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婚約破棄作戦


 そもそも私とネイサム第二王子との婚約は十二年前、私が五歳の時に結ばれた。

 王家たっての願いで。詳しく言うと王妃様のごり押しで。


 王妃様は隣国の王女で国王様とは政略結婚だが、国王様は王妃様に一目ぼれ。まさに溺愛している。


 しかし子供がなかなかできなかった。


 国王様は側妃様を娶ることを求められた。王妃様が肩身の狭い思いをしないよう国王様は力のない伯爵家のおとなしい令嬢を側妃様に選び、側妃様は見事男児を出産した。

 第一王子のローレンス様だ。歳は私のお兄様と同じで現在二十二歳。


 そして運命の皮肉かその後王妃様が身ごもり、二年後男児を出産した。

 それが、あのおバカ王子ネイサムだ。


 第一王子とはいえ後ろ盾もない側妃様の息子と第二王子とはいえ溺愛されている王妃様の息子。

 将来どちらが王太子になるかは明白だった。

 更に第一王子の母である側妃様は王子が三歳の頃、病で亡くなってしまった。

 第一王子ローレンス様は頼る者もいない王宮で冷遇されて育った。


 事態が変化したのはローレンス様が十歳の時。

 辺境を守る英雄ゴットフラム大公が孫娘のシンディ様を第一王子の婚約者に決めたのだ。

 そのころには二人の王子の資質というものもわかってきており、聡明で穏やかな第一王子に比べ、飽きっぽくわがままな第二王子の将来を危ぶむ人たちもちらほらと出てきていた。


 英雄ゴットフラム大公は貴族、民衆共に絶大なる人気を博しており、老齢の貴族の中には今なお王位を継ぐべきだったと公言を憚らないものもいるほどだ。


 そのゴットフラム大公家が第一王子の後ろ盾に着いたのだ。

 大公はその二年後この世を去ったが、後を継いだ現ゴットフラム大公も強力な第一王子の後ろ盾となった。


 焦った王妃様は第二王子の婚姻相手として我がアルフォード侯爵家に私との婚約を申し入れてきたのである。


 アルフォード侯爵家は建国以来の伝統を誇る名家であり、お父様は現在宰相を務めており切れ者との評判も高い。つまり、貴族の中で高い支持率を誇っているのである。



 そんなわけで私とネイサム王子の婚約が結ばれたわけだが、私は初対面からこの王子が嫌いだった。


「おまえがわたしのこんやくしゃか。ちいさくてつまらんな。まあいい、わたしはしょうらいおうさまになるえらいひとだ。わたしのいうことはなんでもきけ」


 そう言って八歳の王子は五歳の私を引っ張りまわし、ついてこれない私を馬鹿にした。

「こんなこともできないのか。どんくさいやつだ」と何度も言われ、突き飛ばされた。

 さすがに突き飛ばされたときは従者や護衛騎士たちが止めに入ったが。


 泣いて家に帰った私を見てお父様は激怒し、王家に婚約の解消を願い出たが「子供のしたことだから、大目に見てくれ」と言われ、引き下がるしかなかった。



 それから五年、私は耐えに耐えた。

 初対面の時以来、私に危害が加えられることはさすがになかったが、飽きっぽく勉強嫌い。自尊心ばかり高く、仕えている者たちをゴミくずのように扱う王子を間近に見て、何度ブチ切れそうになったかわからない。

 とにかく王子は「私は将来王になる人間だ。将来の王になる人間に逆らうのか」と全てのわがままを押し通した。


 私は何度も王子を諫めた。王家に婚約の解消も何度も申し入れた。

 が、我が家の後ろ盾なくしてはたとえ王妃様の息子であろうと立太子は難しく、婚約解消は聞き入れて貰えなかった。


 十歳になった時、私は決意した。


 このままでは私はあのおバカと結婚させられてしまう。そんなことになったら私の将来は真っ暗だ。

 それにあのおバカが王様になんてなったらこの国の将来も真っ暗だ。


 幸いにあのおバカ王子は自分が王様になる事を疑ってもいない。

 後ろ盾の強さや政治的判断とか何もわからず王様と王妃様の息子は自分しかいないから当然王になるものだと思っている。

 十歳の私でもそれだけでは王になれないことはわかるのに。



 こちらから婚約解消できなければ向こうからさせる!

 それも言い逃れできないような状況で。


 そのために徹底的にネイサム王子に嫌われるよう努力した。


 まずは見た目を徹底的にダサくした。前髪を伸ばし冴えなく見えるよう化粧した。

 侍女のアイリスが頑張ってくれた。彼女の化粧の技術なくしては見た目をこんなに変えられなかった。


 それから病弱と言って登城する回数を徐々に減らし、領地で静養すると言って領地に引きこもることに決めた。

 しかしそれは王妃様から横槍が入った。王子妃としての教育も始まる今、領地に行かれては困るということだ。

 お父様は王子妃教育と同等の教育を必ず領地で受けさせると約束した。


 交渉の結果、年に二回、社交シーズンの始まりと終わりを告げる王家主催の大夜会の際には王都に出てくること。社交界デビュー後は必ず参加すること。

 その際、つつがなく教育が進んでいるかをチェックするため、王城で試験を受けること。


 もちろん交渉したのはお父様だ。十歳の子供に交渉などできるわけがない。

 つまり我が家は一家そろって婚約を解消したいのだ。



 そして今回の大夜会は私にとって千載一遇のチャンスだったのだ。

 

 いくらおバカでも王様や王妃様のいるときに婚約破棄などできないことはわかっているだろう。

 今、王様と王妃様は王妃様の出身の隣国の王太子が王様に即位する式典に出席するため、宰相である私のお父様を伴って隣国滞在中である。

 国王の即位ともなれば周辺の国々から王族が訪れるのでいろいろ政治的交渉もあり、一か月ほど滞在する。


 この機を見逃すはずがない。逆にこの機を逃すと後がない。

 今までお父様たちがのらりくらりと躱していたが私も十七歳になったので王妃様が本腰を入れてきた。国王様たちが戻ってくれば本格的に婚姻への準備が始まるだろう。

 絶対にネイサム王子は婚約破棄をすると私は読んでいた。

 事前にルルーチェ・マルロー男爵令嬢とかいう色っぽい美人に入れあげていることも調査済みだ。

 

 貴族みんなの前で宣言してしまえば王妃様といえど撤回はできない。

 ネイサム王子も嬉しいだろうが、私も嬉しい。



 王妃様以外は両者ウィンウィンの婚約破棄だったはずなのに


 どうしてこうなった?


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