第15話 うふふ、妖精さんが見えるよぉ
召喚されて10日、俺が目覚めて約一週間が経った。何事も無く時は過ぎていった・・・と言いたいところだが、それは勇者をしている2人の話であって、俺はと言うと・・・
『ねー、聞こえてるんでしょうー。こっちを向いてよー、お願いがあるんだよー』
『あるんだよー』
聞こえない・・・俺には何も聞こえんぞ・・・
『見えてるんでしょうー。気づかない振りしないでよー』
『しないでよー』
見えない・・・俺は何も見ちゃいないぞ・・・
『お願い聞いてよー。うわぁーん』
『うわぁーん』
「泣きてぇのはこっちだよ!昨日からしつけぇよ!うわぁぁん!」
大きさが掌程度の小人のような、いや、フワフワと空中を漂ってるから妖精と言った方が正しいのか?なんにせよ現在、俺はコイツに絡まれている。きっかけは前回俺の部屋に入り込んだ謎の光る球体だ。あの球体は次の日の朝にまたやってきやがった。それも数を増やしてだ。最初に見た白色の球体に加え、赤、青、黄、緑と戦隊ヒーローかと思うほどのカラフルな球体が合計5つ。捕らえようと試みるがやはり逃げられた。それからだ、発光しながらフワフワ浮かぶ奴らは毎朝やって来ては俺の安眠を妨害してくるようになったのだ。3日目以降は捕まえる事を諦め、眩しくないように目を押さえ寝続けたのだが・・・問題は5日目からだった。声が・・・奴らの声が聞こえるようになったんだ。最初は何を言っているかわからない位だったんだが・・・今じゃこの通りだ。ちなみに初めてこいつらの言葉を理解したとき、俺は「キェェアァァァシャァベッタァァァ!!」という奇声を上げ達也の部屋に逃げ込んだ・・・どうでもいいことだな。
さて、謎の球体改めうざい妖精、こいつらの重大な問題点を挙げるとしよう。それは・・・何とこの妖精は俺以外には見えないし、声も聞こえないという点だ。初めてこの妖精を姉貴と達也に伝えた時、2人は無言で首を横に振り、そのまま医者まで連れ行くという俺の心に大きな傷を残す行動を取りやがった。その日の夜、少し涙が溢れたのは内緒だ。
医者は、つまりここでは治癒魔術師であるが、どうやら俺の専門医になっているらしいグロトじいさんだった。じいさんは頭を強く打ち、残念な事になってしまった、もしくは異世界に来たというストレスによって幻覚、幻聴の症状が現れているのどちらかだろうと不憫な目を向けながら診断結果を下した。そんな目で見ないでくれ。溢れる涙がさらに増えるから。
まあ、この診断で原因はストレスによる幻覚だろうとなった。頭を強く打った記憶もないし、俺が王様に狙われている事を知らないグロトじいさんですらストレスの可能性が有ると言ったのだ。もうストレス以外に選択肢が無い状況だ。俺としても頭が残念よりもまだストレスによる幻覚のほうがマシなのでその診断結果に甘んじている。そんなこんなで今の状況なんだが・・・
『うわぁーん』
泣き声を挙げる妖精が2匹、色は両方とも緑。実は昨日からずっと付き纏われていて、本当にうっとうしい。ストレスを溜めない治療生活を過ごす筈だったんだが幻覚のせいでストレスがどんどん溜まっていくという無限ループに突入している。この2匹の妖精は何やらお願いが有るらしいのだが、俺は無視を決め込んでいる。多少の泣き言は漏れているが。
何故こいつらを無視し続けるかと言うと、よく怖い話とかで、聞こえるはずの無い声と会話すると仲間に引きずり込まれるとかを聞くからだ。おお、こわいこわい。
無視と言えば未だに天井裏で俺の護衛をしている人達とは話すどころか姿さえ見ていない。リオン王子に彼らについて聞くと、俺の身に危険が無い限りは居ないものとせよ、と命令しているらしい。見えるはずの無いものが見える人間の護衛とか嫌だろうな。もし話せる機会があったなら謝っておかないとな・・・現在も護衛してもらってるんだし、今言ってもいいと思うけど・・・一見何もない所に話しかける姿は第三者から見たら痛々しいにも程があるから止めておこう、うん。
「ああああ、それにしてもこいつらの声はうるせーな!妙に甲高いから頭に響くんだよ!」
左手で頭をガリガリ掻きながら泣き喚く妖精2匹を窓の外に追いやるように右手で払う。払われた2匹は空中をコロリコロリと窓の外まで転がっていった。会話はしていないからセーフだろう、きっと。窓をきっちり閉めると奴らの声も聞こえなくなって一息つくことが出来た。まあ、あの妖精どもは完全な密室にも何時の間にか入り込んでいるから油断は出来ないんだが。
「要、入るわよ。調子はどうかしら?」
「兄ちゃんお見舞いに来たぞー。フルーツ食べる?」
静かになって暫くすると、姉貴と達也がお見舞いに来た。見たことも無い果物が入ったかごを持っている。この世界の果物なんだろう。
「おー、ありがとう。そういや丁度喉が渇いてたんだよ」
妖精に気をとられ過ぎて喉を潤すことを忘れていたようだ。気づけば口の中がパッサパサだよ、パッサパサ。どうしてくれるんだ妖精ちゃん。
「なぁ、兄ちゃん。気晴らしに城の外に行ってみない?」
謎フルーツをもしゃもしゃと食べていると、達也が突然そう切り出した。
「城の外ってことは城下町?そりゃ行きたいけど勝手に城外に出たらまずいだろ?」
そう言うと今度は姉貴がニコリと笑い、右手の人差し指を振った。
「ふふん、今日だけ許可を貰ったわ。もちろん貴方の分もね。行くなら用意するわよ、3人とも街に出ても問題無いような服装をしないといけないからね」
「そりゃそうだ。城の外、異世界の街か。楽しそうだ、ぜひ行って見てみたいな。はしゃぎ過ぎて目立たない様に注意しないとな」
「よし、決定ね。早速準備しましょう。ふふ、楽しみね」
街か、本当に楽しみだ。外の空気を存分に吸ってリフレッシュしないとな!




