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89 幕間 闇に堕ちる千年帝国②

 最高会議が終わった後、ハインツ将軍は行政府の長であるリザール筆頭大臣を皇城の廊下で呼び止めた。

 会議中、エンナにただ一人立ち向かったが止められず、未だ憤懣やるかたない。その勢いでくってかかった。


「リザール筆頭大臣、何故に黙っておられるっ、何故あの女の専横を許しているのだ」


 権勢を振るうエンナに真っ向から立ち向かったのはハインツ将軍のみ。

 特に会議中黙ったまま全く発言もしなかったリザール筆頭大臣の態度は不可解だった。

 本来会議を主導しなければならない立場であり、あの女官エンナを抑えなければいけない立場である。

 だが今日の会議でも筆頭大臣リザールは終始俯いたままであった。


「それとも大臣はあの女に何か弱みでも握られておられるのか」

「いや、それは……」


 口ごもった。エンナが権力を握るまでは、国の行政長として辣腕を振るった大臣も、いまや女官ごときに、顎で使われる有様だった。


「かくなる上は陛下に直訴したいが、あいにく一介の軍人であるわたしでは宮中に入れぬ」


 悔しさに唇を噛む。

 皇族の住まう皇宮中には、皇后や、王族、そして身の回りの世話をする女官以外には、入ることができない。

 そして宮廷に閉じこもっている皇帝に物事を取り次ぐのは他ならぬあの女官長。

 そのために、あの女の専横に手も足も出ない。


 唯一宮廷に入ることができるのは、筆頭大臣兼宮廷長官のリザールであった。


「貴殿とは、かつてはいがみあった間柄ではあったが、国家の大事。この際構っておられぬ、リザール殿」

「わ、わたしから、陛下にお願い申そう、会議に出られるように、と」


 リザール大臣は汗をかきながら、なんとかそれだけ答えた。


「何とぞお願い申す」


 ハインツ将軍はその大きな体を揺らし、大臣に頭を下げた。

 その時、場を貫くように冷たい氷のような声が、二人を貫いた。


「おや、大臣に将軍閣下。こんなところで何をしておられるのですか」


 廊下の二人を呼び止めたのは他ならぬ女官エンナであった。


「お二人とも深刻な顔をして、何か大事でもありましたか」


 頭に女官の被り物をし、同じく女官の青い衣服をしずしずと揺らし、何食わぬ顔で近づいてくる。 


「い、いや、何も。何用かな、エンナ殿の方こそ」


 大臣はわざとらしく取り繕う。

 一方のハインツは挨拶もせず、エンナを睨みつける。この小娘が……と小さく呟いたが、普段から声が大きい軍人の声は当然聞こえていた。

 だが、その容貌妖しいほどに麗しい女は、眼を細めてまた薄笑いを浮かべた。


「いや、わたしが用があるのは、リザール大臣ではありません。ハインツ将軍。閣下に皇帝陛下から、もう一つ、命令が届いておりますので、それをお知らせに参ったのです」

「何!? 陛下からわたし宛に!?」


 驚くハインツ将軍を後目に再び一枚の羊紙を取り出した。

 さきの建国記念式典に関する文書とは違う、別の命令書であった。

 またしても玉璽が押されている。


「ハインツ将軍の帝都防衛軍司令官の任を解き、新たに東部辺境州国境警備隊長に任ずる……」


 エンナはその文書を、冷たい声で読み上げた。


「陛下の勅命です。即刻都を立ち任地へ向かってください」


 言い終えると同時に薄笑いを浮かべながら、羊紙を再び巻いた。

 明らかな左遷であった。

 ハインツ将軍は、皇帝の勅命の前にひれ伏しながらも、唇を噛んでその身を怒りで震わせていた。

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