九章 めらめら
読んでくれてありがとう。
戦闘シーンが苦手なので、温かい目で読んでください。
先に謝っておこう。喧嘩慣れした私でも、この戦いを事細かに説明することは不可能だ。なので、私の見えたままに書き綴ろう。
神様が爪をむき出しながら、神主に飛びかかると、神主はひらりとまるで羽でも生えているかのように宙を舞い、ふわっと音もたてずに着地した。空を裂いた神様の爪は、参道に深く傷をつけた。神様はブルブルと体を振り、キッと神主をにらみつけた。神主は涼しい顔で神様を見つめている。
その瞬間、私のスマホからけたたましい音が、静かな境内に鳴り響いた。聞いたことはあるけど、聞きなじみのない不協和音。私はさっとスマホを取り出し、画面を見つめる。
『岩手県で地震発生 震度六弱』
どうやら、地震速報だったらしい。神様の攻撃で全く気が付かなかったが、ここ東京も揺れたらしい。六弱って、結構大きい地震じゃなかったか?授業受けてないから知らないけど。
そんなことを考えていて、神様と神主に気を向けてなかったその時、神様が遠吠えをした後、再び神主に飛びかかった。今度は、神主は避けることをせず、大幣を小さく振った。小さく振ったのに、想像以上の大きな風が吹き、神様と本殿の右にある神木の葉っぱを吹き飛ばした。神様は私の隣まで転がり、危うく鳥居から飛び出すところだった。鳥居に体をぶつけ、神様はガウッと痛そうな声を上げたが、それでもよろよろと立ち上がった。
「攻撃パターンはそれだけか?」
神様は、神主の煽りに耐えられなかったらしい。
「ガオオオオッ!」
神様は鼓膜を破るほどの大声を空に向けて放った。その次の瞬間、神様の巨躯を空から降り注いだ青白い炎が囲う。しばらくの後、神様は変化した姿で神主をにらんでいた。
口の端からは先ほどの青白い炎が漏れており、尻尾と耳、背中の毛はその炎で燃えている。四肢は火種がちらちらと燃えていた。
「やっと姿を現したな、悪鬼よ!」
神主が、興奮気味にそう呟いた。その後、神主は大幣を投げ捨て、鏡を取り出した。あれは、東猫神社の本殿で見たことがある。鈴が、「あれは神鏡だよ」と教えてくれた。東猫神社の神鏡は水色で、所々に銀色の文様があった。しかし、神主の持つ神鏡は正反対で、全体的に赤く、同じところに金色の文様があった。
神様が吠えるように炎を吐き出すと、神主はその神鏡で跳ね返した。反射した炎は神様に向かってまっすぐ進み、神様に攻撃した。オウンゴールを決めた神様は、再び鳥居に体をぶつけて倒れた。戦い慣れてないのか。
また、地震速報が鳴り響いた。スマホの画面を一瞥すると、『福島県で震度五強』と書いてあった。また神様の起こした振動で気が付かなかったが、東京もさっきよりも揺れたらしい。
なんで、こんなに地震が起きてるんだ?
疑問を頭に浮かべていると、神主が起き上がらない神様を見てにやりと笑いながら、私に話しかけた。
「なんで地震が起きてるのかって、考えているだろう?」
私は何も言わずに頷いた。神主は一歩一歩倒れている神様に歩み寄りながら口を開いた。
「簡単な話だ。こいつが暴れているせいで、あちらこちらで地震が起きてる。こいつは悪鬼だ。完全な神じゃない。だから私がこいつを___」
神様まであと数歩、というところまで神主が来たその時、神様は目にも留まらぬ速さで神主に飛びかかった。油断していた神主は、そのまま神様の下敷きになった。神主は大幣を探しているようだが、先ほど自分が投げ捨てたことを思い出したらしい。チッと私にも聞こえるほどの大きな舌打ちをした後に、懐から長方形の紙を一枚取り出した。言語なのかわからない言葉を叫びながら、神様の顎下に張り付けた。その紙は神様にくっつくと同時に、赤く燃え上がった。その炎に覆われた神様は、飛び上がり、本殿の前まで移動した。苦しそうに顎を掻きむしっている。
「はあ…。悪鬼が調子に乗るなよ」
憎しみを通り越して、呪いを含んだ神主の言葉は、私の肌を冷たいものとなって流れ落ちた。
神様が、死んでしまう。
私はそう直感で思い、神様の方へ全速力で走り寄った。暴れる神様から、あの紙を探そうとした。しかし、燃え盛る神様の体はとても熱くて、近寄れなかった。私がおどおどしていると、その間も神様はもがき苦しみ続ける。無力である私は、何もできずにただただ佇むことしかできなかった。
「どけ」
背後から、神主の冷たい声が聞こえた。私は嫌な予感がして、神様と神主の間で立ちふさがった。手を目一杯広げて、神主を通さないように、壁となるように。
「ここを通りたかったら、私を倒してからだ!」
RPGの雑魚キャラのようなセリフを、思わず口にしてしまった。神様よりは私の方が喧嘩慣れしている。だから、私が守るんだ。
「弱魂に、何ができる?」
嘲笑うように、神主は冷たくそう言った。その後、脅すように神主はひらひらと先ほどのお札を私の顔の前で振った。怖気づいてしまった私は、一歩後ずさりをした。
「ほら、そんなことしている間も、震源はここに近づいているぞ」
気が付かなかったが、地震速報が大量に来ているらしい。耳障りな警報音が、鳥居の前に置いてきた私のスマホから鳴っている。
神主は素早い動きで私の真横を通り過ぎ、藻掻いている神様にお札を張り付けた。赤い炎は真っ白な光に包まれて、フェードアウトする。
光が消えると、私たちに背中を向けた鈴が倒れていた。
「鈴!」
読んでくれてありがとう。
次回が最終章です。
鈴はどうなるのか?杏里の運命は?この世界とは何なのか?
乞うご期待。