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62 ピンチを切り抜けて

 外は日が傾いてきてはいるものの、太陽が照りつける暑い日差し。

 じめじめとした隧道とはうってかわった明るい世界にわたしたちは戻りました。


「最後のあれはあれはやばかったな」


 死竜からの全力の逃走劇は普段楽観的なメンバーもこたえるキツさでした。

 しばらくは、動けない状態。


 とにもかくにもーー。

 馬車の喪失という事態に見舞われながらも、隧道トンネルを無事に突破することができました。

 みんな暗闇の緊張と疲れで、エネルギーはゼロ。

 特に隧道内での戦いにおいて死霊を退治するために、マリーさんを酷使してしまいました。


「いやー、今回は流石にきたですよ。鍛えていないと駄目ですね」


 シルヴァさんもいつもの朗らかな調子は崩していませんが、精魂尽き果てています。

 草むらに仰向けになって、わんどを傍らに投げ出したままうつ伏せ。

 ぐったりした二人を抱えてはこれ以上は無理に進むのはできません。馬車も失ってしまいましたので、荷台に乗っけて進むこともできません。

 隧道の出口でしばし体を休めることにしました。


「大丈夫かい? マリー」

「はい、勇者様。ただ、もう少し時間をいただければ……」

「ああ、構わないさ」


 魔力なり法力を限界まで使い切ると、とてつもない疲労感に襲われ、その日一日はほとんど何もできなくなってしまうんだとか。

 それは全力疾走で、何時間もーーまさにマラソンを走り抜いた以上だとか。

 魔力にも走ることにもどちらも才能の無いわたしには実感のわかないお話ですが、ぐったりしたマリーさんの様子をみればわかります。

 二人を介抱する勇者様も、体力はまだまだありますが、流石に精神的に疲れたようです。

 兜や籠手を脱ぎすててしまいました。

 わたしも何かできることを探さないと。


「勇者様」


 自分の水筒を勇者様に手渡しました。


「ああ、悪いな。エレーナ」


 全然元気なわたしは、なんとなく、気まずい。最後らへんでばたばた動いた以外は、特に何もしていませんから。

 せめて介抱のお手伝いを……。

 水筒の水はせめてもの気持ち。


 勇者様が二人にすすめると美味しそうに飲んでいただきました。

 あら、もうなくなってしまいました。

 空っぽです。

 途中、水の補給場所が無かったですから。

 事前に仕入れた情報で、リディナ王国は金属の産地でもあり、その坑道、隧道で地下深く湧き出る水は鉱毒があって飲めないそうです。

 浅井戸の水や流れる川の水は問題ないそうですが。


「ルビー、どこか水探してきてくれないか?」

「んー、いいよ。勇者様」


 立ち上がったルビーさんに肩をぽんぽん、と叩かれました。


「エレちゃんも、一緒に水が無いか探しに行こうか。ここは勇者様に任せて」


 携えている水筒は残り少なくなっています。

 今一番体力が残っているのは、ルビーさんとわたし。


「は、はい」


 こういう時に声をかけてくれるとありがたい。

 後をおっかけます。

 幸い、山を少し下って行くと、岩の間をちょろちょろと流れる綺麗な岩清水がすぐにみつかりました。

 それを水筒に汲みます。ついでに自分の分も飲んで。

 ああ、美味しい。レモンでもあれば最高。

 ルビーさんも手で水をすくってごくごく飲んでいます。


「なんか、役にたってないですね……わたし……」


 口もとを拭いながら、ため息。


「そ、そんな気にすること無いさ。人には得意なものがそれぞれあるんだし、いつもあたしたちエレちゃんいないと思って戦ってるからさ」


 本当のことですが、追い打ちをかけないでください。

 ルビーさん、こういう方なので、悪意がないのはわかります。

 きっと励ましてくれてるんでしょうし。

 皮の水筒に入れた水を皆さんのところへもって戻ります。


「ま、一杯やれば元気もでるさ、後で……ぱっとみんなで」

「あ……」


 それで、思い出しました。

 とても辛いことをお伝えしなければいけません。


「あの……お酒、馬車に置いて来ちゃいました」


 あの洞窟の奥底。飲むには、戻らないといけません。


「えええええ!?」


 がびーんという音が聞こえてきそう。


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