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そう、双丘が目の前にある。慎ましいサイズだが、確かに倉間の首の下…腹の上…要は胸元にそれはある。
「…何これ?何か付けてんの?」
そういって鷲掴むと。
「ひゃん⁉︎」
「おーリアルリアル…」
「ちょっ…やめっ…あっ…」
…うん?ちょっと待ってくれ。何か倉間、感じてね?え?あれ?これパッドとかじゃないの?なんか硬い突起出てきたし…え?ちょっ…
「え?これ…本物?」
「はぁ…ほ…本…あぁっ…物だよ…」
「え?でもお前男じゃ?」
熱い息をしながら答える倉間をポカンと見てると、意を決したのか少し緩んでいた顔を引き締めて体を覆っていたバスタオルを自分で剥いだ。
その胸はやはり…双丘が有り、股間には男に在るべきものがなく…そこから先はノーコメントで。
「ね?皆と違うでしょ?」
「……………Whatisthisshit⁉︎」
「英語で言われても分かるけど…だから言ったんじゃないか。僕は男なのに拓人達と全然違う体だって」
「…ちょい待ち。お前は盛大な勘違いをしている」
「え?突然どうしたの?」
「お前…女じゃん」
そう、幾ら何でもその体で男は無理があるだろ?胸は…まぁギリギリ考えるとしても股間にブツが無い時点で違うだろ?工事したわけじゃあるまいし。
「え?じゃ僕は男じゃ無いの?」
「列記とした女だな。寧ろどこに男の要素があるか教えて欲しいレベルで」
「でも…え?じゃあ…」
「安心しろ」
何か不安そうな顔をするが別に男だろうが女だろうが倉間は倉間だ。
「どんなお前でもお前は俺の親友だ」
「…」
「ん?」
何故か目に見えてしょげる。どうした?
「いや、確かに女であって親友なのは嬉しいんだけど…恋愛対象にならないんだね…」
「何か言ったか?」
「別に何でも無い!ほら、体洗い合お!」
「へいへい」
取り敢えず、変な所を触らないように細心の注意を払って倉間の身体を洗う。
まさか倉間が女だったとは…完全に墓穴を掘ったぜ…
しかし何故か洗われる立場になると…押し付けてくるんだよ。は?何をかって?何ってナニだよ。
…うん、すいません…白状します…胸だよ…胸押し付けられたんだよ畜生!
何とか理性を保って風呂を上がった。正直、前も洗うと言われた時はどこのエロゲーだよと言いそうになった。
はぁ…あ、鮭とか良い塩梅かな?
「…うん、良い感じだな」
「拓人ー…⁉︎」
「うん?どうした?」
「何でジーパンだけなの⁉︎」
「暑いから…そう言うお前は何でデカイ白シャツだけなんだよ!下着は着てるのか⁉︎」
「…ぱ、パンツだけは…」
「上も着なさい!」
ノーブラ⁉︎流石にそれはマズイ!俺は男だからまだしも女と分かったからには流石にそう言う格好は頂けない!
何とか上の下着も着させて、出来上がった鮭とイクラの親子丼の具をタッパーに入れて魚屋に向かう。
玄関に行くと後ろをトテトテと倉間も付いてくる。
頭をワシャワシャと撫でてから一言告げる。
「すぐ帰るから待ってろよ」
「うん、行ってらっしゃい」
はにかんだまま倉間は手を振ってくれた。
俺はそのまま扉を閉めて歩き出した。
まさかこの会話が自分の人生最後の会話となるなど知らずに…
☆★☆★☆★
拓人が出発してから僕は拓人の部屋でベットの上でゴロゴロしていた。
「そっか、僕は女なんだ…なら…うぇへへへぇ…はっ⁉︎」
ちちちち違うぞ⁉︎べべべべ別に!拓人に夜這いしようとか考えてないからね!
悶えながら転がっていると拓人のクローゼットに目がいった。
開けると中にはたくさんの服が。
あ、拓人のブレザー。
手繰り寄せて…
「スゥー…ハァー…うぇへへへ…はっ⁉︎」
これは…違う!そう!これはアレだ!上島の変な臭いが移ってないかの確認だ!
暫くブラブラとしていた。時計を見ると拓人が出発してから既に二時間半経って九時半になっていた。
遅いな…あの商店街までは徒歩でも二十分で往復できるのに…
と、机の上にあった拓人のマグカップがパキンと突然真っ二つになる。
何故かはわからない。けど、嫌な予感がした。拓人の身に何かあったんじゃ…
その時、バタン!ドタドタと言う足音が聞こえる。拓人かな?
しかし扉を開けて入ってきたのは拓人のお母さんだった。
「はぁ…はぁ…た、拓人はここには⁉︎」
「居ませんが…どうかしたんですか…?」
突然入ってきて僕の言葉を聞いた途端、崩れるように座り込み無表情になる。
「じゃあ、夢でも間違い電話でもなかったのね…」
「どうしたんですかおばさん⁉︎」
この質問におばさんは光のない瞳を向け、信じられない言葉を吐き出した。
「拓人が…殺されたのよ…」
「……………は?」
拓人が…死んだ?
その一言を理解した時、砕けるような私の世界が壊れる音がした。