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十章 はらはら

ラストです

ここまで読んでくれてありがとう。

 私は神主を力一杯押しのけて、鈴へ駆け寄る。鈴の肩を思いっきり揺らすが、鈴から反応はない。その代わり、小さな呼吸が、鈴の体から私の腕へ伝わった。その動きと体温に、少しだけ安堵する。

 その次の瞬間、私の体は指一本さえも動かなくなり、ただ呼吸だけができる、そんな状態になった。

 「邪魔だ、どけ」

 突き飛ばした神主が、私の背後まで来ていたらしい。神主は先ほどの私と同じように、私を思いっきり突き飛ばした。私の体は御神木にあたり、そのまま鈴と神主の方に体を向けて倒れた。

 神主が、神木に結ばれているような、細くて白い縄で鈴をきつく縛った。

 鈴が、危ない。

 そう思った束の間、鈴の体は宙に舞い、神主の額のあたりで静止した。その姿はまるで、縛り付けられたイエスのようだ。

 「ん…」

 「目を覚ませ、神もどき」

 神主のその言葉に、鈴がゆっくりと目を開く。目の前にいる神主を見た途端、鈴はぎょっとした顔をした。

 「やだやだ、何すんの!」

 「うるさい。人の言葉を喋るな」

 神主が容赦なく、鈴に透明の液体をかける。次の瞬間、鈴はもがき苦しみ、言葉にならない叫びをあげた。

 「す、鈴!」

 鈴の方へ、火事場の馬鹿力で駆け寄る。縄を解こうと白い縄に手をかけるが、鈴の体の一部になったようにへばりつく縄は、私が力いっぱい引っ張ってもびくともしなかった。

 「あ、杏里…」

 「鈴!大丈夫だ!私が、私が助けてやる!」

 柄にもないセリフを涙を堪えるように、叫び声として外に出す。その言葉も虚しく、縄が動く気配はなかった。涙で、視界が滲む。

 「杏里、聞いて」

 柄にもなく、冷静に言葉にする鈴の瞳に、焦点の合わない目で見上げる。鈴はふふっといつものように花笑み、ぽつりぽつりと言葉を口にした。


 「私ね、昔、ある女の子に助けてって言われたの」

 鈴が言葉にすると同時に、鈴の指先ははらはらと花が散るように消えていく。

 「その子の大切な人が、死んじゃうって。だから、助けてほしいって。私ね、助けようと思ったの。でも、間に合わなかった。二人とも、助けられなかった」

 鈴は、目を伏せた。長いまつげが、ふるふると震えている。肘の方まで消えてしまった鈴の体は、痛々しく、涙がぽろぽろと溢れてきた。

 「その後にね、杏里が死んじゃって。で、杏里が狭間に行っちゃう前に、杏里を呼び止めたの。杏里だけは、せめて幸せにしたいって思った」

 鈴の足が、花びらになっていることに今更気が付く。涙が、地面に落ちて消えた。

 「だからね、私の作った記憶の中で杏里を生かすことにした。杏里に迷惑かけたよね、ごめんなさい。禁忌を犯しちゃったの。新たな世界を創り出しちゃったの」

 鈴の青い瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。その涙も、地面に着くより前に、蒸発するように消えた。

 「ねえ、杏里」

 鈴が、私に問いかける。私は伏せていた瞳を、鈴の涙を浮かべたきれいな瞳に向けた。

 「永遠の幸せに願いを込めるなら、杏里なら何を願う?」

 とうとう、鈴の細くてきれいな首も、消えてしまった。私は慌てて、鈴の頬をつかんで、キスをした。しょっぱくて、甘かった。鈴は、目を見開いた後に、ふふっと楽しそうに笑った。

 「私はね」

 鈴が、消えた。一つの光となって、消えた。その光が消えたと同時に、神社の明かりも消えた。

 鈴が、消えた。忘れてはいけない。あの神様を。あの思い出を。あの唇のぬくもりを。

 鈴が、消えた。私の神様、いや、好きな人が、消えた。

 …。

 ふと、私の体も、鈴のように消えていることに気が付いた。腰から下はなくなっており、腕も肘までしかなかった。神主も、どこかへ消えたようだ。

 涙をぬぐう手がなくなったので、私はただただ、笑った。

 ねえ、鈴。

 鈴のこと、大好きだよ。

 伝えられなくて、ごめんね。

 ねえ、鈴。

 鈴の尻尾、触ってみたかったよ。

 迷惑ばかりかけて、ごめんね。

 ねえ、鈴。

 私ね、私の願いはね。

 「永遠の幸せに願いを込めるなら、私は、鈴と同じ世界でもう一度生きたい」




              『永遠の幸せに、願いを込めるなら。』完

本編はここで終わりです。お疲れさまでした。

次の章では、あとがきを掲載しております。

興味を持っていただけたら、読んでください。

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