エピソード3-⑨
黒の木の実はコショウ味だった。次の黄土色の木の実は辛子味、どれもこれも強烈だった。タッキーはヒーヒーゼーゼー言いながら地面に倒れて白目をむいていた。
「よし、じゃあスキルを譲ってやろう」
ルードウィヒはタッキーの体に手をかざした。パアーッと光って、やがてスーッと消えた。
「よし、これでお前も‟ポケット”を持てたし、他種族と会話できる能力を得たぞ」
「あ、ありがとうございます」
タッキーはふう、と安堵の溜息をついた。
「じゃあ次にこの実を10個食べてくれ」
タッキーはギョッとして「えっ!?まだそのキョーレツな実を食べなくちゃならないんですか!?」と涙を浮かべて叫んだ。
「ああ、そうだ。スキルは譲ったが、それはまだ両方ともレベル1だ。そいつを100まで引き上げんと役に立たん。ホレ、こいつを10個食べるんだ」
そう言ってルードウィヒは黄土色の実を10個出した。
「…この色って、まさか…」
青ざめるタッキーにルードウィヒはにっこり笑って
「等価交換、ってヤツだな」
「ぐえええ~~~~~!!!」
黄土色の木の実は辛子味。それを10個は厳しい。どこのエ〇リ〇ク兄弟だ!!と心の中で突っ込みながらタッキーは出された木の実をすべて食べ、半死状態で地面に転がっていた。沢山食べたので腹はパンパンだ。非常時に備えてスライムは食い溜めがきく体ではあるものの、こんなひどい味で満たされるのはどうなのだろうか。正直、かなり厳しいものがある。
「うん、ま、こんなもんだな。それじゃあ遺産を譲るとしようか」
タッキーはヨロヨロしながら起き上がり、ルードウィヒの遺産を受け取った。ルードウィヒのポケットからは魔物の骨、ツノ、牙、爪など色々な素材が出てきた。魔石や毛皮、鱗などもあった。中にはかなり大きなものもあったが、どんなものもタッキーの収納ポケットにちゃんと収まった。5000年分の遺産は、かなりの量であった。全てを受け取った頃には、もう日が傾いていた。そこへジークフリートがやってきた。
「ルードウィヒの遺産を受け取ったんですか?それはよかった」
「はい。かなり凄い量でしたけどね。それにしてもこの‟ポケット”ってすごいですね。本当に際限なく入るんですね」
「そうですよ。レベルを上げれば、ですが」
ジークフリートの言葉にルードウィヒが付け足す。
「ただ、今は急にレベルを上げてかなり無理をしているってこと、覚えておけ。他のスキルや魔法なんかのレベルの上がり方が恐らく少しゆっくりになってしまうだろうよ」
「わかりました」
「じゃあ、これも少し多めに持っておくといいですよ」
ジークフリートはそう言うと、自分のポケットから例の小さな丸い実を沢山出した。ほとんどは白い実だ。
「この白い実はどんな効果があるんですか?」
「白い実は、味はありませんがエネルギーになるんです。10個食べると、ドラゴンは1日生きられます。人間なら一粒で1~2日位でしょうか。タッキー君なら小さいから1個で2~4週間くらい生きられるでしょう。食べ物が見つからない時は、とりあえずこれを食べておいてください」
「ありがとうございます」
味がない、と聞いて心底ホッとしたタッキーは、ありがたくその白い実を収納ポケットに入れた。
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