53 謎の紋章?
今までで最大の激痛が走りました。ちょっとどころではありません。
「よし、無事抜けたよ、鏃も残ってないしね」
抜いた矢を脇にぽいっと投げ捨ててました。
「ひぐ、あひい……」
「いたいんだよなあ……コボルトの矢……」
勇者様は眉をしかめます。
「あたしも、何度もやってるからわかるよ。最高で矢が七本刺さったことがあって、三本目を抜いてもまだ四本もあるよって思ったからねえ。しかも自分で抜いたんだよ、あの時は」
悶えているわたし。もう涙目どころではありません。
「俺なんかもっとひどい怪我をマリーに治してもらったことがあるんだからさ」
「そうそう、洞窟の時だっけ、でかいオークがいて……そっちに気を取られて」
コボルト退治の苦労は、冒険者にとって最初に経験する苦労で、いつも笑い話の種になります。
でも、そういうお話は今は後回しにして……なんとかこのお尻を救ってやってほしい……。
「エレーナさん、ちょっと静かにしていただけますか。集中できません」
ようやく駆けつけてきたマリーさんの治癒の法術が始まります。
「いたい、いたい……」
壊れたレコードのように繰り返すだけ。
もう色々しゃべる気力もありません。
「マリーちゃんを信じなさいって」
弱っ。
わたしの戦闘力、弱すぎ!?
「傷口の様子からすると進行していくように悪化する様子はみえません」
わたしのお尻の診断が始まりました。
聖職者はヒーリング能力だけでなく、医術を心得ています。
「毒もしびれ薬もないし、傷は法術で回復すれば問題ないでしょう」
さすが、マリーさんの鑑別能力。
「我らが聖なる母よ、偉大なその光の力を病めるこの者にお与えください」
マリーさんの詠唱が始まりました。
杖ならぬ錫杖を持って、しゃらん、とならします。
そして神への祈り。
「はあ……はあ……」
法術が発動したようです。
「もう大丈夫ですよ、エレーナさん」
お尻の辺りがなにやら温かくなってきました。
ああ、なにこれ、気持ちいい。
効いているのがわかります。なんという奇跡。
傷が塞がっていくのを実感できます。
激痛がみるみる落ち着いてきました。
同時に荒かった呼吸も落ち着いて行きます。
「ふう……」
息を吐きました。
「……終わりましたよ、いかがですか?」
もう身体を動かしても大丈夫、と言われて、顔をあげます。
ルビーさんが手を貸してくれます。
傷跡一つありません。
仰向けのまま動けなかったのが、けろりと治りました。
「あ、ありがとうございますっ」
いつも馬車の中でお留守番の私にとっては法術初体験。
これは凄い。ノーベル賞級のすばらしい力。
本気でマリーさんに感謝しました。
もちろん、それでめでたし、めでたしではありません。
自己責任論。自業自得。
落ち着いたら、始まります。
「あんまり遠くまでいったらだめだよ、エレちゃん」
ルビーさんに怒られ。
「はい……」
正座して大反省。
「エレーナちゃん、ちゃんと旅の取り決めは守らないと」
シルヴァさんに注意され。
「はい……でも、初めてだったので……」
さらに小さく。
「あ、そうかあ、エレーナは留守番が多いもんなあ。そういう時は声かけが大事だからなあ」
勇者様からも一言。
もう穴があったら入りたいです。
申し開きもありません。全部自分が悪いです。勝手にグループから離れたわたしが……いけない。
おそらく戦闘慣れしている他の四人だったら、気配に気づいたと思います。これも普段馬車に引きこもっているわたしならではのトラブルです。
「おかしなところはないですか? また傷が悪化したら遠慮せず言ってください」
法術が完全に効いていなくて傷が開くことがあるそうです。
おお、マリーさん、今日は優しい。さすが聖職者、病人には優しいです。
わたしの処置が終わったら、改めて付近の掃討を行います。
わたしへの襲撃で残党はみなしとめていたようでみつかりませんでした。
今度こそ、終了。
幸か不幸か、わたしが襲われたことで、手間が省けたようです。
最後に住処を散策しました。
食い散らかした魚や肉、骨で作った鏃。
めぼしいものはありません。
洞窟の壁には、コボルトが何かを描いています。
コボルト特有の芸術センス。
狩りの絵や動物の絵など。子供が描いたような絵ですけどね。
ふと、隅っこに描かれていた妙な文様に気づきました。
コボルトは妙な独自の宗教か何かを持っているようで、儀式に使う文様があり、よく壁画にも描かれています。
が……あれ……この印、どっかでみたような……。
数字の7に○を囲んだようなマーク……。
どっかで見たような。




