72 エルフからの送りもの
「え、エルフ!?」
何度も言うように、存在自体が伝説上である上に、そのエルフの作った道具となれば、貴重なんて言葉では言い表せません。
「一体なんで……こんなところに……」
そして、皆で首を傾げます。
この世界ではエルフはより神に近いとして、信仰の対象にもなっている神聖な存在です。
なんで、まだまだ発展途上の勇者一行にこんなものが……。
「いいえ、これは必然的に起きたことです。わたしたちはエルフ様のご加護を受けているのです、ありがたいことです」
マリーさんが急に勇者様にも祈りをささげます。
お祈りのポーズは転生まえの世界となんら代わりありません。
流石に十字架はありませんが、腕を組んだりひざまずいたり。
「きっとこれも勇者様の、ご人徳のなせる技です。ああ、神様、わたしたちにお与えなさったエルフの祝福に感謝いたします」
マリーさんは言い切ってしまいました。
この手のお話はマリーさんの独断場です。神の名前を出されると、なかなか反論が難しいんです。このパーティーに限らずこの世界では。
「え? そ、そうか?」
勇者様、マリーさんのおおげさなお祈りに流石に照れていらっしゃいます。
そしてまんざらでもないご様子。
なるほど。
わたしたちの勇者様の箔がついたことは、歓迎すべきです。
理由はこの際どうあろうとーー。
「すばらしい、流石誇り高い我が勇者様。神様の粋な計らいに感謝ですね」
わたしも空気を読んで、勇者様を称えます。一緒にパンパンと二回手を叩いて、お祈りの姿勢を取ると、マリーさんは満足顔になります。
ちなみにわたしの教会への信仰心を偏差値で表すと、38。下限ギリギリです。でもこの大陸全体に、広まっている最大の宗派なので、表向き信者やってます。
けれども本当は、お正月に凄まじい人混みに揉まれながら何時間もかけて神社に初詣に行きクリスマスを祝う敬虔な仏教徒です。
「いやーすごいね」
「わたしたちも、誇り高いですよ」
ルビーさんもシルヴァさんも一緒になって称えてくれます。
ということで、あの髪細工は勇者様の持ち物なりました。
ところで、これって何に使いましょうか。
シルヴァさんによると、これには特別な効果があるわけではないそうです。
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「きっと高く売れます」
言った瞬間に全員からブーイングを食らったのは言うまでもありません。
「絶対売らないぞっ」
勇者様は大事そうに懐にしまっています。
「なんと罰あたりな……」
マリーさんが、本気で哀れむ目をしています。
「エレーナ、あたしでもそんなこと言わないよーーこれ売って酒を飲むとかはね」
かわいそうな人という扱い。
最近仕事っぷりの駄目さから評価を落とし、さらに評判を落としてしまいました。
言ってみただけです。
まあ結果として売らないのが正解でした。
早速その効果を実感することができたのです。
また、朝から出資を募るお屋敷巡り。
昨日会えなかった方々、少し感触がよくてもう一押しと感じた行く先を主に行きます。
今日は勇者様にもおいでいただいます。
「よろしくお願いします」
「ああ、わかってるって」
事前に昨日の大変厳しい反応を説明していたので、勇者様も少し緊張しつつ、挑みました。
しかし、昨日とは態度が一変していました。
最初はやはり怪訝そうな、うっとうしい連中がきたぞ扱いされましたが、勇者様ご本人の登場と、さらにエルフの髪細工を見せると、リディナ王国のお金持ち、有力者の方々がお金を次々に出してくれました。
見た瞬間に顔色が変わります。反応がおもしろかった。
「おお、それは、エルフの髪細工!」
おもわずのけぞり、眼鏡をずりあげ。
はたまた別のところでは。
「我らが勇者様の所持するエルフの髪細工」
「ぶはあっ、は、初めてみましたぞ、エルフの祝福」
飲みかけの紅茶を吹きだし、水しぶきをわたしが思いっきりかぶるなど、ド派手なアクションがみられました。
聖なる森を地元に擁するリディナの人たちだからこそ価値がわかる。
一生かかってもお目にかかれないような、尊い品。
「お、お金を出させていただきます」
有閑マダムなども。ガチャン、と持っていた高価そうなお皿を落として割ってしまわれました。
「わ、わたしも……お出しします」
我も我もと。
おかげで半日もしないうちに、十分すぎるほどの旅の資金を調達することができました。
確かに幸運を呼ぶことができるんですね。
さらには、朗報。再提出した申請書の結果通知が届き、リディナ王国の王様の謁見許可が降りました。明日王宮に来なさい、と。
凄すぎるぜ、髪細工。
「勇者様、流石です」
「はは、皆がやってきてくれたおかげさ。俺は何もしていないさ」
「いやいや、風格がでてきたように感じますよ」
時には形から入るのも重要です。
めでたしめでたし。




