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86 なんだか知らないけど助かった

「……はっそういえば、ここに勇者様ご一行の方が」


 嫌な予感がしてきたと思ったら、即座に悪い予感が的中。


「いやいや、わたしが持っていますのは、単なる商人スキルで……」


 すかさず手をひらひらさせて否定のジェスチャー。


「いや、少しでも経験がおありでしょう」

「どうかお力をお貸しください」


「わたしは、そんなんじゃないです」


 ぶんぶん首振って。両手を振って駄目のポーズ。

 全身でお断り。


「そんな謙遜せずとも。ほら、そんな立派な剣をお持ちで」


 シルヴァさんが忘れていった女性用の剣です。

 女性用の剣でも、お、重い……。女性用といってもやはり武器です。

 

「こ、これはわたしのではないんです。触れたのは一、二回ぐらいでしかも撫でただけで……」


 聞く耳持ってくれません。


「いや、それでも無いよりはましです」

「いや、まじで本当に、無理です」


 そんな押し問答をしているうちに、屋根ががしゃんと崩れ落ちました。

 そして小さな悲鳴があがりました。

 思わぬ進入口。敵が宿の天窓を破って入ってきたのです。


「けけ、こっちにもいっぱいいるぜ」


 醜いぐぎぎ、という鳴き声と共につぶやきが。


「ガーゴイル!?」


 振り返ると、ガーゴイルがニ匹。

 羽の生えたコボルトのようなものです。

 外で戦っていた村の人はみんな逃げたかやられたか。


 きゃあああという叫び声と子供の鳴き声が建物中に。


「ゆ、勇者様のお仲間様……」

「ど、どうかお力を」


 みなさんわたしにすがってきますが、だめです。

 わたしはかえってこういうのが苦手です。

 前世はただのおっさん、そしてこっちの世界でもただの凡庸なスキルしかない女です。

 救世主なんかじゃありません。


「いや、ちょっと待って。誰か助けにくるのを待った方が……わたし、本当に何もできません、て」


 問答無用。こちらの意見無視。

 そしてわたしはさあさあ、と腕を引っ張られ、背中を押されて、前へ。

 すると背後に嫌な気配が。


「けけけ、お前強いのか?」

「お前が俺たちとやるのか?」


 目の前にガーゴイル。


「わ、わたしはただの一庶民で」


 勇者様のお仲間様、勇者の一行様。どうかお助けください、と余計なことを言ってくれます。

 後ずさりしようとしても、後ろから背中を強く押されてひっこめない。


「勇者の仲間だそうだぜ」 


 金色にぎょろぎょろ光る眼玉。


「いや、わたしは、その、違う……」


「けけけ、この女、美味しそうだぜ」

「そうだ、巣に持ち帰って串焼きにしよう」


 このガーゴイル、しゃべることができます。恐い会話も聞こえてきてしまいます。 

 こ、こうなったら……。


「なんだ? その剣」

「へっぴりごしだな」


 剣を抜こうとしたけど抜けず糞味噌に。


「ぎゃああああ」


 柄を握ってあわあわしているうちにあっという間に捕獲されてしまいました。


「ぐははは、捕まえたぜ」

「ひええええ」


 ふわっと足に地面の感覚がなくなりました。

 わたしを掴んでそのまま屋根を突き抜けてお空へ。

 あっという間に建物の屋根が足の下。

 普段見ることのできない石積みの屋根が眼下に見えています。

 さらにどんどん高く。


「怖いか? 怖いか?」

「ひいいいい」


 わたしをあざ笑います。


「お、降ろしてっ」

「けけけ、もう返さないぞ」


 その時に空気を切り裂く音がひゅっと聞こえました。

 ぐげっという断末魔の声が聞こえます。

 見上げるとーー。

「!?」

 わたしを捕らえていたガーゴイルの首に一本矢が刺さって貫いています。


「ああああああ」


 こっちの世界でも引力にしたがって地面に落ちてゆきます。


「エレーナ! しっかりして!」


 誰かの声が聞こえました。

 女の子の声?


「あ、あれ?」


 地面に激突する瞬間に影がひゅっと出てきてわたしを抱き抱えたような。


「わ!?」


 一瞬ふわっとした後に、また地上が目の前に。

 わたし、なんとも無い。

 寝転がって地面にキス状態で倒れていました。


「な、なんだおまえはっ」

「ま、まさか……」


 ガーゴイルたちの怒号と焦り。

 次々にばしゅ、ずさっという音が頭上でして。


「ぐぎゃあああ」


 一体何が起きているのでしょう?

 再び起きあがって見ると、村を飛び交っていた禍々しい黒い影たちは消え、西の方の空へ生き残ったガーゴイルの集団が逃げ去っていくところでした。

 てんでばらばらに一目散に村から逃げていってました。



 わたしが呆然としているとーー。

 ようやく村の人々が襲撃が去ったと認識して、わらわら外に出てきました。

 そしてこの有様。

 何体も倒されたガーゴイルの屍。


「おお、流石勇者様のお仲間、一人でガーゴイルを片づけてしまうなど……」


 弓矢や剣で一撃で倒されている、と。


「さ、さすがは勇者様に従っているだけのことはある」

「村を救ってくださりありがとうございます」


 いや、何が起こったのか……。わたしも何がなんだか。

 ともかく事態は急激に収束したことだけはわかりました。

 村長さんやお偉い人が次から次へお礼にやってきます。


「はあ……」


 尊敬されるのは良いけど、なんかわたし酷いことをされたような気がするのですが。



 その夕方、勇者様が三日ぶりに戻ってきました。

 洞窟に巣くっていた魔物を無事退治したとか。



「よ、エレーナ。待ってたか」


「お帰りなさい……」


「こっちは無事終わったよ~」


 ルビーさん、久々にめいっぱい活躍したという爽快な表情をしています。


「エレちゃんにも見せてあげたかったですよ。死霊を焼き払って」


 シルヴァさんも廃坑道の戦いでは活躍したようです。杖を振り回して戦いを再現してくれました。


「あ、あたしの剣。ごめんねえ、持ってくの忘れちゃった。せっかく買って貰ったのに」


 わたしが持っている剣に気づいて、思い出したみたいです。


「あ、はい。いいです。お返しします」


 そしてシルヴァさんに返却します。

 そしてもうわたしが使う機会が無いことを祈ります。


「しかし、何があったんだ?」

 

 勇者様、村を見渡して、まさに戦場の跡という状態の村をみて、驚いているご様子。

 窓が割られ、傷ついた者を手当するそこかしこに。

 幸い犠牲者はでませんでした。


「ガーゴイルの襲撃があった!?」



「はあ? エレーナがガーゴイルの集団を倒した?」

「はは、まさか、そんなのあるのかしら…」


 二人とも即座に否定してくれました。


「わたしもそう思います」


 ただ、誰かが倒したのは確か。

 ガーゴイルは自然にはいなくなりません。


「あれ、この鏃……」


 シルヴァさんが、ガーゴイルの骸を調べているうちに一本の矢を発見。


「エルフが使う矢に見えますが……」


 鏃の輝く金属と形状を穴が開きそうなぐらいに見つめて呟きます。




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