50 お昼休憩
昼頃にはおおむね掃討は終わりました。
「よーし、休憩にしよう」
勇者様の号令で、作業を終了しました。
「ふう……一汗かいたな」
「順調ですね」
お弁当の時間です。
一旦、コボルトの森の外に出ます。縄張りの外に出れば、攻撃性は一気に落ちます。
午後からは生き残った巣の残党がいないかどうかの確認をしますが、作業はもう九十パーセント終わりです。
なので、リラックス。
草むらの上に座って、あるいは太い木の地面に顔を出している根っこに腰掛けて、老夫婦が作ってくれたお昼を広げます。
「おお、これは美味しそう」
みんな弁当の包みを開いて感激しました。
パンに卵と野菜のサンドイッチを地面に敷いたシートの上で食べました。
これはまた、美味しい。
添えられている塩漬けの干し肉も美味。さっきのコボルトのミンチは想像しないことにします。
そういうことを考え始めるとこっちの世界では切りがありませんし、何も食べられなくなります。
それぐらいの所作はこちらの暮らしにもう十年以上。身についております。
「うん、塩加減もばっちりだし、パンも上手に焼けてる」
サンドイッチという名前はありませんが、同じような食べ物はあるのです。
けれども、コンビニで気軽に買えるわけではありません。
しばらく、皆でもぐもぐしました。サンドイッチを食べたら、おにぎりや、唐揚げ、フランクフルトが恋しくなります。
これも美味しいけれど、やっぱり向こうの世界の方が食べ物はおいしいです。
こういうときに、無性にあっちに行きたくなってくるのです。
「あーあ、コンビニ……行きたい……」
メタボを気にして、あまり食べなかったのが悔やまれます。
反対にこっちの世界では、あんまり美味しいものってないですからね。
あっても貴重で高級で一部の人しか食べられません。
食べることが作業になりがちです。
「またエレちゃんは、その「こん・ぃに」のお話ですかあ。よっぽど便利だったんですな」
隣に座って同じく食べていたシルヴァさんが、突っ込んでくれます。
基本、彼女はわたしのしゃべる前世の話を、荒唐無稽扱いせずに、聞いてくれます。
魔法使いの人たちにとって、妄想、空想は魔術を開発する大事な根元ということらしいです。
魔術書を読み、研究しながら、イメージを作り上げるのだそうです。
「そりゃあもう。シルヴァさんだったら絶対気に入りますよ」
「夜中にもやっているのは確かに便利ですよ。行ってみたい」
こちらの世界ではよっぽどの都市に行かないと二十四時間いつでも営業しているお店というのはありません。それも怪しげなお店。酒場とか娼館とか……げふんげふん。
本当に見せたいものです。
彼女のように、オタク気質、一人暮らし好きなら、きっと仲間になってくれるに違いありません。
もしあっちの世界にいったらシルヴァさんには、何を振る舞いましょうか。変なものより、とりあえず山崎のあんパンにでもしておきますか。
鳥がちちち、と鳴いています。時折飛び立ってゆく
のどか……。
皮袋に詰めてきた水筒の水を飲み干しました。
「ふう……」
まったく働いた後に食べるご飯は格別です。
女の身でみかけだけでなく中身も……胃が小さくなっているといいます。
これだけでお腹は十分いっぱい。
水を飲んでごろんと横になって目を閉じると、耳に勇者様たちの会話が聞こえてきました。
「はははは」
「故郷を思い出すよなあ。畑を耕した後に、お袋が作ってくれた弁当をこうやって食べてたなあ」
「様になってますですよ」
和気藹々。微笑ましいです。
「午後は残った残党がいないかの探索だな」
午後の陽気に、わたしもついうつらうつら。
やがて休憩時間もそろそろ終わりに近づき、また作業再開。一息ついたところで、妙な違和感を下腹部に感じました。
「うん?」
この感じはあれです。
男も女も、老若男女もある現象がやってきています。
近いんですよね……女だと。




