60 ようやく出口が!
暗いトンネルはどこまでも続く。
暗闇の中、マリーさんの力で照らす光を頼りに、馬で全力疾走。
矢のごとく駆け抜けていきます。
道は一直線ではなくカーブしてたりアップダウンもあるので、聖なる光は助かります。時に障害を飛び越えて。松明はもう役に立ちません。
まだ出口はみえません。
「ま、まだですか?」
「まだだよ」
死霊系の魔物は外に出れば安全です。
基本的に太陽の光には滅茶苦茶弱いのでーー。
ただし、外に出たときに夜だったら最悪なことになりますが。
ずしん、ずしんという足音が後ろの暗闇からきています。
ひええ。きてる。奥の方から。
魔法はもう溶けてしまったようです。
ずどどどど、という音がします。
その様子からすごいスピードでおっかけてきているのがわかります。
「もっと早く」
「来てますよ!」
シルヴァさんも叫んでいます。マリーさんは法術で照らすの精一杯で声が出せないようです。
「わかってるって」
「こっちも全力でやってるよっ」
勇者様もルビーさんも必死に馬に鞭をあてています。
二人とも馬の扱いはやはり上手い。
必死にやってくれているのもわかります。
ただ……。
「あ、あの……ま、まだですか……もう少し、その」
「まだだよ、エレーナ。あとどれぐらいまできてる?」
「そ、その……」
言いにくいのですが、いや実は、私の目の前一メートル先……。
あのでっかいお顔が……。骨だけで。
「どうしたっ?」
お互い、今見つめ合っています。
「……まじかよ」
後ろにぴったりとついている死竜に、ルビーさんも手綱を握ったまま絶句しています。
さすがの戦士さんもこの状況に肝を冷やしたようです。
こういうシチュエーション、次にどういう行動をとれば良いか、なかなか思い至りません。
とりあえず、はい。手を伸ばすと、嬉しそうに、長くうねる首をぐい、と伸ばし、顔を突きだしてきました。
その大きなお顔をとりあえず、手でなでなで。
するとカタカタと笑います。わたしのペットのように。
あー、不気味。
意味不明な行動をとってしまいましたよ。
「ルビーさん、早くして……」
か細い声で涙目で、懇願します。
わたしも、泣きたくなります。
その状態のまま、一分ほど過ぎます。
ただ、なぜか死竜は襲ってきません。
「エレーナ殿、これを!」
すぐ隣の馬の後ろに乗っているシルヴァさんから、白い玉をぽんと投げられました。
勇者様に捕まったまま。
「その魔法玉、開けて投げるんです」
ひょいっと受け止めます。魔法が詰められた玉です。魔法を使えないものでも、一回使うことができるそうです。
爆裂魔法が入っているから、それを足下に投げるように、と。
そして間違っても自分の足に投げるな、と。
「は、はい」
コントロールには自信があります。
パカッと割ってそれを足下に慎重に見定めてひょいっと投げます。
数秒後、どかん、というお約束の音と共に衝撃と音が鳴り響きます。
そして、炎に包まれました。
さすが、シルヴァさん、いくつもの魔法をつめて効果的に作っています。マニアのこだわりが光っています。
キシューっとまた音を立てて死竜の動きが止まりました。
時間稼ぎではありますが、距離を離すことができました。
「出口だぞっ」
ついに遠くに外の光が遠くに見えました。坑道の出口です。
最後の力をふりしぼります。矢のように走り抜ける馬も光を求めて自らも光にーー。
「また来てますよっ」
体勢を立て直した死竜がまたどどど、とやってきています。
すごい勢いでーーまたまっすぐわたしに向かってきてます。
「なんでエレーナなんだよ」
「わたしにもわかりませんっ」
ルビーさんがこっちばかりに向かってくることに嘆いています。
徐々に外の光が見えてきました。少しずつおおきくなってきまづ
もうここまでくれば聖なる光が無くとも大丈夫です。
マリーさんが法術を使い果たしたようです。
ぐったり。
「しっかりしろっ」
勇者様が手綱握りながら背中に叫びます。
「うおおおお」
最後の雄叫びと振り絞る力ーー。
そして。
ついに出口に到達しました。
一気に暗闇から光の世界へ。
そのまま立ち止まることなく、駆け抜けていきます。
幸いにも、外はまだ昼。
太陽の光がかんかんに照っていました。
外の眩しい光に、ずっと暗闇にいたわたしたちも思わず目をつぶります。走ったままーー。




