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第9話 家族会議

「ごめんなさいリアラ、もう大丈夫かしら?」


「ハイ。リン様ハ勇者様ダカラ大丈夫デス」


いやー、無事復活して何よりだ。よかった、よかった。


「でもこれ、私には使えないわねぇ」


「もしかして撃った後の手元から離れた魔力が維持できない?」


「んー、魔力の供給やめても3秒くらいは維持できてるみたいだから、その点は特に問題は無いと思うけど・・・この矢はどうやって撃てばいいのかしら?」


「む、確かにそうだな、盲点だった。並の弓ではこの無属性魔法の矢をつがえることもできずに壊れるだろう。例え壊れず矢をつがうことができても魔力の渦で狙い撃つこともままならぬ。威力は凄まじいだろうが、撃てたとしても牽制射撃程度だな」


「別の方法を考えるしかないみたいね。そうね、弓自体にも魔力を・・・は無理ねぇ。魔力の渦が反発して、さらに狙いが定まらなくなるだけだわ」


弓矢の無属性魔法は厳しいみたいだな。遠距離攻撃は普通の魔法だけでいいじゃねぇの。


「もう、そのまま殴っちゃえよ」


「弓矢全否定とは私のやる気をごっそり持っていくわね。でも確かに、無属性魔法を武器じゃなくて、そのまま腕に使ったらブーストよりも大きな威力がある気がするわ。どうなのかしら?」


姉貴も魔法が弓矢よりも使いやすい事は分かっている。そして弓を使いたいという理由だけで戦闘力を下げるわけにもいかないという事も分かっているのだろう。だからこそ様々な可能性を模索し、リアラに尋ね、ヒントを探している。


「ア、ハイ、ゴホンッ。どちらも、基本的に魔力量に比例して威力は変わりますが、威力は無属性魔法の方が圧倒的に上です。しかし、そのかわり使用する魔力量も圧倒的です。なので、時と場合により使い分けることが重要となります。私は普段の近接戦ではブーストを使い、最後の手段として無属性魔法を使うことにしています」


つまり、遠、中距離は魔法、近距離はレイピア、奥の手として無属性魔法という戦闘スタイルか。おそらく達也も武器が違うだけで同じような戦い方だろう。


「なるほど、魔力はブーストの方が効率は良いみたいね。弓矢に無属性魔法が使えない以上、私はまずブーストと魔法を優先して練習するわ。達也はどうするの?」


「ブーストはまだ荒削りだから、俺もやるよ。どんなことも基礎からやっていく方が効率もいいだろうしね。魔法も覚えていかないといけないし」


「ブーストも一応、難易度の高い魔力技術なのですが・・・いや、流石勇者様ということですな」


呆然とし続けていたザインがいつの間にか復活していた。ブーストを基礎だと思っている事にショックを受けているようだが今回は耐え切ったようだ。今なら彼も俺と同じ事を思っているはず。

流石勇者様。チートですね、わかります。大事なことなので2回言いました。


「ああ、ザインの言う通りだ。年若く、戦闘経験があまり無いと聞いた時は不安に感じたが、流石は勇者だ。これなら時間にも間に合うだろう。・・・父上に朗報ができたな」


リオン王子はフッと笑みを零しながら安堵の息をつく。

それを横で見ていた俺は逆に不安になってしまった。最強の騎士ザインと宮廷魔術師の5倍の魔力を持ち、究極の魔力技術を覚えた姫リアラ、その2人がいるにも関わらず勇者の召喚を行った国であるディアルク王国に。そして、さっきのリオン王子の言った時間に間に合うという言葉に。


「タツヤ、力を見せてほしいという私の我侭に付き合ってくれてありがとう。リンも見事な無属性魔法だった。3人共疲れただろう、部屋に戻り休んでくれ。私とリアラは少し用事を片付けてくる。まだ、色々と話し足りないが明日も会えるだろう。では、失礼する」


「御二方ともお疲れ様でした。要お兄様も病み上がりに連れ回してしまい、申し訳ありませんでした。部屋で御寛ぎ下さい。それでは失礼いたします」


不安を感じていたがリオン王子とリアラに手を振りながら、また明日~と別れの言葉を言ったところで気づいた。気づいてしまった。

別に俺が戦う訳では無いのだから不安なんて感じる必要無いじゃないかと。俺はただ王宮の安全な所で過ごしていればいいじゃないかと。学校も無い、仕事も無い、素晴らしい日々が始まるじゃないかと。そう、ニートの楽園はここにあったのだ。後はパソコンさえ、こっちの世界でもあれば永住してもいい気がする。


自分達の部屋に着いた頃、そこには不安の原因をすっかり忘れ、上機嫌で「2人共頑張れよ!」と、ある意味心のこもった声援を送る要がいたという・・・




ここは夜のディアルク王国、その王宮の客室の一室、勇者リンの部屋は光に照らされている。光の属性を持つ煌びやかな細工のされた魔道具が天井に吊るされ、部屋の中は昼間のように明るくなっている。そして部屋に大理石の机を囲む3人の姿があった。


「いやー、風呂に入るときメイドさんが世話役として入ってきてめっちゃ驚いた。驚いたというか引いた。断ったけどあれは情緒が無いなぁ。メイドなのに萌えないってどういうことだよ。さらに風呂も豪華すぎて2度驚いたし」


「萌える萌えないはともかく、初日に俺達もその道は通ったよ。文化の違いに驚かされるよね」


「さすがに貴族とかの裕福な家柄限定の文化だと思うけど。まぁ、いいわ、それより始めるわよ。家族会議」


豪華な夕食を食べ、これまた豪華な風呂を入り、一息ついてた所で姉貴に呼ばれた。昼間に言っていた俺たち3人だけでの話し合い、家族会議である。重要な事柄は家族全員で決めるという神崎家の伝統行事なのだ。


「3人で家族会議するのはいいんだけど、本当に3人だけか?」


いつもの家族会議には母さんや父さんも参加して5人で行う。もちろん、ここにはその2人は居ない。故に3人で行うことは問題無い。しかしここは王宮。それも重要な客を泊まらせるための部屋。つまり隠れているスパイに話を盗み聞きされる可能性があるという事だ。


「今は間違いなく3人だけよ。この部屋と周辺には他の気配を感じないわ。これでもし聞かれているなら、その人には到底敵わないわね。潔く覚悟しなさい」


「昨日、一昨日は居たけどね。初日は警戒されても仕方ないと思ってスルーしたけど、寝ようとしていたら、その気配がどうしても気になって寝不足になっちゃって。2日目も居たから流石にもう止めてほしいってお願いしたんだ。すぐに止めてくれたから今はもう居ないよ、多分」


確かに今日1日は視線を感じまくっていたが、気配というのは俺にはよくわからんなぁ。まぁ、こいつらが居ないと言うのだから居ないだろう。


「聞かれたとしても立場が少し悪くなるぐらいよ。正直気にすることでもないわ。じゃあ、始めるわよ・・・会議を始めるに当たり、私たちは要に謝らなければならないことがあるわ」


「ん?何かあったっけ?」


もしかして、先週俺が買って冷蔵庫に入れていたプリンがいつの間にか消えていた事についてか!名前も書いていたのに・・・許さん!


「ごめんね、こんな事に巻き込んでしまって」


「ごめん、兄ちゃん。あの時、俺が兄ちゃんの腕を掴んでいたから・・・あの時、意地にならないで手を離していれば、こんな事には・・」


ああ、なるほど。こっちの事ね。


「あなたが目を覚まさなかった間ね、怖かったの。もしかして、異世界じゃ呼ばれた勇者以外は目覚めないかもって。今回以外にも今まで私たちはあなたを色々な面倒に巻き込んでいたわ、それも面白がってね。よくよく考えれば酷い姉ね、私」


暴力団と銃撃戦になった事もあったんだが・・・よくよく考えなくても酷くね?


「兄ちゃんはさ、なんだかんだ言いつつもトラブルになってる俺たちを助けてくれたから、俺たちもそれを当たり前のように頼ってて・・・でもさ、リオン王子に兄ちゃんが巻き込まれた時の説明をしていた時、召喚に巻き込まれて痛いだけですんでいるのは奇跡だって聞いて驚いたんだ。本当に死んでいたかもしれないって・・・なのに、それなのに、俺は兄ちゃんに魔王を一緒に倒しに行こうなんてさ、死んじゃうかもしれないのに、当たり前のように言っちゃってさ、馬鹿だよね、俺」


・・・・。


「ごめんなさい、要。取り返しの付かない事に巻き込んでしまったわ。いつ魔王を倒せるか分からない。それどころか魔王を倒しても元の世界に帰れる保障はどこにも無い。・・・もしかしたら帰れないかもしれない。そんな世界に勇者でもないあなたを連れてきてしまった。召喚に関係なく私たちのせいよ。本当にごめんなさい」


「ごめんなさい、兄ちゃん。ごめんっ、うっ、っうぅ」


・・・・。

・・・・。

やべぇぇ!気まずいぞっ!気まずすぎるっ。姉貴は目に涙浮かべてうつむいてるし、達也に至っては号泣してるし。やべぇぇ!

言えねぇぇ!ニートの楽園に移住するつもりでした、なんて言えねぇぇっ!唯一の心残りはパソコンです、なんてこの状況で言える訳ねぇぇぇっ!

やばいやばい、何とかせねば・・・


「・・・ていっ」


「きゃ!?」


「えぎゅっ!?」


とりあえずチョップを姉貴と達也の頭に繰り出す。いいところに頭があったのでついやってしまった。というか、えぎゅってコイツどこから音出てんだ?


「お、お前ららしくないなぁ。いつもなら一緒に行くぞ、なんて普通に言ってるとこだろ?まあ、流石に今回は戦闘できない俺は付いていけないけどよ。確かにいつも巻き込まれてさ、大変な目に合ってるし、走馬灯何度も見たし、死にかけたこともあるし、人質にされたこともあるし・・・本当に酷い人生だな俺・・と、とにかく色々あったが、それでお前らを嘆いた事は有っても恨んだ事なんて一度も無いぜ?今回も、これからもだ。俺としてはいつもよりちょっと趣向を凝らしたもの用意してきたなって程度だし、今結構楽しんでるしな。そりゃ、こっち来るときは痛くて死ぬかと思ったけど、今は痛みも治まってるから問題無いぜ。後、姉貴が帰れないかも知れないって言ったけどよ。ゲームや漫画で知らないのか?こういうお話は魔王を倒したらハッピーエンドで終わるのさ。帰れるか分からない、じゃない、帰れる、だ。そうだろう勇者様?」


「・・・そうね」


「・・・うん、えぐっ」


他人に聞かれたら死ぬほど恥ずかしいが・・まぁ、本心だ。この2人と一緒に生きてきたからこそ俺の人生と言える。だとすると、こいつらに巻き込まれない人生は俺じゃ無いかも知れないな。人生の終わりは勘弁願いたいが。


「まあ、せっかくの異世界だ。こんなこと滅多に無いんだから楽しまねーと損じゃね?少なくとも俺は楽しむつもりだぜ、このニートの楽園をよ」


「・・ふふ、そうね。少し、気持ちが楽になったわ。ありがとう、要。・・ニートの?」


「ありがどぅ、兄じゃん。・・楽園?」


ゲッ!やばい。最後の最後で。


「ああ、いや、イートだ。Eat。イートの楽園。ここは飯がうまいからなーいつも楽しみなんだよなーハハハハハ」


「確かに、食事はすごいわね。まるでフレンチのフルコースみたい。ただ王宮以外は、一般の家庭はどうなんでしょうね。学校の授業では中世時代、どの国でも戦争のせいでまともな食事も出来ない時代があったと聞いたわ。もしかしたら魔王が誕生してしまった今、この国もそんな状況に置かれているかもかもしれない。・・・でも、そんな状況を知らずに生きてきた私達にはその苦しさは考えもつかないかもね。日本は豊かな国だったから。普通の家庭でも小さな子供のお小遣いで美味しいお菓子が買えるほど、ね」


「まだ、王宮から出たことが無いから状況が掴めないね。市場とか見渡せれば大体の台所事情は分かるかもしれない。今度リアラに頼んでみるよ。」


「そうね、他にも色々見ておきたいわね。けれど私たちが辛く思ったとしても何の解決にもならない。私達はのすべき事は魔王を倒すことなんだから。・・ふふっ、でも要の言うとおり、どうせなら私もこの世界を色々楽しませてもらうとするわ」


ふぅ、なんとか切り抜けたようだな。それにしても美味しいお菓子と言えば、


「先週、冷蔵庫に入れておいた俺のプーチンプリンは一体どこに消えたんだ・・・?」


「何それ?私は知らないわよ?」


「あ、ごめん。そういえばそれ、俺が食べちゃったんだ」


・・・・はっ?


「・・・お前、あれ俺の名前書いてたろ、なんで食ってんだよ!」


「いや~、無性に甘いものが食べたくなってさ。後で買って戻しておけば大丈夫かなって。そういえばそのまま忘れちゃってた。ごめんね、兄ちゃん」


もう駄目だ。俺のプーチンがプッチンだわ。


「てっめぇぇ、ふざけんなっ!あの日、風呂上りにプッチンするために楽しみにして置いてたんだよ!シベリア送りにすんぞ、ゴラアアァァ!恨んでやるぞ、この畜生めぇっ!」


「うわぁ、プリンごときでガチ切れって・・・というか、ついさっき俺たちに恨む事は無いって言ってたよね!?」


プリンごとき・・・だと?


「食い物の恨みは怖いってことわざ知らねーのか!うわああぁぁ、達也!元の世界に戻ったら倍にして返せよっ!?」


「・・・5倍でも、10倍でも好きなだけどうぞ」


「10倍・・マジか、スゲェ、食い放題だ・・・。ああ、でも、早く食べたいな。ここの料理人に作ってもらえば・・・ちくしょう、材料も調理法も全然知らねぇよぅ」


「・・・プリンなら私が昔作った事あるから教えとくわ、材料が揃えばだけど。そんなことより、さっさと会議の続きやるわよ」


姉上様、あなたは神で御座います。

他人のプリンを勝手に食べることは重罪です。名前が書いてあるプリンを勝手に食べることは極刑クラスです。いつも末っ子が被害に遭ってしまうのだよ。そう作者のように・・・

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