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霧の令嬢  作者: Vleuingu
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ミア少女

第1章 秘密の庭に現れた招かれざる客たち

2022年8月31日 水曜日

夏の終わりの陽光が、セツゲフール・テヒモシンの広大な領地に降り注いでいた。高貴な香木の並木が放つ清らかな香りと、収穫を迎えた果樹や穀物の甘い匂いが混じり合う。ここは単なる庭園ではない。少年の汗と努力の結晶であり、生活の糧であり、そして彼だけの小さな王国だった。

しかし、その穏やかな空気は突然、殺気立った唸り声によって引き裂かれた。

茂みの奥で、一匹の小さな野良猫が震えながら身を縮め、死神の視線から逃れようとしていた。次の瞬間、黒い影が襲いかかり、鋭い牙と爪が小さな命に迫る。

「まずい!」

光のような速さでテヒモシンが飛び出した。鮮やかで正確な動作で、牙が閉じる寸前、猫を獣の口から引きはがす。少年は素早く後退し、息を切らしながら手のひらの中で震える小さな命を見つめた。

「こんな時は逃げるんだ、隠れるんじゃないぞ、小さいの」

そう優しく、しかし少し叱るように囁いた。

猫に怪我がないことを確認したテヒモシンは立ち上がり、茂みの中に消えていく豹を見つめながら表情を曇らせた。

「……おかしいな。どうして野生動物が自分の庭に現れるんだ? ここは絶対に安全なはずなのに」

疑問を抱えたまま、彼は急いでフアゼッシンに警告しようと走り出した。遠くに彼女の姿が見えたその時、後方から大きな縞模様の影が静かに忍び寄っていた。虎だ!

「フアゼッシン、危ない!」

一瞬の躊躇もなく、テヒモシンは彼女を抱き上げると跳躍した。古木の高い枝の上へ。驚異的な身軽さで次々と枝を渡り、森の王の苛立った咆哮を背後に置き去りにした。

家に戻り、全員が居間に集まった。テヒモシンの話を聞いたギギュムは眉をひそめ、疑わしげに言った。

「ありえないよ。俺たちは野生の地域からかなり離れている。どうしてそんな獣が主人の庭に入ってこれるんだ?」

「本当なの」

まだ息を整えきれていないフアゼッシンが頷いた。「虎と豹だけじゃない。帰り道には他にもたくさんの猛獣の影を見たわ」

緊張した空気の中、ネベルセレがテヒモシンの服の裾の後ろで蠢くものに気づき、声を上げた。

「きゃあ! この子猫、すごく可愛い! ご主人様が庭で拾ったの?」

テヒモシンは子猫の頭を優しく撫でた。

「もう少しで豹の昼食になるところだったよ」

「この子、どうするの?」とディーススワノが興味津々で聞いた。

少年は微笑み、守るような眼差しを向けた。

「もちろん引き取るさ。これから餌を買いに行ってくるよ」

しかしテヒモシンがドアを出ようとした瞬間、子猫もヨチヨチとついてきて、ぴったりと離れなかった。ダルジョアムーンがそれを見て笑った。

「どうやら離れたくないみたいだね。一緒に行きたがってるよ」

テヒモシンは足を止め、下から自分を見つめる丸い瞳を見下ろした。

「本当か? わかった、一緒に行こうか」

出かける前に、彼は真剣な声で皆に言い聞かせた。

「俺は行ってくる。お前たちは家で気をつけてくれ。ちゃんと戸締まりをして、突然あの獣たちが襲ってこないようにな」

「はーい! ご主人様も気をつけて!」

温かさと少しの不安が入り混じった声が、同時に響いた。


第2章 悪い予感と夜の捜索

ペットショップのドアベルが軽やかに鳴った。テヒモシンは深く息を吸い込んだ。ドライフードと木の優しい香りが、今日の激動で疲れた心を少しだけ和らげてくれた。

「こんにちは。子猫用の餌が欲しいんです。今日ちょうど拾ったばかりで」

彼が微笑みながら店員に言うと、店員も明るく応じた。

「まあ、素敵! きっと可愛い子なんでしょうね。一緒に連れてきてるんですか? どこにいるの?」

テヒモシンは振り返り、子猫を抱き上げて見せようとした。

しかしその瞬間、笑顔が凍りついた。

足元に——何もない。冷たい大理石の床だけが広がっていた。

「……え? 子猫、どこ?」

心臓が締め付けられるような感覚がした。彼は目をこすった。信じられなかった。

「嘘だろ……さっきまで確かに足元にいたのに!」

「外に飛び出してしまったかも! 早く確認した方がいいですよ!」

店員の慌てた声に促され、テヒモシンは店を飛び出した。街路の真ん中に立ち、視線をあちこちに走らせる。

「子猫! どこだ! 遠くに行っちゃダメだぞ!」

声が震えていた。罪悪感が胸を覆う。

抱っこしていればよかった……一瞬でも油断してはいけなかった……。

彼は再び店に戻り、顔面蒼白でメモに電話番号を書きながら言った。

「すみません、すぐ探しに行きます。もしこの子が戻ってきたら、預かっていただけますか。お願いします」

「わかりました。探してきてください。小さい子だから遠くには行っていないはずですよ」

店員の慰めの言葉も、今の彼の不安を和らげることはできなかった。

餌の袋を抱え、テヒモシンは大通りを走った。一歩一歩が重かった。

「子猫……子猫、どこに行ったんだ……」

夕暮れが迫る中、彼は震える指でフアゼッシンに電話をかけた。

「……猫、なくした。店の前で突然いなくなった……」

電話の向こうで一瞬の沈黙の後、大騒ぎが始まった。

「ご主人様、落ち着いて! 今すぐみんなで探しに行くから!」

フアゼッシンがきっぱりと言った。

「信じられない!」遠くからギギュムの非難する声が聞こえた。「豹から救ったばかりなのに、街中でいきなり失くすなんて!」

「私、庭の方を探してみるね。もしかしたら匂いを頼りに帰ってるかもしれない」ネベルセレが心配そうに言った。

「ご主人様はそのままその辺りにいて! すぐ行くよ!」ディーススワノが大声で伝えた。

電話を切ったテヒモシンは、点灯し始めた街灯の下で立ち尽くした。拳を強く握りしめ、心の中で誓う。

——子猫……お前が自分からついてきたんだ。簡単に失くしたりするわけにはいかない。

どれほど速く走れても、どれほど高く跳べても、小さな命と街の複雑さの前では、その力は無力だった。彼は夜遅くまで必死に探し続けた。茂みも路地も隅々まで。

しかし、返ってくるのは風の音と果てしない闇だけだった。

あの小さな子猫は、まるで虚空に溶けてしまったかのように、姿を消していた。


第3章 新たな仲間誕生と猫耳少女の秘密

2022年9月1日 木曜日

疲れた朝日が屋敷の軒先に降り注いでいた。テヒモシンは一晩中探し続けた疲労で目の下に隈を作り、立ったまま微動だにしなかった。

「もう一日一晩になります。ご主人様、そろそろお休みください……」

ネベルセレが震える声で言った。心が痛む様子がはっきり伝わってくる。

フアゼッシンがそっと肩に手を置いた。

「そうですよ。子猫の捜索は私たちに任せてください」

「みんなで手分けして隅々まで探します。ご主人様は体力を回復させてください」

ディーススワノが力強く続けた。

テヒモシンは小さくため息をつき、疲労が全身に染み渡るのを感じながらも渋々頷いた。

「……わかった。お前たちに任せるよ」

しかし彼が部屋に入ろうとした瞬間、空間に奇妙な波動が広がった。目に見えない強固な絆の糸が結ばれ、新たな仲間の誕生を告げていた。

「今かい……?」ギギュムが驚愕の表情を浮かべた。

テヒモシンの目が一瞬で覚醒した。疲労が吹き飛ぶ。

「みんなは子猫の捜索を続けてくれ。俺は新しい仲間が現れた場所にすぐに向かう」

「はい、ご主人様!」

四人の返事を背に受け、テヒモシンの姿は虚空に消えた。


彼は絆の糸に導かれるまま走った。辿り着いたのは薄暗い路地裏。鼻を突く濃い血の臭い。

足を止めた瞬間、目を覆いたくなる光景が広がっていた。

猫の耳と尻尾を持つ少女――ミア少女――が、冷酷に人間の命を奪っていた。

白い頰に飛び散った鮮血が、彼女の美しさを妖しく、恐ろしく彩っていた。

しかしテヒモシンに気づいた瞬間、炎のように燃えていた瞳が一変し、純粋な喜びに輝いた。

「やっと……ご主人様だ!」

少女が鈴のような声で歓声を上げた。

テヒモシンは呆然とし、眉を寄せた。

「……ご主人様? お前は誰だ? なぜ俺のことを知っている? 俺はお前を知らないぞ」

「え? みんなそう呼んでるじゃない」

少女は首を傾げ、くすくすと笑った。

「みんな……?」

「私、昨日ご主人様に助けられた小さな子猫だよ!」

その言葉はテヒモシンの頭に雷を落とした。

彼は目の前の美しいが危険な存在をまじまじと見つめた。

「……信じられない。本当に昨日助けたあの猫の子なのか?」

「詳しい話は後で聞くよ。とにかく今は……」

テヒモシンは慎重に近づき、少女を死体から遠ざけながら言った。

「俺と一緒に家に帰ろう。みんなに説明しないと」

すぐに彼はディーススワノへ念話で連絡を取った。

「ディーススワノ、みんなに伝えてくれ。子猫を見つけた。連れて帰る」


ディーススワノ側。

「はい、すぐに伝えます!」

連絡を切ったディーススワノは信じられない顔で皆に振り返った。

「ご主人様が……子猫を見つけたって!」

「どういうこと?」ネベルセレが目を丸くした。

「新しい仲間のもとに行ったはずなのに、結果的に子猫を見つけたの?」

フアゼッシンは静かに言った。

「偶然ではないわね。あの絆が理由だと思う」

「とりあえず家に帰ろう」ギギュムがきっぱりと言った。

「ご主人様の説明を聞けば全てわかるはずだ」

好奇心と驚きを胸に、四人は急いで屋敷へと引き返した。


第4章 「人間」という名の呪い

屋敷の居間は、驚愕の空気で張りつめていた。

全員の視線が、猫耳を持つ少女とその隣に立つご主人様に集中していた。

「彼女が……俺たちの新しい仲間だ」

テヒモシンが重い声で沈黙を破った。

「……そして昨日、俺が助けたあの小さな子猫でもある」

部屋中に驚きの波が広がり、ざわめきが起こった。

「さあ……話してみてくれ」

テヒモシンが優しく促した。

ミア少女は小さくうつむいた。声は震えていたが、その奥底には激しい憎悪と痛みが渦巻いていた。

「昨日……ご主人様と一緒に買い物に出た時、ご主人様がお店に入った隙に、私、後ろをついていったら……突然、車から人が降りてきて、縄で首を締められて連れ去られたの……」

部屋が凍りついた。

「それから……同じ猫の仲間たちが、次々と殺されていくのを……見せられた……」

声が詰まる。

「私の番になった時……水の中に沈められた……生きていたくて、必死に檻の端にしがみついたのに……彼らは許してくれなかった……」

両手が強く握りしめられる。

「何度も何度も沈められて……私は死んだ……そして……彼らは私の肉を食べた……」

少女の瞳が真っ赤に染まった。

「どういう奇跡か……私は蘇った。そして最初にしたことは……復讐。自分だけじゃなく、すべての仲間の分も……」

レイ・ジョニジが静かに言った。

「神の力によって蘇ったのね。そして人獣の姿を手に入れた」

ユウセインダーが拳を握りしめた。

「動物にも感情があるのに……人間はあんな残酷なことができるなんて……」

「私は人間に、味わった痛みと恐怖を全部返してやりたい!」

ミア少女が叫び、再び殺気が爆発した。

「だから殺戮を選んだのか」アング・フオヒコがため息をついた。

少女は牙をむき、目を赤く輝かせて唸った。

「みんな、私を非難するの? ご主人様以外、私は人間の姿をした全てが大嫌い! お前たちも含めて! 人間なんて死ねばいい!」

突然、部屋の全員が一斉に怒りを露わにした。

しかしそれは少女に向けたものではなかった。

エルライビジンがテーブルを叩いて立ち上がった。

「ちょっと待て! 俺たちを人間と一緒にされるのは、かなり失礼だぞ!」

少女がきょとんとした。

「……え? どういうこと? ご主人様」

テヒモシンは慌てて少女の頭に手を置き、宥めた。

「この中の全員、人間を心底憎んでいるんだ。お前が彼らを人間と同列に扱うのは、一番の侮辱なんだよ」

少女はぽかんとした。

テヒモシンは優しく微笑んだ。

「名前を付けてやるよ。『アエギキット』。韓国の『애기(赤ちゃん)』と英語の『kitten』を組み合わせた名前だ」


全員が人間への憎悪という同じ戦線にいることを知り、アエギキットはすぐに打ち解けた。

そしてそれぞれの過去の暗部が、次々と明かされていった。それは人類に対する血塗られた告発状だった。

アエギキットが小さな声で言った。

「私は……まだ生後6ヶ月の子猫の時に殺された……」

フアゼッシンが淡々と。

「私は生後3ヶ月の時に殺されたわ」

ネベルセレは目を伏せ、声が沈んだ。

「天災を起こしたと濡れ衣を着せられて……集団で襲われて……ご主人様がいなければ、私はあの時死んでいた……」

ディーススワノが眉を寄せ、憤りを浮かべた。

「私を神だと思って、殴ったり殺したりして、不死身かどうか実験されたわ」

ギギュムは壁に寄りかかり、氷のように冷たい声で。

「裏切られて、深い海に沈められた」

ダルジョアムーンは自分の腕を軽く握りしめ、痛みを思い出すように。

「感電実験されて、奴隷にされかけた」

セイントリーシュは自嘲するように小さく笑ったが、そこに喜びはなかった。

「銃口に囲まれて……ご主人様が来てくれなければ、その場で蜂の巣だった」

エルライビジンは腕を組み、ぶっきらぼうに。

「生まれた時から逃げ続けて生きてきた」

アング・フオヒコは低い声で、言いたくなさそうに。

「人間に……穢された」

ユウセインダーは短く。

「利用されて……殺された」

アエギキットが驚愕した。

「皆さんはご主人様に助けてもらえたんだ……私は不運だった……」

彼女は二人の静かな女性に目を向けた。

「ジョウセーレお姉さん、レイ・ジョニジお姉さん……二人は人間を憎くないの?」

ジョウセーレは苦い笑みを浮かべた。

「人間を知れば知るほど、動物が愛おしくなるわ」

レイ・ジョニジは冷たい声で言い切った。

「人間とは、誹謗中傷と裏切りと搾取よ。ご主人様は唯一、接したことのある人間。安全に生きたいなら、他の人間なんて絶対に信じない方がいいわ」


事件の根源に触れ、空気がさらに重くなった。

「ご主人様は彼女をアジアで拾ったの?」ユウセインダーが尋ねた。

「どういう意味?」ディーススワノが首を傾げた。

ギギュムが説明した。

「アジアは他の地域と違う。向こうでは猫をペットとしてじゃなく、食肉として飼うんだ。小さい頃から育てたら情が湧くと思うか? 違う。育てるのはただ、でかくして肉を食べるためだけだ」

ジョウセーレは虚空を見つめ、恐ろしい数字を口にした。

「統計上、毎年少なくとも800万匹以上の猫が食肉として殺されている。でも実際は10倍以上かもしれない。猫にとっての地獄よ」

ダルジョアムーンは、静かに佇むテヒモシンの背中を見つめ、そっと呟いた。

「……この一件で、ご主人様はまだ人間を救いたいと思う気持ちが残っているのかな」

夕陽が沈み、長い影と傷ついた心だけをその家に残した。


第5章 善意は憎しみに逆らう

2022年9月2日 金曜日

ギギュムがアエギキットの側に歩み寄り、手に小さな金属製の装置を持っていた。

「ほら、これを受け取れ」

ギギュムは精巧な機械式の腕時計を猫耳少女の手に置いた。

アエギキットは興味深そうにそれを見つめた。

「これ、何ですか、お姉ちゃん?」

「瞬間移動装置だ。私たち全員が持っている。必要な時にご主人様が召集信号を送る。しっかり覚えておけ」

ギギュムは自分の手首を指差した。そこには現代的な電子式の腕時計がはまっている。

「君のは機械式、ご主人様のは電子式だ。なくすんじゃないぞ」


2022年10月1日 土曜日

テレビの緊急速報が、穏やかな空気を切り裂いた。

「注意報:獣人が一般人を無差別に襲っています!」

テヒモシンは立ち上がり、目に不思議な決意の炎を宿した。彼は呆然としているアエギキットに向き直った。

「アエギキット、行くぞ。あの人たちを助けなければならない」

アエギキットは目を大きく見開き、瞳孔が縮まった。

信じられないという表情だった。なぜご主人様は、自分たちをあんなに残酷に扱った人間たちを助けようとするのか?

「わあ……ご主人様は本当に偉大です」

セイントリーシュが感嘆の声を上げた。「その慈悲はまるで大海のようです」

一方、エルライビジンは舌打ちをして腕を組んだ。

「うちのご主人様は本当に『大馬鹿者』だな」

テヒモシンは答えず、ネベルセレとアエギキットに合図した。

ネベルセレが手を掲げ、奥義「雲に乗る」を発動させた。

真っ白な雲が集まり、三人を乗せて風を切り裂く速度で空を駆けた。

現場に到着した時、そこは既に地獄絵図だった。

二体の獣人が暴れ狂っている。一体はカマキリ型の獣人で、鎌のような鋭い腕を持ち、もう一体は巨大なアイルランドエルクで、強力な蹴りと突進で全てを粉砕していた。

「アエギキット、出撃!」

テヒモシンが命令を下した。

「ご主人様、私も援護した方がいいですか?」ネベルセレが心配そうに尋ねた。

「必要ない。これは彼女を鍛えるいい機会だ」

テヒモシンはきっぱりと言った。「アエギキット、AegiWoミミズ形態に変身し、分身を使え!」

一瞬でミア少女はAegiWo形態に変化し、二体に分かれた。

テヒモシンはさらに指示を飛ばす。

「分身体はAegiKitt形態に戻り、鋭い爪でカマキリを攻撃! 本体はAegiWoのまま、アイルランドエルクを抑えろ!」

戦いが始まった。

AegiKitt形態の分身体は猫の反射神経でカマキリの斬撃を軽々と避け、鋭い爪で短時間のうちに相手を倒した。

しかし本体のAegiWoは苦戦していた。エルクの蹴りはハンマーのように重く、地面を割るほどの威力で、AegiWoは何度も吹き飛ばされ、分身体も耐えきれずに消滅した。

テヒモシンは即座に指示を出した。

「ネベルセレ! 『雨の舞』でAegiWoを援護しろ!」

奥義が発動し、空から豪雨が降り注いだ。地面はすぐに泥と沼に変わり――まさにAegiWoの聖地となった。

AegiWoは即座に泥の中に潜り、姿を消した。地面の下を幽霊のように移動する。

エルクが激しく踏みつけても効果はなく、足が深く沈み、蹴りの威力が失われた。

「AegiWo! 分身を増やせ! 泥爆弾でとどめだ!」

百体ものAegiWoが一斉に地面から飛び出し、泥の爆弾を浴びせかけた。

爆発的な泥の衝撃で巨大なアイルランドエルクはついに倒れた。


戦闘後、テヒモシンは瞬間移動装置で二人の仲間を召喚した。

「アング・フオヒコ、ギギュム。俺はお前たち二人を選んだ」

「ご主人様、ご用は?」二人が同時に現れた。

「この獣人たちを人間の姿に戻すことはできるか?」

アング・フオヒコは考え込みながら答えた。

「研究室に持ち帰らないと正確な答えは出せません」

ギギュムも頷いた。

「ええ、何も保証はできません」

アエギキットが小声で尋ねた。

「どうしてこの二人のお姉さんに頼むんですか?」

テヒモシンは微笑んで説明した。

「彼女たちはこのグループで一番頭がいい。俺の左脳と右脳みたいな存在だ。アング・フオヒコが左脳、ギギュムが右脳だよ」

「じゃあ、左腕と右腕は誰ですか?」

アエギキットは目を輝かせて続けた。

「左腕はダルジョアムーン。死者を蘇らせ、どんな傷も癒せるから。右腕はエルライビジン。彼女が一番金持ちで、彼女のダイヤモンド一つで私たち何世代も暮らせる」

「じゃあ一番強い人じゃないんですね?」

アエギキットが首を傾げた。

「違う」テヒモシンは首を振った。「重要なのは能力だ」

「では左目右目は誰で、左足右足は……」

コツン!

ギギュムが堪えきれず、アエギキットの頭を軽く叩いた。

「質問はそこまでだぞ、小娘!」

全員が笑い出し、戦いの緊張を和らげた。

そこには、常に自分を「救世主」と呼ぶご主人様の奇妙な優しさが残っていた。


第6章 戦略が暴力を制す時

2022年10月2日 日曜日

港の海風が塩辛い匂いを運んでくるが、空気は緊張で張りつめていた。

今回、テヒモシンと共にいるのはダルジョアムーンとアエギキットだった。

相手は隠密の達人――タコ型獣人とヤモリ型獣人。二人は殺人は犯していないが、悪戯のような妨害で港を混乱に陥れていた。

「アエギキット、AegiDerクモ形態に変身。地面一面に糸を張り巡らせ、大型蜘蛛の巣を作れ」

ご主人様は落ち着いた声で指示を出した。勝利を確信しているようだった。

AegiDerは即座に行動した。

夕暮れの中でほとんど見えない極細の糸が、広範囲を覆い尽くす。

「あとは座って、奴らが自ら網にかかるのを待つだけだ」

タコとヤモリはどちらも透明化状態で、背後から忍び寄っていた。

しかし、二人が糸に触れた瞬間、微弱な振動がAegiDerの神経系に伝わり、位置を完全に暴露した。蜘蛛の鋭敏な感覚の前では、どんな隠密術も無意味だった。

ご主人様がさらに命令を下す。

「AegiDer、糸で口を塞げ。墨を吐かせず、舌も使わせるな」

AegiDerが粘着糸を射出するが、相手も一筋縄ではいかない。

タコは黒い墨を噴射し、ヤモリは鋼のような長い舌で糸を弾き返した。

しかしヤモリが突然硬直し、体を痙攣させた。

「言っておくのを忘れていた……私の糸には毒がある。毒蜘蛛だからな」

AegiDerが冷たい笑みを浮かべた。

仲間が倒れたのを見て、タコは慌てて海に飛び込み逃げようとした。

「AegiDer、AegiEl(電気ウナギ)形態に変更! 『放電』を使え!」

海中で紫青色の強烈な電流が爆発し、逃亡者は完全に麻痺した。

「ダルジョアムーン、重力操作を使え」

ダルジョアムーンの手が軽く振られると、タコの周囲の重力が消失した。

タコは海面に浮かび上がり、見えない手に持ち上げられるように空中へ引き上げられた。

「二人とも研究室へ連れて行け。そろそろアング・フオヒコとギギュムに、人間に戻す手伝いをしてもらおう」


2022年10月3日 月曜日

再び戦いが始まった。

今回はジョウセーレとアエギキットを連れていた。

相手は厄介な組み合わせ――金属の羽根飛鏢を遠距離で飛ばす孔雀型獣人と、強力な粘着液を操るビロードヤムシ型獣人。

戦闘開始早々、ビロードヤムシが粘着液を連射し、テヒモシン、ジョウセーレ、アエギキットの足を地面に固く接着させた。

孔雀が輝く尾を広げ、数百の金属羽根飛鏢を放った。

テヒモシンは即座に指示を出した。

「アエギキット、AegiPiハト形態に! フェリ磁石を使い、周囲の磁場を加熱しろ!」

アエギキットは手首の機械式時計を9の位置に合わせた。

紫色の磁場が体を包む。

強烈な熱が発生し、足元の粘着液が瞬時に溶け始めた。

新しく飛んできた粘着液も、磁場に触れると焦げて蒸発するか、脆く崩れ落ちた。

「AegiPi、磁場の壁を展開!」

AegiPiが翼を広げると、強力な磁場バリアが形成された。

金属飛鏢は全てバリアに阻まれ、空中で回転しながら無力に浮遊した。

「AegiPi、反撃だ。強磁性に切り替えろ!」

AegiPiの瞳が輝いた。彼女は磁極を一瞬で反転させた。

「贈り物、ありがとう。さあ、倍にして返すよ!」

奥義――天羽反震(Reflected Metal Storm)

浮遊していた数百の金属飛鏢が一斉に方向を変え、倍の速度で射手に向かって飛び返した。

孔雀とビロードヤムシは自分の武器による鉄の雨に飲み込まれ、倒れた。


第7章 無限生物の絶技

2022年10月4日 火曜日

港は再び運命の戦いの舞台となった。

今回現れたのは「恐怖の捕食者」と恐れられる底なしの胃袋を持つ深海魚型獣人と、致死性の毒鱗粉を操る夜行性蛾型獣人だった。

この戦いにご主人様が連れて行ったのはセイントリーシュとアエギキットだった。

「アエギキット、AegiDer形態に変身! あの魚の口を糸で封じて海に叩き込め」

ご主人様が鋭く指示を出した。

AegiDerが素早く動き、強靭な糸で深海魚の鋭い牙を完全に封じ込め、海へと投げ捨てた。

ご主人様はセイントリーシュに向き直った。

「セイントリーシュ、お前は夜行性蛾と遊べ。殺すなよ、ただからかう程度でいい」

セイントリーシュは悪戯っぽく微笑み、優雅に戦場へ躍り出た。

「了解です。結局、アエギキットにトドメを刺させて鍛えたいんですね?」

ご主人様は頷いた。

海面に落とされた深海魚が態勢を立て直す間もなく、ご主人様が叫んだ。

「AegiDer、AegiEl形態に変更! 放電を使え!」

高圧電流が海面を引き裂き、「捕食者」は一瞬で全身を麻痺させた。

同時にご主人様はセイントリーシュに撤退の合図を送った。

「もう十分だ、戻れ」

「ふん、命拾いしたな。一撃で終わらせられたのに」

セイントリーシュは剣を収め、誇らしげに言った。

「AegiEl、AegiPi形態に変更!」

夜行性蛾が大量の毒鱗粉を撒き散らしたが、AegiPiが一翅打つだけで全ての粉が逆方向に吹き飛ばされ、蛾自身が自らの毒に倒れた。

二体の獣人は瞬く間に制圧され、研究室へと連行された。


2022年10月5日 水曜日

今回の戦いはこれまでとは次元が違っていた。

相手はもはやただの乱暴者ではなく、極めて危険な人獣——大量殺戮用の酸を撒き散らす砲撃型カメムシ獣人と、体内を液化させてゾンビ軍団を操る暗殺者型虫獣人だった。

ご主人様はエルライビジンとアエギキットを連れていた。

迷うことなく命令が飛んだ。

「アエギキット、AegiExクマムシ形態に変身!」

アエギキットが腕時計を12の位置に合わせた。

淡い膜が彼女の全身を包み、「絶対不可侵」の存在へと変化させる。

即座に砲撃型カメムシが100℃近い強酸を浴びせかけた。白煙が上がり、周囲の地面が激しく溶けたが、AegiExは平然と立っていた。

無限生物の特性はあらゆる化学反応を無効化していた。

酸を全て吐き尽くした相手に、AegiExが冷たく告げた。

「ようやく私の番だ」

ご主人様が即座に指示を出す。

「AegiEx、AegiHedハリネズミ形態に変更! 針を撃て!」

一瞬で形態が変わり、鋭い針の雨が敵を貫いた。

最も危険な暗殺者型虫獣人が、液化毒を注入しようと鋭い針を突き出してきた。

「AegiHed、AegiEx形態に戻れ!」

クマムシ形態では分子レベルで自己防衛が可能だった。針が刺さっても組織は破壊されず、無水状態(anhydrobiosis)により化学反応自体が起こらなかった。

アエギキットは針を掴み、極限の耐圧力で易々と折り曲げた。

暗殺者型虫獣人は慌てて後退したが、もう遅かった。

「AegiEx、AegiHed形態に戻れ。仕留めろ」

針の豪雨が再び炸裂し、ゾンビを生み出す怪物は倒れた。

こうして街を恐怖に陥れていた二体の凶悪人獣は完全に撃破された。


2022年10月6日 木曜日

湿った地面が不均衡な戦いの舞台となった。

相手は武器が一切滑るほどの粘液を纏うロックフィッシュ型獣人と、毒耐性と極厚の皮膚を持つハニーバジャー型獣人だった。

ご主人様はユウセインダーとアエギキットを伴っていた。

ご主人様は二体の弱点を既に見抜いていた。

「アエギキット、AegiEl(電気ウナギ)形態に!」

ロックフィッシュが必死に粘液を撒き散らして逃げようとしたが、その湿った粘液自体が完璧な導電体となった。

AegiElの放電が粘液を通じて一気に伝わり、神経系を焼き切った。

ハニーバジャーも厚い皮膚を頼りに突進してきたが、電気は皮膚を貫通し、筋肉と心臓を直接攻撃した。

わずか一つの形態変化だけで、アエギキットは二体の難敵を完全に無力化した。


第8章 法が失われた時

2022年11月1日 火曜日

一ヶ月間、研究室の灯りの下で苦労を重ねた末、アング・フオヒコとギギュムは人獣を人間の姿に戻すワクチンの完成に成功した。

「ご主人様、この者たちを今後どう処理しますか?」

アング・フオヒコが疲労と誇りを滲ませて尋ねた。

「法に任せよう」

ご主人様は落ち着いて答えた。「ギギュム、お前の飛行機で奴らを彼らの国へ運んでくれ」

「了解しました」

ご主人様、ギギュム、レイ・ジョニジ、アエギキットの四人はすぐさま囚人たちを彼らの国へ移送した。

しかし到着した瞬間、彼らは絶望的な現実を目の当たりにした。

警察署も軍事施設も一つも残っていなかった。

突然、瓦礫の陰から三体の巨大な影が現れた——象、サイ、カバの獣人だった。

「お前たち、警察を探しているのか?」象が嘲るように唸った。

「人間どもはもう俺たちのボスに地獄へ送られたぞ」サイが続けた。

レイ・ジョニジが目を細めた。

「だからこの国が12体の獣人に襲われても、軍が一切反応しなかったのね」

「その12体はただの第5部隊——『恐怖を撒く者たち』に過ぎない」カバが嘲笑った。

ギギュムが問うた。

「お前たちは何者だ?」

「俺たちは第4部隊——『筋肉ども』だ」象が答えた。

サイが一歩前に出た。

「さあ、大人しくあの12体を返せ。奴らの殺し仕事はまだ終わっていない!」

アエギキットが飛び出そうとしたが、ご主人様が制止した。

「待て。今回は絶対的な力を使え。アエギキット、AegiO(オリバチダ類)形態に変身!」

アエギキットが時計を合わせると、途方もない圧力が彼女の体から放たれた。

「この形態……どういう意味ですか、ご主人様?」

「超パワー近接戦闘形態だ。今のお前は片腕だけで71トンの物体を、まるでオレンジを摘むように軽々と持ち上げられる」

三体の巨獣が同時に突進してきた。鋼鉄の塊のような質量だった。

しかしAegiOは一切避けなかった。

千斤の力を宿した両手で、象の牙、サイの角、カバの顎を掴み、一振りで三体をまとめて空中へ投げ飛ばした。

地面を離れた瞬間、筋肉の力など無意味だった。

落下してきた三体に、AegiOがそれぞれ一撃を加えると、「筋肉」部隊は完全に沈黙した。

「この三体も研究室へ連れて帰れ」

ご主人様は服の埃を払いながら言った。

「残りの12体の囚人は……資源環境省か教育省か、適当な省庁に引き渡せ。どうせ国防省はもう機能していないようだからな」


第9章 サイズが意味を失う時

2022年11月2日 火曜日

灰色の重い雲が垂れ込めた空の下、原始の力を宿した者たちによる対決が始まった。

相手は凶暴な三人組——ヒグマ、ゴリラ、巨大アナコンダだった。

しかしアエギキットはAegiO(オリバチダ類)形態を維持したままだった。

これはもはや通常の戦いではなく、絶対的な物理力のデモンストレーションだった。

ヒグマとゴリラが咆哮を上げ、千斤の爪撃と拳を繰り出してきた。

しかしAegiOのダイヤモンドよりも硬い天然の甲殻に触れた瞬間、彼らは自分の攻撃がただのくすぐりに過ぎないことを悟った。

AegiOは静かに前進し、細い両手で二体の巨体を掴むと、まるでぬいぐるみのように軽々と持ち上げ、地面に叩きつけた。

骨が砕ける乾いた音が響き渡った。

その時、巨大アナコンダが襲いかかり、アエギキットを締め上げて粉砕しようとした。

だがそれは誤りだった。

アナコンダは鋼鉄の塊を締めていた。

AegiOがわずかに力を込めただけで、反動の物理力が内部から炸裂し、アナコンダの体は数カ所で寸断された。

「筋肉」三人組は完全にその場に崩れ落ちた。

2022年11月3日 水曜日

港が激しく波立っていた。

今回現れたのは想像を絶する巨体を持つ者たち——全長30メートルのシロナガスクジラ、翼開長20メートルの巨大ワシ、そして体高10メートルの巨大ライオンだった。

「アエギキット、Aegiriエビガン形態に変身!」

ご主人様が冷たい眼差しで命じた。「大きなハサミで血漿弾を撃ち、ワシを落とせ。小さいハサミでライオンを倒せ。そして『ソノルミネッセンス——音光』でシロナガスクジラにとどめを刺せ!」

Aegiriは即座に海へと飛び込んだ。

大きなハサミが音速で閉じられる。

ブォンッ!

恐るべき物理現象が起きた——ソノルミネッセンス。

海中で眩い閃光が爆発し、太陽表面に匹敵する熱量が発生した。

爆音が港全体を揺るがせ、巨大クジラの体に大きな穴が開き、周囲の海水が一瞬で沸騰した。

止まらない。

Aegiriは岸に飛び上がり、小さいハサミで超高速連打を放った。

わずか1マイクロ秒で500発の拳。

10メートルのライオンは何が起きたかも理解できぬまま、凄まじい圧力の下で粉砕された。

「この形態……強すぎる……」

Aegiriは自分のハサミを驚愕の目で見つめた。「軽く弾くだけで巨体を屠れるなんて」

「潜水艦すら引き裂けるぞ」ご主人様が答えた。

空では巨大ワシが嘲笑った。

「海から離れたこの場所で、どうやって俺に届くというのだ?」

「その考えが間違いだ」

ご主人様は意味深に微笑んだ。「Aegiriには『移動式水室』を強化してやった。陸上でも発射可能だ」

「なに……!?」

移動式水室が作動し、少量の水がハサミの間に押し込まれた。

発射の瞬間、空洞現象キャビテーションが発生。

プラズマ状態の沸騰した水の弾丸が超音波と共に空気を切り裂き、時速1000kmで飛翔した。

神の矢のような光の筋が空に残り、巨大ワシに命中した瞬間、体内で蒸気爆発が巻き起こった。

巨大ワシは虚空に消え、残骸のみが海面に散った。


第10章 沈黙の死神たちの天敵

2022年11月14日 月曜日

空気を切り裂く羽音が、残忍な狩人の到来を告げた。

スズメバチが傲然と舞い降りた。

「第4部隊『筋肉ども』を全滅させたのはお前たちか?」

アエギキットは真っ直ぐに相手を見据えた。

「貴様は何者だ」

「俺はスズメバチ、第3部隊『移動する死神』の一員だ。猛毒と閃光のような攻撃を持つ」

彼は羽を震わせ、毒液を満載した針を誇示した。

「アエギキット、AegiExクマムシ形態に変身!」

ご主人様が命じた。

「これは『究極の生物』だ。ありとあらゆる生物毒に対して完全無効。いくら刺されても、毒は私の細胞レベルにすら影響を及ぼせない」

AegiExは静かに言い放った。

その形態になると、彼女は神像のように微動だにしなかった。

スズメバチが狂ったように何度も刺し、毒を注ぎ込んでも、全てが細胞に到達する前に無力化された。

「AegiEx、無限圧力場を発動!」

突然、アエギキットの周囲の空気が極限まで圧縮された。

スズメバチが高速で突っ込めば突っ込むほど、反動の圧力がそれを粉砕した。

「移動する死神」は触れることすらできず、空中で無形の力により圧縮され、潰された。


2022年11月15日 火曜日

今回の相手は「海洋の鬼神」——オニコンチョウガイだった。

強力な麻痺毒の矢を射出し、最高級のダイビングスーツすら貫通させる。

「アエギキット、AegiO形態に!」

オリバチダの不壊の甲殻の前では、毒矢はただの砂粒に過ぎなかった。

表面に触れた瞬間に砕け散った。

AegiOは相手に触れる必要すらなかった。

彼女はただ、目標のすぐ傍の海面に向かって千斤の一撃を放った。

71トンの衝撃力が液体中に伝わり、局所的な地震を起こし、オニコンチョウガイの体を内部から粉砕した。


2022年11月16日 水曜日

深い海の中で、カオナシギョウが完璧に擬態し、背中の毒棘を待っていた。

「アエギキット、Aegiri形態に!」

近づく必要などなかった。

Aegiriは遠方から移動式水室を発動。

4700℃の超高温水流と800kPaの衝撃波が放たれ、擬態を切り裂き、カオナシギョウの骨格を粉々に砕いた。


2022年11月17日 木曜日

今週最後の相手は、恐るべき血液凝固毒を持つルナミア毛虫だった。

全身に微細な毒針を纏い、直接接近は自殺行為に等しい。

「アエギキット、AegiHedハリネズミ形態に!」

これは「棘対棘」の戦いだった。

しかしAegiHedが圧倒的に優位だった。

安全距離を保ち、「針の雨」を発動。

巨大な針が無限に再生され、精密に制御された軌道で飛翔し、柔らかい体躯を遠距離から蜂の巣にした。

森の静かな死神は、射程と威力の差の前で完全に無力だった。

2022年11月18日 金曜日

乾いた砂漠で、ストーカーサソリが毒尾を振り上げ、硬いキチン質の殻を誇示した。

ご主人様はただ微笑んだ。

「アエギキット、AegiPiハト形態に!」

物理的な衝突は不要だった。

AegiPiは周囲の磁場を加熱する能力を発動。

目に見えない極大の熱が厚い殻を貫通し、内部からサソリを焼き続けた。

最強の装甲が自らを「焼き窯」に変え、絶望の中でサソリは身悶えした。


2022年11月19日 土曜日

次なる相手は熱感知能力を持つキングコブラだった。

しかし対峙したのはAegiBaコウモリ——完全に音波で戦う存在。

AegiBaは毒牙の届かない距離を保ち、音波攻撃を浴びせた。

集中した音波が前庭器官と熱感知器官を直撃し、コブラを幻覚と激痛の中に沈めた。

「共鳴の叫び」に悶える相手に、AegiBaは稲妻のように急降下。

至近距離で超音波集中攻撃を叩き込み、一瞬で体を貫通した。


2022年11月20日 日曜日

週の最終戦は、細菌と毒素の塊であるコモドオオトカゲだった。

しかしその速度はAegiA(サハラ砂漠の銀蟻)形態の前では笑い話に過ぎなかった。

時速1000km/hで移動する白い影がオオトカゲの周囲を旋回。

相手が口を開くより早く、AegiAは高速衝突を脊椎に叩き込んだ。

徹甲弾のような運動エネルギーにより、コモドオオトカゲは即座に沈黙した。

毒の唾液の一滴すら、アエギキットの服に触れることはなかった。


第11章 元素の力を超えて

2022年11月21日 月曜日

第3部隊の七人を掃討した後、全く異なる次元の敵が現れた。

その名はタエケロプテルス。

「よくも第3部隊『移動する死神』の七人を倒したものだ……」

低い、重厚な声が響いた。

アエギキットが即座に問うた。

「貴様は何者だ?」

「俺は第2部隊『鎖獣』の一員だ。恐るべき獣たちを鎖で繋ぎ止める者……」

相手は自信に満ちた声で答えた。

ご主人様は躊躇なく命じた。

「アエギキット、爪で攻撃しろ」

アエギキットが突進した瞬間、地面から無数の蔦が噴き上がり、彼女の体を tightly 縛り上げた。

「なにっ!?」

タエケロプテルスが冷笑を浮かべた。

「第2部隊の者は皆、元素を操る力を持つ。そして俺は……植物を操る」

「植物を操れるのはお前だけだと思うのか?」

ご主人様が冷ややかに言った。

「アエギキット、AegiCo(冬虫夏草)形態に変更!」

これは生命を操る者同士の戦いだった。

しかしAegiCoは植物制御において圧倒的な優先権を持っていた。

縛めを解いただけでなく、相手の植物全てを乗っ取り、蔦を逆にタエケロプテルスを拘束する鎖へと変えた。

操る者自身が自らの武器に囚われた。

さらにAegiCoは寄生胞子を相手の生体組織に散布した。

胞子は静かに古代海蠍の生体物質を吸収し、アエギキットへとエネルギーを還元していく。

元素を操る者は、完全に無力化され、戦いは終わった。


2022年11月22日 火曜日

今回の敵はペラゴルニス・サンダーシ。空を支配する傲慢なる存在だった。

「貴様は何者だ?」アエギキットが冷たく問うた。

「俺はペラゴルニス・サンダーシ。風を操る者だ」

巨大な鳥は翼を広げ、気流を操りながら空中に浮かび、高い位置から攻撃を仕掛けてきた。

ご主人様が即座に指示を出す。

「アエギキット、AegiPi形態に変更」

AegiPiは静かに空を見上げた。

巨大鳥は風を操り続け、浮力を維持しながら優位に立っていた。

AegiPiは磁場を展開。地球磁場を操作しつつ、反鉄磁性と強磁性を交互に用いて、ペラゴルニスが頼りにする気流を乱した。

風が不安定になり、浮力が急激に低下した。

飛べなくなった巨大鳥は強力な磁力に引き寄せられ、地面に叩きつけられた。

さらに鉄分を操る力で血液と骨の中の鉄分子を固定し、動きを完全に封じた。

相手が動けなくなった瞬間、AegiPiはフェリ磁性に切り替えた。

高速の磁場振動が発生し、相手の体内に熱を発生させる。

細胞が内側から焼き上がり、羽毛に一切の焦げ跡を残さず内臓を焼き尽くした。


2022年11月23日 水曜日

大海の底で、「海洋の怪物」メガロドン(水属性)が電気感知で獲物を探っていた。

それが最大の誤りだった。

「アエギキット、AegiEl(電気ウナギ)形態に!」

AegiElは強力な静電場を海域全体に展開した。

メガロドンが接近した瞬間、高圧電流と電磁波が一気に放出され、相手の感覚器を完全にオーバーロードさせた。

神経系が麻痺し、史上最大の海洋捕食者の心臓は一瞬で停止した。


2022年11月27日 日曜日

「俺はマンモス。氷を操る者だ」

巨大な怪物が咆哮を上げ、周囲に冷気を撒き散らした。

ご主人様は即座に命じた。

「アエギキット、Aegiriエビガン形態に変更」

極低温が最も恐れるのは極高温。

Aegiriは4700℃もの超高温を生み出す天敵だった。

移動式水室から超高温プラズマ弾が発射された。

マンモスの毛皮と氷の牙に触れた瞬間、凄まじい蒸気爆発が起こった。

太陽表面に匹敵する熱が氷の防御を溶かし、巨大な体を安全距離から貫通した。


2022年11月28日 月曜日

今週最後の戦いは剣歯虎スミロドンとの対決だった。

「俺はスミロドン。土を操る者だ」

筋肉が岩のように硬く、重圧を放ちながら吠えた。

ご主人様が命じた。

「アエギキット、AegiA(サハラ銀蟻)形態に変更。『心臓貫通火矢』を使え」

土属性は防御と突進に優れるが、動きが遅いという弱点がある。

AegiAはその弱点を突いた。

時速1000km/hで突進するAegiAは、相手を固定標的と化した。

超音速に近い速度で空気分子が激しく衝突し、摩擦熱が極限まで上昇。

サハラ銀蟻の特殊耐熱能力により、AegiA自身は無傷でその熱を吸収し、真っ赤に焼けた鋼鉄のような状態となった。

頂点に達した瞬間、気圧緩衝領域を展開して軌道を安定させ、

一切のブレもなく、

一切の回避の機会を与えず、

AegiAは灼熱の徹甲弾となってスミロドンの厚い皮膚と骨格を貫通した。

衝突の運動エネルギーと内部熱ショックにより、血液が蒸発し、内臓が焼き尽くされた。

剣歯虎は断末魔の叫びを上げて倒れた。


第12章 天災の天敵

2022年12月1日 月曜日

暗い瓦礫の陰から、ゆっくりとした拍手が響いた。重く、息苦しい声が続く。

「素晴らしい……第2部隊『鎖獣』さえも全滅させるとは」

アエギキットが警戒しながら一歩下がった。

濃い霧の中から、三体の巨大な影が現れた。

「貴様らは何者だ?」

中央に立つ、龍の鱗のような粗い肌の男が嘲笑った。

「俺たちは第1部隊『三龍——天災の実体』だ」

左側の痩せた男はコウモリのような膜翼を広げ、血に飢えた笑みを浮かべた。

「この国の人口の半分は俺たちが直接消した。軍も政府も、天災の前では塵芥に等しい」

右側の男は底冷えする冷気を放ちながら、港を見下ろして冷たく言った。

「海が墓場になるぞ。沖で待っている」

鱗の男が手を挙げて二人を制した。視線をご主人様に固定する。

「残りの生存者狩りと虐殺は任せた。この連中は……俺一人で十分だ」

「了解した。ここはTyrannosaurusに任せるぞ」

翼の男が空へ舞い上がった。

「下等生物に負けるなよ」

水属性の男は背を向け、海へと飛び込んだ。


「移動する震源」ティラノサウルスとの対決。

二人の仲間が去った後、ティラノサウルスは天を仰いで咆哮した。

地面を強く踏みつける。

ドゴォンッ!

局所的なマグニチュード7〜8の地震が爆発的に発生した。地面が深く裂け、周囲の地形が崩壊し、誰も立っていられない激しい揺れが襲った。

「アエギキット、AegiO形態に!」

ご主人様の声が崩れゆく大地の中で響き渡った。

アエギキットが時計を合わせると、凄まじい機械的圧力が煙塵を切り裂いた。

Ve Giáp Oribatida形態では極めて低い重心と71トンの筋力を誇る。

激しい地響きの波の中、AegiOは微動だにしなかった。

彼女は両足を深く地面に突き刺し、巨大な杭となって空間を固定し、足元の震動を完全に消滅させた。

二度目の踏みつけを放とうとした瞬間、AegiOは驚異的な速度で突進した。

細い腕が千斤の力を発揮し、8トンの「暴君竜」の足首を掴むと、軽々と空中に持ち上げた。

地面を離れた瞬間、地震を起こす能力は完全に無力化した。

AegiOは一回転して巨体を近くの岩壁に叩きつけた。

激しい衝撃音と共に岩壁が粉砕され、「移動する震源」は地面に沈黙した。

AegiOは埃を払い、誇らしげに言った。

「私は超パワー。私の前では、誰も最強などではない」


2022年12月2日 火曜日

「大嵐の森」プテラノドンとの対決

荒廃した山頂で、翼竜プテラノドンが巨大な翼を広げ、雲を引き裂いていた。

一振りの翼で暴風と竜巻を生み出し、全てを吹き飛ばさんとしていた。

「アエギキット、AegiA形態に!」

命令を受け、アエギキットはサハラ銀蟻の銀色の殻に変化した。

激しい竜巻の中で、AegiAは気圧緩衝領域と慣性消去フィールドを展開。

時速1000km/hで暴風の中心を真正面から突き破った。

対向する反力気流が竜巻を切り裂き、超音速摩擦熱で体が真っ赤に燃え上がる。

灼熱の弾丸となったAegiAは、相手が次の翼を振るうより早く、膜翼を貫き、胸を粉砕した。

「狂風の天災」は翼を失い、谷底へ落ちていった。

AegiAは静かに着地し、目を輝かせた。

「私は超速度。私の前では、誰も速くなどない」


2022年12月3日 水曜日

「吞み込む津波」モササウルスとの対決

港の沖合いで、モササウルスが海中で暴れていた。

巨大な尾を振り、数十メートルの津波を次々と生み出し、島々と陸地を沈めようとしていた。

「アエギキット、Aegiri形態に!」

Aegiriは海の底へ突入した。

巨大な水の壁が迫る中、移動式水室を最大出力で稼働させ、

1秒間に500回という狂った速度でハサミを弾き続けた。

ドン!ドン!ドン!

連続する超高温プラズマ爆発と218dBの衝撃波が、津波の内部構造を粉砕した。

さらにソノルミネッセンスによる4700℃の熱線がモササウルスの巨体を直撃。

太陽表面の熱が周囲の海水を蒸発させ、「津波の支配者」は全身大火傷を負い、平衡感覚を失って海底深くに沈んだ。

Aegiriは煮えたぎる海の中でハサミを収め、冷たく言い放った。

「私は大海の灼熱。私の前では、全てが蒸発する」


第13章 慈悲が惨劇を生む時

2022年12月15日 月曜日

幾晩にもわたる不眠不休の調査の末、惨劇の最後のピースがついに明らかになった。

アング・フオヒコ、ユウセインダー、レイ・ジョニジ、ギギュムの連携により、人間を獣人に変える全事件の黒幕の正体が暴かれた。

その男は天才科学者でありながら、ねじくれた精神の持ち主——ノグナムドラフ博士だった。

ご主人様の先導のもと、アエギキット、アング・フオヒコ、ユウセインダー、レイ・ジョニジ、ギギュムの五人は、博士の deepest 奥深くに潜むアジトへと踏み込んだ。

分子冷却システムから吐き出される冷気が、最新鋭の研究施設の灰色の金属廊下を覆っていた。

「勝手に入り込むとは……お前たちは何者だ?」

巨大なモニターの後ろから、しゃがれた声が響いた。

ノグナムドラフが振り向いた。深く落ち窪んだ目には、狂信者のような狂気が宿っていた。

ユウセインダーが一歩前に出て、鋭い視線を突き刺した。

「全て終わったぞ、ノグナムドラフ。我々は全ての証拠を握っている。お前こそが、あの獣人たちを生み出した悪魔だ」

博士は微塵も動揺しなかった。むしろ片眉を上げ、奇妙に笑った。

「ほう……我が『野獣狂戦』組織を壊滅させたのは、お前たちだったか」

「野獣狂戦……?」

レイ・ジョニジが目を細め、血の匂いのするその名を繰り返した。

ギギュムが仮想コントロールパネルを素早く操作しながら説明した。

「この遺伝子プロジェクトの総称だ。複数の特殊部隊に分かれている。第3部隊『移動する死神』、第2部隊『鎖獣』、そして第1部隊『三龍——天災の実体』……」

「正確には36体の高位獣人がアエギキットによって倒された」

アング・フオヒコが緊張した声で続けた。

その時、ノグナムドラフの視線がご主人様の隣に立つ少女に移った。

瞳孔が収縮し、歪んだ笑みが浮かぶ。

「……おや、懐かしい顔だな。こんな形で再会するとは思わなかったよ」

アエギキットは眉をひそめ、拳を強く握りしめた。

「馴れ馴れしい口を利くな。私はお前など知らん。狂人め」

「君は覚えていなくても、私はよく覚えている……」

ノグナムドラフはため息をつき、ゆっくりと高台から降りてきた。

目は虚ろに遠くを見つめ、まるで時間を逆巻き戻すかのようだった。

「諸君は……この世界が、粛清されるに値するかどうか、考えたことはあるか?」


ノグナムドラフの過去——大自然の無言の慟哭

遥か昔、私は情熱的な動物学者だった。

自然保護のために、深い森に隠棲し、動物たちの守護者として生きていた。

しかし現実は、私に冷たい水を浴びせかけた。

私は目の前で、猟師どもが——人間の名を借りた怪物どもが——銃と罠を持って無垢な命を虐殺するのを、はっきりと見た。

私が止めに入れば、彼らは暴力で応えた。

私は殴られ、致命傷を負わされた。孤独で、無力だった。

自分の血溜まりの中で、私はただ見つめることしかできなかった。

野生動物たちが肉に切り刻まれ、絶望の咆哮を上げながら森全体に響かせるのを。

誰もその痛みを理解しようとしなかった。

人間とはなんと利己的で盲目な生き物か。

動物には感情がないと傲慢に思い込んでいる。

動物は「人間」と自称する上位存在とは根本的に違う。

傷つき、骨の髄まで痛んでも、彼らは決して泣き叫ばない。

ただ黙って耐え、静かに痛みを噛み締め、息絶えるまで耐え続ける。

一方、人間はどうだ?

小さな擦り傷一つ、些細な傷一つで、世界が崩壊したかのように大騒ぎする。

本当に、吐き気がするほど醜い!

そしてある日、大きな画面にこんな見出しが飛び込んできた。

『猫のコスプレをした少女が突然暴れ、通行人を襲う』

その瞬間、罪深くも偉大な閃光が私の心を切り裂いた。

——本物の獣人を作ればどうだろう?

見てみろ、この過剰に膨張した世界を!

人間は増えすぎた。惑星の癌だ。

住む土地が足りず、森深くにまで入り込み、自然を破壊し、木々をなぎ倒して無機質なコンクリートの塊を建てる。

資源を食い尽くし、動物たちの家を奪い、なおかつ彼らを殺して自分の欲望を満たす食肉にする。

だから私は、全身全霊を注いでこの遺伝子改変ワクチンを作り上げた。

私は人間を動物に変えたかった。

傲慢な彼らに、毛皮を纏わせ、狩られる側の恐怖を味わわせ、自由を奪われ、

何世紀にもわたって動物たちが耐え続けた、無言の痛みを、骨の髄まで理解させたかったのだ!


第14章 生殺与奪の権利

2022年12月15日 月曜日(続き)

「……なるほど、そういうことか」

アング・フオヒコは小さくため息をつき、拳を強く握りしめた。

「だから私たちの庭に野生動物が現れたのか。襲おうとしたわけではなく、人間が彼らの住処を奪ったからだ……」

一方、アエギキットは頭を抱え、呆れと困惑を露わにした。

「えええっ!? たまたまテレビで私の姿を見て、そんな狂った軍団を作るアイデアを思いついただけなのに、さっき『懐かしい顔』とか言って本気で知り合いかと思ったよ!」

ノグナムドラフは周囲の声など気にも留めなかった。

彼は手に持った、黒く輝く液体が入った試験管をじっと見つめ、狂信的な目で高らかに宣言した。

「我が偉大なる実験は完璧に成功した。

今こそ救世主たる私が、自ら道を切り開く時だ!」

そう言い終わるや否や、彼は迷わず針を自分の首の静脈に突き刺した。

中央制御システムが即座に身体をスキャンし、機械的な電子音が冷たく響いた。

【変異プロセス完了——主体:ヒト】

空間が奇妙な静寂に包まれた。

ユウセインダーは目をぱちくりさせて、ただ立っている博士を見つめた。

「……え? 人間のまま……?」

レイ・ジョニジは構えを崩さず、額に冷や汗を浮かべた。

「油断はできない……恐ろしい。自分を人間に『進化』させたということは、人間遺伝子の構造を新たな次元に引き上げたということだ。どんな潜在能力を秘めているかわからない……」

バキッ!

乾いた音が緊張した空気を切り裂いた。

ギギュムは博士の言葉を待たず、一歩踏み出して顔面に強烈な拳を叩き込んだ。

ノグナムドラフは壁まで吹き飛び、床に倒れ込んだ。

ギギュムは手を払い、冷たく鼻を鳴らした。

「人間なんて頭と知能だけが取り柄でしょ。獣の遺伝子がなければ、物理的な戦闘力なんてないくせに」

ご主人様は床に倒れた博士を冷静に見下ろし、命じた。

「よし、縛って政府に引き渡せ」

しかし、暗い壁際からノグナムドラフがゆっくりと身を起こした。

痛みなど微塵も感じていない様子で、彼は狂ったように大笑いした。

「ハハハ……すまない、慌てていたので最初の試作品を間違えて打ってしまった!」

そう言うと、彼はポケットからもう一本の注射器を取り出した。

中には黄金色に輝く血清が入っていた。彼はそれを胸に深く突き刺した。

今度こそ、中央システムが赤い警告音を激しく鳴らした。

【警告! 警告! S級遺伝子変異が活性化——主体:ドラゴン!】

「これこそが我が生涯最大の傑作——『竜のワクチン』だ!」

ノグナムドラフが咆哮した。

彼の身体が膨張し、皮膚が裂け、骨格が軋む音を立てて変形し始めた。

核心の肉体と力:暴君ティラノサウルス・レックス由来

翼と飛行能力:巨大鳥ペラゴルニス・サンダーシ由来

腕:ストーカーサソリの毒を持つ鋭い鉗爪

脚:象の安定した歩幅

頭部:アイルランドエルクの巨大な角

生物としての圧倒的な威圧感が広がり、周囲のコンクリート柱に亀裂が入った。

ご主人様が即座に叫んだ。

「全員退避! この施設はもう持たない!」

崩れ落ちる瓦礫の中で、ユウセインダーは興奮気味に上を見上げた。

「ねえ、どんなドラゴンだと思う!? この迫力なら絶対『雷龍』でしょ!」

アング・フオヒコは走りながら振り返り、燃え上がるエネルギーを眺めた。

「私は『火龍』だと思うわ!」

ガァァァァッ!!!

ノグナムドラフの竜はペラゴルニスの巨大な翼をはためかせ、研究施設の天井を吹き飛ばして空高く舞い上がった。

そして口を開き、鮮やかな緑色の光線を地上に浴びせかけた。

光線に触れた人間たちは瞬時に遺伝子構造を変えられ、野生動物へと姿を変えていった。

アエギキットはその光景を見て、隣の二人に言った。

「二人とも大ハズレだよ!」

ご主人様は足を止め、空を見上げてから振り返った。

「アング・フオヒコ、ユウセインダー、レイ・ジョニジ、ギギュム——お前たちは一旦戻れ」

四人が質問する間もなく、ご主人様は瞬間移動装置を起動した。

空間の円が四人を包み込み、危険な戦場から安全な自宅へと瞬時に転送した。


拠点の居間にて

突然の空間転移にレイ・ジョニジは困惑し、腕を組んで地団駄を踏んだ。

「どうしてご主人様は急に私たちを家に送り返したの!? 戦いは今がクライマックスなのに!」

アング・フオヒコは小さく微笑みながら武器を外した。

「簡単なことよ。気づいていないの?」

ギギュムもソファに腰を下ろし、のんびりと言った。

「だって私たち四人……強すぎるから」

ユウセインダーはようやく手を叩いて笑った。

「あ! そういうことか! ご主人様はアエギキットを鍛えるために、わざと二人きりにしたんだ!」


崩壊した戦場へ

緑色の遺伝子変異光が空を埋め尽くす中、ご主人様は腕を組み、浮遊する巨大な竜を見上げた。

「ノグナムドラフ、お前が全てのことをした本当の目的は何だ?」

巨大竜は高い塔の上に降り立ち、雷鳴のような声で答えた。

「私がしたことの全ては……この地球のためだ!

自然環境を原初の姿に戻し、死にかけている緑の肺を蘇らせるためだ!」

彼は巨大な翼を広げ、誇らしげに吼えた。

「この惑星の全人類を動物に変える!

そうすれば人間は動物を虐待し、狩り、食肉にすることをやめるだろう!」

アエギキットは身震いし、大声で反論した。

「目的は聞こえは立派だけど、やり方が怖すぎる! 全部を野生動物に変えたら、人間同士が生存競争で殺し合って共食いするだけじゃないか!」

ノグナムドラフは一瞬言葉に詰まり、それでも唸った。

「共食いしたくなければ簡単だ。動物になった後、菜食に切り替えろと言えばいい!」

アエギキットは少し考えて頭を掻いた。

「……へえ、確かに一理あるかも。ご主人様、こいつを許してあげようか? もう人間を助けなくていいよ。動物に変えて悟らせた方がいいんじゃない?」

ご主人様は表情を変えず、冷たく言った。

「アエギキット、馬鹿なことを考えるな。AegiCo形態に変更!」

ノグナムドラフは相手に妥協する気がないと悟り、目を怒らせて殺気を放った。

「大人しく運命を受け入れろ! まだ抵抗するつもりか!?」

彼は口を開き、濃密な緑色の変異光線を二人に向かって放った。

「私も戦いたくはないんだけど……」

アエギキットは小さくため息をつき、手首の機械式時計を勢いよく回した。

「でも先制攻撃された以上、正当防衛させてもらうよ!」

死の緑光が迫るより早く、アエギキットの身体が神秘的に変化し始めた。

細胞から太古の蔦と輝く菌類の胞子が現れ、全身を包み込んだ。

「AegiCo(冬虫夏草)——私は生を操る者。生を死に変える者!」

ノグナムドラフの緑光は強制的な遺伝子変異エネルギーだった。

しかし「生の絶対支配者」であるAegiCoの前では、全ての生化学法則がねじ曲げられる。

彼女は光線を容易く中和・分解し、ご主人様と共に完全無効化した。

攻撃が無効化されたことに激昂した竜は、さらに濃密な光線を浴びせかけた。

AegiCoは避けず、両手を広げて濃い緑の胞子膜を展開した。

その膜は生物学的ブラックホールのように、光線を全て飲み込み吸収した。

「今度は私の番!」

AegiCoがエネルギーを解放した。

足元から神聖な根が爆発的に伸び、竜の象の脚とサソリの鉗爪を絡め取り、巨大な体を地面に縫い止めた。

巨大竜は激しく暴れたが、無駄だった。

胞子は静かに体内に侵入し、生体エネルギーと神経系を封鎖していった。

完全に動きを封じられたのを見届け、ご主人様が影のように滑り寄った。

手に持つのは特別製の中和ワクチン注射器だった。

ズブッ!

針が竜の血管に深く刺さった。

刹那、眩い白光が夜空を染め上げた。

巨大な角、ペラゴルニスの翼、サソリの鉗爪——全ての異形が縮小し、崩壊し、消え去った。

光が収まった時、崩壊した施設の瓦礫の上に、ただ一人の白髪の老人が、力尽きて倒れていた。

人類粛清計画は、ここに完全に阻止された。


第15章 人間性が奇跡の薬となる時

2022年12月15日 月曜日

ノグナムドラフは乾いた唇を震わせ、くすんだ瞳でご主人様の高い影を見つめた。

「……なぜだ……。

なぜお前たちは、このように利己的で自然を破壊し、万物の命を踏みにじる種族を、必死に救おうとするのだ……?」

ご主人様はゆっくりと空を見上げた。灰色の雲が晴れ、澄んだ青が再び広がり始めていた。彼は静かだが重みのある声で答えた。

「一つの種族から『人間性』を奪うことで世界を変えるのは、救済ではない。それは破壊だ。

人間には、恐怖や暴力で強制されるのではなく、自ら学び、地球に寄り添い、愛する時間が必要なのだ」

アエギキットは隣に立ち、地面で薄れゆく緑色の光を見つめながら不安げに尋ねた。

「でもご主人様……もしこの出来事の後も、彼らが頑なに悟らなかったらどうするんですか?」

ご主人様は振り返り、アエギキットの頭を優しく撫でて微笑んだ。

「その時はまた、ノグナムドラフ博士に頼もう。

人間に『万物を愛するということ』を、深く教えてくれるように」

ノグナムドラフはそれを聞き、力のない苦笑を浮かべた。

息はすでに風前の灯だった。

「……それは……無理だろうな……」

そう言い終えると、天才科学者の瞳はゆっくりと閉じられた。

冷たい地面の上で、彼の息は完全に止まった。

ご主人様は一瞬動きを止め、冷たくなり始めた肩を軽く揺すった。

「……どうした?」

心臓が止まっていることに気づき、彼は即座に立ち上がり、こめかみに指を当てた。

「医師・ダルジョアムーン、俺はお前を選ぶ!」

空間の渦が開き、ダルジョアムーンが医療服姿で即座に現れた。

彼女は素早く跪き、ノグナムドラフの首に指を当てた後、ご主人様を見て静かに首を振った。

「……もう、亡くなっています」

アエギキットは愕然として近づき、目を見開いた。

「どうしてこんなに急に……?」

ダルジョアムーンは立ち上がり、静かに説明した。

「まず一つ、彼はすでに高齢で体が弱っていました。二つ目、この国中の人間を変異させるために膨大なエネルギーを放出したことで、生命力が完全に枯渇していました。そして決定的な原因は……」

彼女は少し間を置いた。

「三種類の強力なワクチンを、ほとんど同時に体内に注射したことです」

「三つ?」ご主人様が眉を上げた。

アエギキットは博士の狂った行動を思い出し、頷いた。

「そうです……人間進化ワクチン、暴君竜ワクチン、そして最後にご主人様が打った中和ワクチン……三つの遺伝子が激しく衝突して、身体を破壊してしまったんですね」


荒廃した港に、冷たい風が吹き抜ける中、ご主人様、アエギキット、ダルジョアムーンの三人は静かに墓を掘り、風変わりな科学者を丁寧に葬った。

全てを終えた後、ご主人様は広域空間磁場を展開し、仲間たちを一斉に召集した。

瞬時に、ネベルセレ、フアゼッシン、ディーススワノ、ギギュム、ジョウセーレ、セイントリーシュ、エルライビジン、アング・フオヒコ、ユウセインダー、レイ・ジョニジの十人が整然と並んだ。

ご主人様は一人ひとりに中和血清の入った箱を渡し、力強く命じた。

「全員、すぐに各地に散開しろ。この中和ワクチンを使って、できる限り多くの動物たちを人間の姿に戻せ!」

「はい、ご主人様!」

全員が同時に答え、素早く四方へ散っていった。

しかし、しばらくしてネベルセレが慌てた様子で戻ってきた。

「ご主人様……倉庫にあったワクチンの在庫が、完全に尽きてしまいました」

フアゼッシンが心配そうな顔で続けた。

「この施設は破壊されていて、すぐに数百万回分を製造することは不可能です」

ディーススワノがデータを見て総括した。

「全ての在庫を合わせても、残っているのはわずか120回分だけです……」

その時、茂みから一頭の大きなクマがよろよろと現れた。

実は先ほど緑の光に当たった政府関係者だった。

クマは震える声で言った。

「……我々はどうすればいいんだ?

この醜い獣の姿のまま、永遠に生きていかなければならないのか……?」

ご主人様はクマを見据え、そして周囲の丘に広がる数万の動物たちを見回した。

そして静かに、しかしはっきりと言った。

「今すぐ現実を変えられないのなら、共に生きる方法を学べ。

今、お前たちの周りにいる動物たちは、家族であり、肉親であり、親友かもしれない。

これから先、うっかり家族を食べてしまわないために、世界に残された選択肢は一つだけだ——

菜食を貫け」

アエギキットは獣の姿をした人々が、互いに顔を見合わせ、熊の足や鹿の足がそっと触れ合う光景を無言で見つめ、小さく呟いた。

「……もしかしたら、この強制された瞬間こそ、世界の緑の肺が蘇る、本当の機会なのかもしれません」

ギギュムは腕を組み、現実的に結論づけた。

「歴史の過ちをすぐに修正できないのなら、適応し、生活様式を根本から変えるしかない」

ご主人様は小さく息を吐き、新しくできた墓を見つめた。

「ノグナムドラフは去ったが、不思議なことに、彼の大きな目的は誰も予想しなかった形で実現した。

『共食いを避けるために菜食をせよ』という言葉が、この惑星にとって唯一の完璧な解決策になった」

ジョウセーレが一歩前に出て、深い瞳で森を見つめた。

「これが、人間がようやく足を止め、これまで自然に与えてきた巨大な傷を、真剣に見つめ直す時なのです」

ダルジョアムーンは聴診器を直しながら、穏やかに言った。

「人間には、新しい姿の中で自ら悟ってもらいましょう……。

私たちのワクチンが癒せるのは肉体だけ。

真の優しさと慈悲は、心の奥底から癒されなければならないのです」

セイントリーシュは剣の柄に手を置き、哲理を込めて微笑んだ。

「これこそが、運命の完璧な采配なのかもしれません。

言葉が重要ではなくなる時、生き物同士の共感が芽生える時、人間の心は初めて本当の意味で世界を受け入れるのでしょう」

エルライビジンは肩にとまった小さな鳥に触れながら言った。

「世界の真の美しさは、人間という高貴な姿にも、獣という卑しい姿にもなく、

互いの命をどれだけ大切にできるかにあります」

アング・フオヒコは髪を優しく撫で、考え深げに言った。

「身体の変化による痛みはいずれ癒えますが、

この共生の教訓は、彼らに永遠に刻まれる傷跡となるでしょう」

ユウセインダーは考え込む政府代表のクマを見て、笑いながら言った。

「獣としての辛い日々を十分に味わってこそ、

ようやく『人間であること』の尊さがわかるのでしょうね」

レイ・ジョニジは拳を強く握り、戦いの終わりを締めくくった。

「今、この地球に最も必要な特効薬は、私たちのワクチンなどではありません。

彼ら自身の中に目覚めつつある、慈悲の心です」


こうして、かつてない全く新しい時代が世界に訪れた。

人類史上初の「動物政府」が国家運営を担う、極めて特異で興味深い社会が誕生した。

元は家族であり友人であった同胞を守るため、全ての民は本気で終身菜食を実践した。

世界の秩序は、滅亡ではなく、新たな慈悲に満ちた共生によって、静かに、しかし確実に変わっていった。

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