29 いざ街へ
「よし、しゅっぱつ!」
金目のものはあらかた馬車に積み込みました。
勇者様の号令と共に再び馬車は動き出します。
またわたしたちは荷台の上で、一息つきます。
戦闘時に何もせずに身を縮めていただけ。
なんで、それで勇者パーティーメンバーがつとまるかって? わたしの存在意義って?
わたしの役割はむしろここからです。エレーナは雑務担当です。
お金やアイテム、生活の雑務をこなして、勇者様の旅を支えるメンバーなのです。
戦闘スキルを持っていないことは最初からわかっていることですので、最初から戦力としては期待されていません。
だから、戦闘に参加してなくても文句を言われることはありません。
もちろん勇者様の旅に加わっているのに戦いに参加しないのは、忸怩たる思いがあります。
私だって、そういうスキルを持って生まれたなら、剣使って戦いたいし、魔法でぶわっと魔物を倒すようなこともしてみたかったです。
本当のことを言うと。
こういう役回りだから、この道具士という職種からの勇者パーティーへの参加は人気がなくて、わたしのような人間にお鉢が回ってきてしまったというのが真相だったりします。
リスクが多いわりに、名誉もない。
そして常にリストラ候補筆頭。
もちろんわたしのへっぴりごしはその後の皆さんの話題の餌食です。
まあ戦闘時にわたしが逃げ回って皆さんの失笑を買うのは、定番のことなんで、今更どうも思いませんが。
「はは、さっきのエレーナ、まじびびりすぎだって」
怖いものは怖いんです。
なんとでも言ってください。
もともと戦闘では道具師なんて、一番弱い立場にあるんですから。
それに前世も武闘派肉体派ではありませんでしたから。
「皆さんお強いですよねえ、羨ましい……」
わたしはこういうとき、身を縮めるしかありません。
「なーに、あんなの序の口だよ」
こちら世界では生まれもって与えられた才能やスキルが全てで、努力ではどうしようもない部分がかなりの割合を占めます。
理不尽ですよね。
「少しやってみるかい? 稽古つけるよ?」
ルビーさんが剣を差し出してくれます。
「いえ、遠慮しときます」
即座に否定すると苦笑の声が漏れてきます。
「ははは」
少々の冷やかしなど気にしません。
それに町が近づいてきたので、私にとってはこれからが本番です。
しばしの小休止を経て、再び馬車に乗り込み再出発。
さて、いよいよ次の町、シエレンが近づいてきました。
ごつごつとした岩場と草木がまばらな荒涼たる景色がこのところずっと何日も続いていました。あるいは不気味に鬱蒼としている樹海など。
たまに魔物に襲われた不幸な旅人のそのまま打ち捨てられた亡骸などを見たりすることもあります。
「うわっ……ひでえ……」
馬車を操る勇者様が、呟くとルビーさんも顔をしかめます。
「みたくないねえ、ああいうのは」
錆びた剣が落ちていたのは、恐らく必至で抵抗をしたのでしょう。
「不幸にも旅路に命尽きた、このものたちに神の安らぎを……」
マリーさんが祈りを捧げます。
恐がりのわたしはみなかったことにします。
すぐに馬車の中に戻る。
「何かあったのですか?」
隣で、魔術書を読んでいたシルヴァさんがようやく顔をあげました。
「いえ、なんでもありません」
「そうですか」
また書物に顔を戻します。
しかし、しらばくすると徐々に明るい緑が増えてきました。
もうすぐ街です。
麦畑や牧場、風車なども見えてきました。どうやら危険地帯は抜けたようです。
のどかな農村の景色に変わってゆきます。
年々魔物が活動する地域が広がっていて不安が広がっているようですが大陸全体でみればまだまだ平和です。
少し前まではこの世界でも人間同士の争いごとや国同士の戦争が繰り広げられていたと聞きますが、この魔物がはびこるご時世、戦争どころではなくなって、一致して対処しようという機運も高まり、人間同士の戦争は一旦沈静化しています。
皮肉なものですね。




