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生き抜け!!サバイバルあってのスローライフです!  作者: 櫻庭 明日香
エピソード3
92/124

エピソード3-⑪

 ジークフリートは背中にルードウィヒとタッキーを乗せて空を飛んだ。よく晴れていて、景色がきれいだ。吹く風も心地良い。


「わあー、すごいや!」

 初めての空中散歩にタッキーが感動している。


「ありがとうよ。こんなの墓守の仕事じゃないだろうに…」

 ルードウィヒがジークフリートに礼を言う。もう二度と空は飛べない、と思っていたルードウィヒは本当に喜んでいた。


「構いませんよ。墓場には今、あなたしかいないんですしね」

 ジークフリートは笑顔で答える。

 時々出会う鳥たちが、大慌てで逃げていく。タッキーにはそれも面白かった。ルードウィヒは感慨深げに上空の空気を吸っていた。


 

 ひとしきり飛ぶと、ジークフリートは墓場へ戻った。もう昼過ぎだった。タッキーはジークフリートの背中からピョンと飛び降りた。

「ありがとうございました、ジークさん。とっても楽しかったです」


「それは良かったです」

 ジークフリートはニッコリ笑って、それからルードウィヒの体を背中からゆっくりと降ろした。


「ありがとう、本当にありがとう」

 ルードウィヒは何度もジークフリートに礼を言った。

「いいんですよ。気にしないでください。あなたが満足して下されば、それが私にとっても嬉しいんです」


「本当に楽しかったよ…ああ、そのまま体を横にしてくれないか。さすがにちょっと疲れたよ」

 ジークフリートはルードウィヒの体を寝かせると「ゆっくりお休み下さい」と声を掛けた。

 その日、ルードウィヒはそのまま目を覚まさなかった。



 次の日、タッキーがルードウィヒの朝食を持ってきても、まだ起きていなかった。

「ルーさん、朝ですよー。今朝はネズミを3匹も獲ってきたんですよ」

 しかし、タッキーが話しかけても返事がない。

「ルーさん…?」

 ただ寝ているだけにしては、姿勢がちょっと変だ。体を横にしている…のはわかるが、妙に首が後ろにのけぞっている。するとルードウィヒは


「グゥオオオ…」


 と不自然な低い唸り声をあげた。


「ルーさん、大丈夫ですか!?」

 タッキーはルードウィヒの頬をペチペチ叩いてみた。しかし、反応はない。そこへジークフリートがやってきた。

「どうしたんですか?」


「ジークさん、ルーさんが変なんです。なんか苦しそうに唸ってるんですけど、目を開けてくれなくて…」

 その時、またルードウィヒが叫んだ。

「グウウウオオォォ…」

 苦しそうな表情、そしてさらに首を後ろへそらせ、今度は目を見開いていた。


「ルーさん!ルーさん!」


 タッキーが呼びかけるが、返事はない。


「ああ…もう少し早く気付けばよかったですね」


 そう言うとジークフリートはルードウィヒの頭に手をかざした。パアーッと当たると、ルードウィヒの顔から苦悩の表情が消えた。見開いていた眼をゆっくり閉じ、反り返っていた首が少し元に戻った。

「ジークさん、今何をしたんですか?」


「彼の体の苦しみを感じなくする魔法をかけたんです」


「そうですか、もう苦しくないんですね。でも、まだ目を開けませんね」

 ジークフリートは少し間をおいて、タッキーに話す。

「彼はもう二度と目を覚ますことはありません。…永遠の眠りについたんです」

 その事実にタッキーは驚く。

「永遠!?それって、ルーさんは…」


「亡くなったんですよ。元々もうあまり長くない状態でここへ来ましたからね。さっき苦しそうになっていたのは、心臓が止まりかけていたからなんです。寿命が尽きて亡くなる場合でも、心臓が止まる瞬間は、とても苦しいものなんです。…墓守の本当の仕事は、その心臓が止まる瞬間の痛みを感じないようにして、楽にあの世へ行けるよう、手助けをしてあげることなんです」

 ジークフリートはゆっくりと語った。


「そんな…そんな…ついさっきまで動いていたのに…生きていたのに…。ボク達まだ知り合ったばかりなのに…。もっと話したいことがいっぱいあったのに…」


 ルードウィヒの顔は、とても安らかに見えた。眠っているとしか思えないほど安らかだった。だが、その瞼が再び開くことはなかった。

 タッキーは、泣きじゃくりながら考えた。

(ここはドラゴンの墓場だし、ルーさんはもう、空を飛ぶどころか歩けもしなかったんだ。長く生きられる訳なかったんだ。でも毎日楽しくて、ついそのことを忘れていた…)

 タッキーは昨日、一緒にジークフリートの背中に乗せてもらって、空を飛んだことを思い出していた。

(ルーさんの心は、今頃空を飛んでいるんじゃないかな…。高く、高く、そして自由に…)

母が泣きながら書いていた時は「どうして泣いているんだろう?」と分からないでいましたが、私もこの話を書いていて泣きました。皆さんはどうでしたか?


お読みいただきありがとうございました。

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