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33 準備は怠りなく

「すいません、ここで取引を行いたいのですが」


 取引所の受付の年輩の男性に声をかけます。


「おや、ずいぶん若い子だね。行商証は持っているのかい?」

「はい、ここに」


 懐から取り出したグラスタニアの商人ギルドの証を見せます。


「ほう、これは確かに。グラスタニアから来たのか。これはまた遠くからきたもんだ」


 相手の態度が変わりました。

 最初は今にも邪魔だから、外で遊んでいろとつまみ出されそうなくらいの子供扱いでしたが


「よろしいでしょうか」


魔物よりも怖い魑魅魍魎の跋扈する世界。

 わたしのような若い女というかほぼ子供が取引所に来るのは珍しい上に、海千山千の商人たちからすれば、かっこうのカモです。

 けれどもこのギルド証が保障してくれます。


 下手に早くお金が欲しい素振りをみせたり、物欲しそうにがっつくと買い叩かれる――。


「勇者様の旅の工面だ、そうしたら寝覚めが悪い」


 なんと特別に手数料を免除してくれました。通常は売り上げの何パーセントかは取られます。

 勇者様のご威光に救われました。ありがたいことです。

 お金が入ったらその分配は行うのが取り決めです。

 その分は旅の資金にあてることができます。


 奥の部屋の方を指さし、行きな、と指示されました。

 グラスタニアの商人組合証ならこの大陸なら大体通用します。

  

 奥にいる商人さんたちからも珍しがられました。


「ほう、こんな幼い子が」

「わざわざグラスタニアからねえ」


 お子さまな外見であることも今回は良い方向に働きます。


「で、ものはなんだい?」


 たばこの臭いプンプン。でもここは我慢です。


「狩った赤翼竜牙と、ミニオークの毛皮です」

「こりゃあいい。最近値段があがっていたんだよ」


 どうやら、いい流れができました。何人かの商人が興味を示しました。

 参考に品物の一つをサンプルとして見せました。


「ほう、これはまた珍しいーー全部まとめて12000ゴールでどうだ」

 ゴールはこの大陸での通過単位です。

「いや、こっちは7000だそう」

「ミ二オークの毛皮は6000だ」


 一番高い値段を提示してくれた商人さんに売ることにしました。

 早速、取引成立の書類とそれを証明する立会人の方のサインももらいます。

 あとから不払い、難癖つけて納入しないなどのトラブルが避けられます。


「いいもんが手に入ったよ」

「こちらこそ」


 今回は途中の峠越えで得た野獣の皮や爪が予想よりも高い値段で売ることができて幸運でした。

 洞窟や森の探検で宝石を獲得するーーなんてことはそうそうありません。

 ATMというものも宅急便というものもありませんし、旅の一座では借金やつけもできません。

 なので行く先々で、依頼のお仕事をしたり、あるいは入手したものを売ったりして資金を集めなければなりません。

 その取引も常にその場勝負。やるかやられるかです。

 目利きがないと、粗悪品を掴まされます。

 勇者様や戦士さんたちはそれぞれ自分たちの分野の剣や防具などについてはそれなりにわかりますが、それ以外のことはさっぱりです。

 取引以外にも、水や食料の仕入れなど、やることはいっぱいあります。

 馬が疲れているようなら新しい馬に変える。


「わたしたち、帝国を目指しているのですが……」


 そこにいる旅の商人さんたちから、またさらに次の町の情報を入手します。

 入国困難な国か、下手をすると封鎖されているルートだったりしますので重要です。


「ほう、そうすると街道を行くのかい」

「いいえ、その前にリディナ王国に寄る予定です」

「わざわざあんな山の中のところ……そうか勇者ご一行だもんな。なら馬車はしっかりしたものを用意した方がいい」


 わたしたちが次に寄る予定のリディナ王国は山の中にぽつんとある小国です。

 話によると、峠の途中、一軒の農家があるぐらいで、道も悪い。食料、水なども入手が困難だそうです。できるだけのものはここで買った方がいいという助言を得ました。

 あまり危険な箇所はないそうですが、途中の坑道が唯一注意が必要とのことでした。


「リディナ坑道は最近魔物が出て危険だという話もあるが、そこを迂回するかどうかは、考えた方がいい」


 貴重な数々の情報を得ることができました。


「ありがとうございます」


 得られた情報を元に準備に取りかかります。


「すいません、ついでにこれとこれも、お願いします」


 穀物、肉、お酒。減ってきた必需品を補充。

 それから事前に作成していたメモ。

 ルビーさんが武具を握る手袋が欲しい、と。

 それからシルヴァさんは、使っている革製のブーツが、雨が染みてくるようになって、最近履き心地が悪いんだとか。

 マリーさんは使っている錫杖にはめ込まれている水晶が欠けてきているとか。

 それからうちは女の子が多いので、それ用の必需品も購入しておかないといけないですね。

 武器の手入れも必要です。

 馬車の幌の破れた箇所も修繕しないと。

 色々やることはいっぱいです。

 早速、近くにいた別の商人の方に声をかけてゆきます。


「よしきた」 


 なるべくポーション、毒消し、馬車の車輪や幌の予備など、用意することにしました。

 それらの調達もしていきます。明日出発前に取りに来ることを約束しました。


 さて、取引その他諸々の準備も終えることができたので、受け取ったお金をアイテム袋の中にしまいます。

 このアイテム袋は、わたしにしか操作できません。一度入れてしまうと軽々と持ち上げることもできます。

 ただし、何でもかんでも入れることはできません。ある程度以上の大きさの物は入りません。

 数百の小物を入れることができるようになっています。

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