32 組合へ
「おおう、にぎやかそうな街じゃないか」
馬の上から勇者様もはやくも、はしゃいでいます。
シエレンの町は思った以上に大きな街で、いろんな物品を扱う大きな商店や小さな店が集うバザールがあり多くの人でごったがえしています。
野菜果物売り、武器屋、服やアクセサリーなど沢山の店が建ち並び、人々が行き交っています。
呼び込む声や、買い物の交渉ーーそして。
大鍋で煮たスープや肉を焼くよい匂いも漂ってきます。
昼間から飲んだくれている人がそこかしこにいます。
きっと近くに酒場街があるのでしょう。
人の波を縫うように大通りを歩いてゆくとやがて宿街のある地区へ尽きました。
何軒も宿がありますがーー。
「あ、あそこ良さそうだよ! エレちゃん」
「あそこは駄目ですっ」
すかさず回答。
元の世界の風にいうと5つ星ホテルでしょう。
入り口に噴水とシャンデリアが見えます。
私たちがそんなところに泊まれるわけないでしょうに、まったく。
「あ、あれなんか、すごく可愛くていいんじゃない?」
看板や建物がピンク色です。
なんかあれは前の世界ではラ○ホテルと呼ばれるものじゃないでしょうか。勇者一行が泊まるわけにもいきません。
「ここがいいと思います」
皆さんの貴重な意見は却下させていただきます。
ホテル街を歩き、その中から清潔で、高級すぎず、それなりに快適でお手頃な宿を見つけることができました。
そこからさらに宿の人に値切り交渉をして多少まけてもらいました。
無事に泊まる場所が決定。
「お疲れさま、エレーナ」
勇者様からねぎらいの言葉をいただきます。
選んだお部屋もそこそこ満足していただきました。
あとはのんびりして、食べて夜寝るだけ。
「まだ寝るまでに時間あるから、街見物に行こうぜ!」
「なにかおいしいもの食べに行こうよ」
早速、荷物を置いて、そこそこで皆さん、外へ飛び出してゆきます。
お小遣いを受け取った皆さん、街へ繰り出すのです。
「ふう……」
日が暮れないうちに見つけることができてほっとしました。
一つ町でのお仕事終了。
皆さんは宿から出ていってしまいました。
本当に疲れ知らずですね。
まあ、新たな町で旅の情報収集をするのも、決して無駄な作業ではありません。
いろんな人に聞き込みをして魔王討伐のための手がかりになるものを掴むのもお仕事のうちです。
「行ってらっしゃい、皆さん」
手を振って仲間の背中を見送ったわたしは身を翻します。
「さて……」
帳簿とアイテム袋から、お金を取り出しました。
その間に私はやることがあります。
まずは道中で得た戦利品の処分。
さきほど宿にくる途中で見かけた市場に行き、買い取りをしている商人さんたちにあたって、売却交渉をするのです。
「え……と、ここかな……」
なんとか歩いていける距離にありましたので、徒歩で向かいます。
女の子の足では結構これも大変ですが、馬車や駕籠に乗る余裕はありません。
「あ、あったあった」
バザールの近くには、商人組合が必ずあります。特に道を尋ねるまでもなく見つけることが出来ました。
それらしい看板が大きな通りの前にどんと飾られています。なるほど、ここがシエレン商人組合運営の取引所ですか。
その中に入ると、この町の商人関係の人が行き交っています。
情報交換も盛んに行われています。
難しい顔をして、のっぴきならないお金の交渉をしている方や、何か良い儲け話はないかと仲間うちで話している人たち。
のんびり雑談、旅の苦労を語っている人たちもいます。
そして何らかの商人組合に所属している証をみせれば、この取引所での売買は難なくできます。逆にここに話を通していないと、物の売買はできませんし、勝手に物を並べて売ることだってできません。
この取引所はとても大事な場所なのです。もちろん個人間でこっそり取引をして、ばれなければ良いかもしれませんが、大抵、多少なりとも金額が動くと、どこかでばれるもの。
その時は大変重い罰則罰金が科せられます。
勝手なことはしない方が賢明ですね。
シエレンもそれなりに大きい町ですが、さらにもっと大きな街では個別の業種、細かい商品ごとの取引所があります。
店舗を構えることができない旅の行商人や、商人同士のやりとりではここで一時的に許可を貰って取引を行います。
余所者が勝手に各商人といきなり取引はできません。
「砂漠で取れた鉱物、買わないか?」
とか
「北方で取れた穀物が――」
といった会話が交わされています。




