表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/98

75 幕間 冒険者を追放されたけど何故か仲間になってくれてた天才美少女剣士が最強過ぎる⑦

 もう討伐どころではない。

 命がいくつあっても、ここから逃れることはできない。

 岩のわずかな隙間に隠れて火炎と熱風から逃れてるしかできなかった。


「いい? ルシオ。竜は首の付け根と胸の間の部分にある心臓を突きさえすれば一撃よ。厚い鱗を破りさえすれば、たやすく息の根を止められるの」


 エンドラは岩にしがみついているルシオの耳元でささやいた。


「わたしが引きつけるからあなたがその隙を狙って急所を突くのよ」


「そ、そんな簡単にできるわけーーあっ」


 ルシオは呆気に取られた。

 熱風と火がわずかに収まった刹那、エンドラはまったく躊躇することもなく隙間から飛び出したのだ。

 風にも勝る素早さでーー。

 そして大きく跳躍した。


「うわっ」


 大胆さに驚く。まるで格下の敵を相手にするかのようだ。

 火竜はエンドラを追いかける。

 溶岩に浮かんだ岩と岩を恐れることもなく、飛び越えてゆく。

 少し足を滑らせたら、跡形もなく燃えてなくなるのにーー。


(なんて軽い身のこなしだ)

 人間の身体能力を超えている。

 怯えながらも、その鮮やかさに目を奪われた。

 エンドラは、竜の攻撃を交わしている。

 竜は炎や鋭い爪でエンドラを空からしとめようとしているが、見事に回避していた。

 そして谷間の狭くなっている場所で大きく跳躍し、飛び乗った。


 慌てた竜は、大きな悲鳴をあげ暴れた。

 竜にとっては予想外の攻撃だった。

 背中に飛び乗られて直接攻撃ができない。

 無敵のはずの空から攻撃する立場に油断し、さらに怒りにかられて近づきすぎた。

 エンドラが挑発しておびき寄せたのだ。


 まるで曲芸。竜を操っている。

 どしん、ずしん、と音が響く。溢れた溶岩が周囲に跳ねる。

 振り落とそうと周囲に岩肌に衝突したり地面に落ちる。


 それでもエンドラは竜に掴まったまま離さなかった。


 一際大きな声をあげた。

 エンドラがついに竜の背中に剣を突き立てた。とたんに黒い血があふれ出る。

 大きな悲鳴と共に、竜は地上に落下した。

 地面に衝突する間際にエンドラは竜から離れ岩の上に着地した。

 ルシオはあまりの実力にただみることしかできなかった。


「ルシオ、今よ」


 エンドラが大きな声でルシオを呼び竜を指さす。

 傷つきもがく竜の首の付け根をーー。

 あそこが心臓にあたる。ここをついてトドメを刺せ。


「さあ止めを! ルシオ、あなたの出番よ」


 ただエンドラの鮮やかな戦いぶりに圧倒されていたルシオはようやく我にかえった。


「え? あ、ああ!」


 ルシオは岩の隙間から飛び出した。竜に駆けより、抜いた剣でなんなく貫いた。


「ぐぎゃああああ」


 致命傷を受けた竜はもがき苦しんだ。

 断末魔の火を口から吹くが、勢いはなく、あさっての方向へ放つだけだった。


「うおおおおおお」


 さらに剣でえぐる。とどめを刺した手ごたえにルシオは興奮した。

 これが勝利だ。初めて味わう冒険者としての快感。

 だがルシオは知らない。

 火竜は、もうほとんどその抵抗力を奪われていた。竜に飛び乗ったエンドラが急所を一撃し、決定的なダメージを与えていた。

  

 竜は急速に動きを止めた。

 倒れた竜の目が灰色に濁り、息絶えたことを知らせた。


「やった……はは……」


 信じられない。竜を倒した。


「あなたが倒したのよ、ルシオ」


 既に骸となった竜を前に、ルシオは放心していた。

 エンドラはルシオの弱い心を刺激した。


「凄いわ。わたしができなかった最後の一撃をあなたがやってのけた。勇者パーティーを率いる者としての一番大事な役割よ。その大事な役割をあなたがやったのだからーー倒したのはあなたよ」


「ぼ、僕が?」

「ええ、あなたが倒したのよ」


 彼女が言うなら本当だろう。


「はは……僕が」

「竜殺し……ルシオがやってのけた」


 僕が竜を倒した。

 冒険者として竜を倒すことは、最大の戦果だ。


 今まで夢にまで見た栄光が目の前にある。


 竜殺しのルシオ



「これは、成果として持って行きましょう」


 竜の鱗と爪。


「すごい、本当にやったのか……ボクが?」


「ええ、あなたが倒したのよ」


「自分が秘められた力に気づかなかっただけよ」




 村では最大の歓喜に迎えられた。

 最初は疑われたが、村長へ証拠の爪と鱗をみせると、間違いないと声を震わし、拝まれた。


 勇者様

 竜殺し。

 これで枕を高くして眠れる。

 英雄だ。


 町から感謝される。

 お祭り騒ぎ。

 うちの娘を貰わないか。

 勇者だ。あなたこそ勇者だ。


 ……。

 僕は本当に勇者になれるのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ