51 コボルトの逆襲
というわけで……。
お花を摘みにいきました。
え? 何のお花かって? もちろん、それは秘密です。
当然ながら、この世界では公衆トイレというものがやたらめったらにあるものは無いので、その辺で……。
そっとグループを離脱して、済ませることにしました。
一応グループ内では、声をかけて、なるべく見える場所でするというルールがあります。
でも姿はみえつつ、大事な場面はみられない場所なんて、なかなか見つからないものです。
結局この規則は破りがち。
タイミングを見計らって見えない場所で、さっと済ませるのが通例です。
「えーっと、この辺でいいかな」
少しじめじめしていますが、周りが木や草に囲まれて、静かな場所を見つけることができました。
特にわたしはなるべく遠く離れてするのが常。
乙女の恥じらいが……理由ではありません。
前世から、静かなところで、落ち着いてゆっくりしたい性質なのです。
結構デリケートなおっさんだったんですよ?
皮の腰巻きを外して、傍らに置いて、ちょっくら一息。
女の子って不便ですね。色々する前に準備があって。
そして物思いにふけりながら、すっきりする至福のひと時。
ちょっと小さな泉ができました。
「ふう……」
さっさと帰ろう。
立ち上がろうとした次の瞬間、ひゅっという空気を削くような音と一緒に、ずしん、という衝撃が脳天にまで走りました。
「うがっ!?」
激痛を伴う衝撃に反射的に悲鳴ーー。
ただ何事が起きたのかわからず、その衝撃があった場所を首だけひねって確かめると、お尻に木の棒が一本。そして矢尻の部分に羽。
「え……」
パニックで事態を認識するのに数秒かかりました。わたしのお尻に一本の矢が刺さっているのです。
「おおっ!」
ケツに矢が刺さっている。
事態を理解できた瞬間から本格的な激痛が始まります。
「あぐっ」
痛いながらも、まだ思考は働いています。
この古典的な矢は……。
しまった。
コボルトの残党がいたようです。何故縄張りの森の外にいるのにコボルトが……ただ現実的に攻撃が仕掛けられています。
細かいことを考えるのは後回し。
結構やばい状況です、これ。
こっちは相手がどこにいるかわからないのに、捕捉されています。
すぐに逃げないといけないのですが、下手に動くと待ち伏せされます。
その上、激痛がお尻から全身に走り続けています。
立った姿勢を維持できず、横向けに、ぶっ倒れてしまいました。
「うぎゃああああああ」
叫びながらも、楯で身を守ります。
第二波襲来。
元いた場所には十数本あまりの矢がばばば、と木の幹に突き刺さりました。
さらに、ばさばさばさっと矢が雨のように降り注いできました。
「あぐっ」
地面に伏せたまま転がり、必死に守ります。
盾には突き刺さった矢や折れた矢が何本も。地面にも外れた矢が突き刺さっています。ひゅ。ざしゅざしゅと突き刺さる音。
怪我したこともありますが、動き回らなかったのはかえって正解でした。
「あああっ」
やばいこれはやばい。
集中砲火。雨霰。
さらに体の胴の部分にも矢が何本か。
今日はコボルト退治に赴くと言うことで、服の下には、オークの皮製の防護服を着ていたので、さいわい他の部分は体には刺さりません。
あとは頭と首を守れば、何とか飛び道具は防げます。
不運も不運。
これだけ重装備していたのに、一番無防備な場面をねらわれた。
痛みをこらえて目を開きます。
いつまでもこうしているわけにもいきません。
突破口を開かないとじり貧。
「ああっ」
駄目です。身動きがとれません。
絶え間ない矢のせいで、ぶっ倒れたままーー。




