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41 幕間 冒険者を追放されたけど何故か天才美少女剣士が仲間になってくれて最強過ぎる③

「そ、そうはいっても……どうやったら流れを変えられるのさ」

「そうね、これなんかどう。 これで見返してやるのよ」


 少女は一枚の紙を見せつけた。


「それは……冒険者ギルドの……」


 ルシオは紙の内容に驚愕した。

 フルボル山に出現したという竜の討伐依頼の写し書きだ。

 フルボル山は、都から東へ少し離れた場所にある、エスナ山脈の向こう側にある山の一つ。年中火を噴き出している火山で、そこに炎の竜が出現して、近隣の住民に被害を及ぼしている。

 それを退治すれば10万エール。


「な……!?」


 あまりにも大型の案件だった。少女の言わんとすることがわかった。つまり冒険者として一発逆転を狙えということだ。


「ぼ、僕はコボルトや害虫駆除が専門で……ほら、虫が怖いって貴族の奥方の代わりにネズミやムカデを退治したり……」


 実際にはコボルト退治も満足にできず、もっぱら荷物運び、掃除、ご用聞きなんでも屋だった。


「あら、害虫駆除は同じでしょ。こいつらも結局は害虫の類でしょ」

「が害虫っって、相手は竜族の一つだよ」


 火竜は竜の中でも、凶悪な部類に入る。火を吐き、気性が荒く、人間を見たらすぐに攻撃してくる。

 目が飛び出るほどの高額懸賞金だが、さすがの賞金稼ぎたちもおいそれとは手を出さない。

 相手がやばすぎて、こっちが命を失う危険があるからだ。

 討伐を名乗り出る勇者もなかなかいない。

 ルシオが手がでる相手ではなかった。


「む、無理だ」

「最初からあきらめては駄目よ。なんなら、あたしも手伝うわ」

「君が?」


 ルシオは自分のことさしおいて笑った。

 少女は小柄だ。大柄、がたいの良い者がおおい冒険者立ちのなかでは、まったく強さを感じない。


「いくら君でも……あ、もちろん剣の腕を疑ってるわけではないさ」


 多少はできそうだ。それでもたかが知れているはずだ。


「あら、みかけで判断するのは良くないーー」


 少女の声を遮った。


「おう、ルシオじゃねえか」


 野太いがらがら声。二人のテーブルをいつの間にか柄の悪い数人の男が取り囲んでいた。


「や、やあ、ガンガ」


 ルシオは怯えたように、その真ん中の一番小太りの男に愛想笑いした。

 腕には入れ墨が彫られている。


「やあ、じゃねえよ。この間の賭けの借金、まだ返してねえだろうが。ああん?」


 周囲には、にやにや笑いの男たち。

 いずれも体格が良く、そして普通のものではなかった。


「あら、あなたのお知り合い?」

「え? あ、ああ。知り合いのガンガさ。同じ冒険者ギルドの……」


 言い終わらないうちに二人の間に割って入り、少女にぐいっと体を寄せた。大体この巨体にすごまれると大抵は怯えるのだが、少女は身じろぎせず、平然としていた。


「なんだ? このメスガキは。見かけねえ顔だが……どこのどいつだ。お前のこれか?」


 小指を立てて下卑た声で笑う。


「い、いや。今知り合ったばっかりで……」

「だろうなあ、お前にそんな甲斐性なんてねえもんな」


 途中で少女が遮った。


「ルシオの仲間よ。パーティーメンバーよ」

「き、君!?」


 ルシオが言うかどうか躊躇した言葉をあっさり言ってのけた。


「おめえが、仲間? こいつの?」


 少女の顔をまじまじと眺めた。少女はまっすぐ男たちを見据えている。


「これは、傑作だ。ルシオに仲間ができたなんてよ」


 ガンガはその大きな腹を抱えて大笑いする。

 そして気まずそうにするルシオ。


「やめとけやめとけ、お嬢ちゃんは、新顔だか知らねえが、悪名高いルシオについていったってろくなことになんねえよ」

「悪名? ルシオが?」


「ちょっとばかし強い敵がでてくれば、逃げ回るし、雑用任せてもミスばっかりであちこちを追放されてるんだぜ」


 とたんに目を伏せ、顔を青ざめさせた。


「ふうん、そうだったのね」


 少女はが気まずそうな顔をしているルシオを見つめた。ルシオは目を逸らした。


「だから、こいつを仲間に加えようというもんは、この花の都の冒険者ギルドにも、もういねえのさ。根っからのぐずでよ。それより……俺たちのところに来いよ。お子さまだが、顔は悪くないから、可愛がって……」

「無用よ」


 ガンガの差し出した黒ずんだ太い手を払いのけた。


「ち、こいつについていったってろくなことにはならねえのに、後悔すんな、この小便くさい小娘が」


 いまいましそうに少女をにらむが、本来の目的に戻る。

 再びルシオの顔が恐れに変わる。


「それより、ルシオ、借金はどうしたんだ」

「も、もうちょっと待ってくれないか?」

「だーめだ。お前、返さないまま故郷に逃げかえっちまいそうだからな。利子まできっちり返すまでは、逃さねえぜ」

「必ず返すから、頼むよ」

 

 そのやりとりを、不思議そうに少女はルシオを見つめる。


「借金? どういうこと?」


 ルシオは頭を抱え髪の毛をかきむしった。 


「ごめん、俺、本当は借金も抱えてて……」


 決定的なことを知られた。せっかくできそうだったパーティー仲間も、これでご破算。


「それで、いくらなの?」

「い、一万エール……」


 明らかに個人で返せる金額では無かった。


「ルシオ、返す必要はないわ。その借金ーー」

「な、何言ってるんだ」

「帝国では公営賭場以外は……賭事は禁止。厳しく罰せられる。それに借金に利子をつけるなど公認業者以外が勝手にやれば首をはねられる、法律もあったはずーー」

「ははは、面白いことをいうなあ。この魔王が世界を侵そうって世に法律が守ってくれるってよ」


 ガンガは今度は少女に向けて腹を揺らして笑う。

 表向き冒険者だが、この辺では知られたギャング、ごろつきのリーダーだ。

 冒険者からあの手この手で巻き上げた金が重要な収入源。

 特に闇賭場を持っていて、その収入は膨大で、その一党の力の源泉となっていた。

 ルシオは、このガンガたち一党に都に入ってすぐにカモにされた。

 なんとか一人、いつも追放されパーティーを転々として都にたどりついた。

 一度、酒と食事を奢られていい人だ、と気を許してから、この人物から離れられなくなった。


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