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82 地下牢にて

「エレーナ、ちょっと来てくれない? もう一つ見せたいものがあるんだ」

「はい、なんでしょう?」


 リディナの姫様がせっかく誘ってくれているのです。

 素直について行くことにしました。

 そんなあくどい悪戯をしそうなお人でもなさそうですし。

 立ち上がって後を追います。従者さんたちがどうぞこちらへ、と。

 小さなお城ですが、やはり複雑。階段を上ったり降りたりを繰り返し、最終的に一番お城の深い場所、地下に向かいます。

 エレベーターなどもちろん便利なものなどありませんし、頑丈にできている分案外内部の通路や階段は狭くて、結構きつい。

 うう、腰にきます。こっちではまだ十四の若さではありますが。


 そして、途中明かりとなる蝋燭を持ってーー。


「ち、地下牢!?」


 辺りとは明らかに雰囲気が変わります。

 より入り口は堅固なものに。そしてそこで守っている体格の良い兵隊さん。


「姫様、どうされましたか?」


 ここの隊長らしき、ちょっと年上の方がいかめしくご挨拶。

 入り口に警備の兵士の方が数名いらっしゃいました。

 槍、そして剣を持って警戒します。

 流石、顔パスです。


「ちょっと、この旅の勇者のメンバーに例のやつをみせてやりたいんだ」


「どうぞ、お入りください」


 ついでに、警護として付き添ってくれました。

 ぶるぶる。

 一番奥の牢獄に向かいます。 

 空気も淀んでいる。

 長い時間囚われている人の体臭ーー。


「ひっ」


 灯りを向けると、ほのかな光の中に一人の男の姿が浮かび上がりました。

 男が囚われています。鎖につながれて、いかにも凶悪そうな面構え。

 しかし顔やはやつれ、目はうつろで頬もくぼんでいます。


「こいつ、リディナ王国から、犯罪を犯して、帝都へ逃げていたんだけど、また戻ってきたんだ」



「うぎゃああああ」


 牢獄にとどろく叫び声。


「ひええっ」

「大丈夫だよ、鎖に繋がれてるから」


 となりのアンナ姫は冷静。

 騒いでいるわたしが、なんかみっともない。


「はあ、そうでしょうが……」


 うぎゃぎゃ、とひたすら喚きながらあばれています。


「こいつ、心が壊れてるんだ」

「そう、みたいですね」


 あれはなかなか演技ではできません。


「あそこを見てくれ。ほら、あの腕のところ……」


 ランプの明かりをあてて、指さしました。


「こいつの体にこれが、刻まれてるんだが……」


 多分、ナイフか何かで刻まれたのでしょうか。

 黒い傷跡のようにもみえますが、確かに何か形をかたどっています。


「帝都で何があったのさーー」

「これ、何かの紋章か?」


 結構深刻なお話なのにーー。


 コボルトの巣でみたものと同じような図です。

 7に○を書いたような絵で、さらに詳細です。


 不謹慎にも、場違いなフレーズが頭を駆けめぐりました。


 いい○○♪


 いやいや、いくらなんでも、気のせいでしょう。







 しばらくしたら、勇者様たちが帰ってきました。

 滞りなく謁見を終えて、念願の聖なる短剣も下賜されたようです。


「見るか?」

「はい」


 早速懐から出してくれました。


「おお」


 ちゃんと立派な装飾がほどこされた鞘に収まっています。これだけでも十分工芸品として通じます。

 それを抜いてみると。抜いたとたんに白い光がーー。


「これがリディナの短剣ですか」


 武具の鑑定眼はわたしにはありませんが、見事な輝きです。

 確かにこれは精巧な秀逸品。

 死霊にも効果があるそうです。


「よかったですね、勇者様」

「ああ、やっぱり会えて良かったよ。王様も結構気さくな人だったしな」


 あの姫様を見ればわかります。

 だからこそ審査を厳しくしているのかもしれません。


「ま……エレーナもがんばってくれたしな。一緒にいかせてやれなかったけど」


 肩をぽんぽんと叩かれねぎらわれます。その気持ちだけで十分です。

 その他、みなさんもほくほく顔。


「リディナに伝わる書物の写しをもらったんですよ」


 これからじっくり読むぞー、と気合いを入れています。


「わたしは、加護の腕輪をいただきました」

 

 確かに腕にきらりと光るものをはめておられます。

 体内に秘める気を高めて、法術の効果をアップさせるという代物だそう。元の世界だと消費者庁におこられそうな一品ですが、こっちの世界にはこういうものがいっぱいあります。

 ルビーさんは何か瓶を片手に持っています。


「いやーお酒が好きっていったら王室御用達の酒蔵が作ったぶどう酒をくれたんだ。王様も実はわしも好きでな……って、つい酒のお話でもりあがっちまったよ」


 あとで飲むぞ、と瓶にほおずり。いっぱいお土産をもらいました。

 直接はお会いしませんでしたが、結構おおらかな王様だったようです。



 わたしには何もありませんでしたが、その後、事務官の方から貰った謁見したことの証明書をいただきました。

 審査に厳しいリディナ王に謁見したことの証明は今後、他の国に行ったときにも役に立つ便利な文書。これこそがわたしにとっての収穫です。





 と、優等生的な回答をしておきます。

何はともあれ、ようやくリディナ王国での最大の目的はこれで終了。

次なる目的地へと移動することになりますが、どうなることやら。



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