級の赤い光を放つスキルカードがフワリと浮かび上がった。


【システム通知:特殊魔法スキルを獲得しました!】


「おおおっ!初手から魔法スキル!『地獄の業火』か!?それとも『終末の隕石メテオ』か!?」

俺は興奮して叫んだ。35年間の不運が、ついにこの瞬間ひっくり返ったような気がした。


(やりましたね!早くスキルの説明を読んでください!やっぱり先輩は私たちを騙したりしませんでした!)

リリアも俺の脳内で一緒に歓声をあげた。


俺は期待に胸を膨らませて目をこらし、カードに書かれたスキルの説明文を大声で読み上げた。


【スキル名:指先から火(プレミアム版)】

【スキルレベル:強化不可】

【スキル説明:最高温度はコンビニで売っている100円のターボライターと同等。持続時間は5秒間。】

【備考:ルシアン実習主任からの特別メッセージ――「これはレジス主任があなたにお約束した実用的なスキルです。キャンプに行かれる際は火の元に十分ご注意ください。お礼は結構です」】


「……」


さわやかな風が、再び青々とした草原を吹き抜けた。


はじまりの村の入り口は、死んだような静寂に包まれた。


(……)


「……」


(……佐藤さん)


「……なんだよ」


(私を抜いて、そこの岩に向かって思いっきり振り下ろしてください。私、自分で自分をへし折りたいです。もうこの世界で生きていきたくありません)


リリアの声は、生気を完全に失った、虚無の響きだった。


「俺が生きていきたいと思ってるように見えるかぁぁぁっ!!!」


俺は自分の髪をかきむしり、異世界の抜けるような青空に向かって、絶望と怒りに満ちた野獣の咆哮を放った。


「あの天界のクソ官僚どもォォォ!さんざん引っかき回しといて、結局くれたのはライターじゃねえかぁぁぁぁぁーーっ!!!」

読まなくても全く問題ない裏設定


第三支部の業績があまりにもヒドいため、天界のトップである最高神評議会から、『管理職は自ら新人の指導にあたること』という厳しい通達が出されている。


実はルシアンを除いて、第1章の会議に登場した職員たちは全員、レジス主任が直接教え込んだ教え子たちである。

だからこそ、彼らの性格は全員もれなく主任に似てしまったのだ。


本章の「プレミアム版ライター」の一件をもって。

リリアの心の中にあったルシアン先輩への「パーフェクトで素敵な憧れ」は、見事に粉々となって宇宙のチリと消えた。


ルシアンが魔界の出張から持ち帰り、主任と山分けしていたお土産。

それは『地獄湯』という名の、魔界特産の茶葉である。


レジス主任が愛する台湾高山茶ではないが、その風味は極めて独特。

口に入れた瞬間は甘いが、後から強烈な苦味が襲ってくる。


飲んだ後は例外なく「不機嫌」になるのだが……しばらくすると、なぜか無性に「もう一杯淹れようかな……」とクセになってしまう、恐ろしい魔の飲み物なのだ。


ちなみに、はるか昔に魔王サタンが自ら品種改良して作り出した、由緒正しき銘茶である

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