私はもう辺境の住人?
王妃は苛立っていた。
一向にゴットフラム大公家とアルフォード侯爵家の縁組が解消されないのだ。
ドラム伯爵を呼びつける。ゴットフラム大公家から逃げてきた侍女も連れてくるよう命じた。
「王妃様におかれましては……」
「挨拶はよい!ドラム伯爵、ちっともゴットフラムとアルフォードの婚約が解消されぬのはどういうわけじゃ」
王妃の機嫌の悪さにドラム伯爵は冷や汗が流れる。
「き、今日はゴットフラム大公家の元侍女マルゴット・ラッセルを連れてまいりました。マルゴット!もう一度王妃様にアルフォード侯爵令嬢が領地に来た時の様子をお話ししろ」
「……そこまでの仕打ちをされて泣き暮らしていたのになぜアルフォード侯爵は婚約を解消しないのか?」
王妃の疑問にドラム伯爵は恐る恐る答えた。
「アルフォード侯爵はゴットフラム大公に懐柔されたのではないですかな?娘を犠牲にして第一王子陣営と手を組むつもりでしょう。娘を王都に帰さずゴットフラム領に残らせたようです」
「そんな仕打ちをされた家に残すということは……まあ、あの陰気な芋娘では親に愛されなくても当然か。……しかしそれでは不味い。あの二人が手を組んでしまえばネイサムの勝ち目は無くなる」
王妃はギリギリと扇を掴む。
「王妃様、私は手の者をゴットフラム領に差し向けたのですが……」
「ほお……屋敷に潜入して婚約破棄させる企みでもしているのか?」
「い、いえ、そこまでは……お屋敷には潜入できませんでしたが、耳寄りな話はございます」
「何だ?」
「領地でゴットフラム大公の息子は見目麗しい少女を傍に侍らしているようでして」
「詳しく申してみよ」
「なんでも『ティナ』とかいう屋敷のメイドをどこに行くにも伴っているようでして。侯爵令嬢らしい娘の姿は一度も見かけたことがないそうです」
ドラム伯爵の言葉にマルゴットが反応した。
「お、王妃様に申し上げます。その『ティナ』という娘は私がいたときからレオン様のお気に入りで、執務室に連れ込んでおりました」
「ふふっ親が婚約を結んでも息子は嫌がるか……ネイサムと同じだな。その辺をつつけば何とかなるか。
……ゴットフラム大公の息子とクリスティナを呼び出すか……」
王妃は侍女を呼び寄せ耳打ちした。
「二人を社交シーズンの終わりを告げる大夜会に招く。夜会で大公の息子に婚約破棄させるよう誘導するのだ。二度も公衆の面前で婚約破棄されるなど、クリスティナも可哀そうじゃな」
愉快そうに王妃は笑った。だがまだ足りない。第一王子ローレンス自体の失敗がなければ情勢はネイサムに傾かない。
もう一手打つ必要があるだろう。
「マルゴットといったか。お前の身柄は私が預かろう」
王妃の言葉にマルゴットは目を輝かせた。憧れていた王宮の侍女だ。しかも王妃付きだ。
「早合点するでない。お前は侍女見習いといったところだ。正式に侍女になるにはもっと私の役に立てるよう励め」
「はい。何でもいたします」
マルゴットは深々とお辞儀をした。
私はレオン様とバトレンゼの街に来ていた。
といってもそれはいつものことだが、今日は仕事がらみではない。そこがいつもと違う。いつも一緒のノア様もいない。
「二人でゆっくりデートしておいで~」
と送り出された。もっとも護衛の騎士は二名ついているが。
今日は大夜会で着るドレスとアクセサリーを選びに来たのだ。
大夜会まで馬車で向かう日程を考えればあまり余裕がない。一から仕立てていると間に合わないので今回は既成のドレスを購入する。
バトレンゼで一番高級なブティックで購入したのはレオン様の瞳の色にも似たペパーミントグリーンのドレス。
実は私はこんなにかわいらしい華やかなドレスを着るのは初めてだったりする。
ネイサム王子と婚約していた時はいかにダサく、芋臭く、がテーマだったからだ。
華やかなドレスを身にまとい試着室から姿を現した私を見て、レオン様はとても感激したようだった。
「ティナ、可愛い!妖精みたいだ!毎日いろいろなドレスを着た君が見たい!この店のドレスを全部買って帰ろう!」
それは必死に止めたが後日お屋敷の方に来てくれとブティックのオーナーに言っていた。オーダーメイドでドレスを注文するそうだ。
私はそこまでドレスに興味があるわけではないが(動きやすい服装の方が好きだったりする)レオン様があんなに喜んでくれるのは単純に嬉しい。
「さあ、ドレスが決まったらアクセサリーだ!」
次に向かったのはチェスター宝石店。
応接室に通され応対してくれたのはあの時イヤリングを換金してくれた支配人、ハリスンさんだった。
「レオン様、お待ちしておりました。そしてティナ様お久しぶりでございます」
ハリスン支配人は今の私を見ても全く動じていない。その訳を聞いてみると
「失礼ながら、私はあの時応接間まで向かうお嬢様の立ち居振る舞い、ソファーに座るしぐさなどを観察させていただきました。そして高位の貴族のご令嬢だと推察いたしておりました。ただ、どういった経緯でアクセサリーを手放そうとしてらっしゃるかはわかりませんでした。お嬢様は私をまっすぐ見られた。その目に疚しい気持ちは感じられなかったので換金させていただいた次第でございます」
ハリスン支配人には私が貴族の令嬢だということはばれていたのね。
「あの時のイヤリングはどういたしましょう?お返しすることもできますが」
「いえ、ご迷惑でなければそちらで処分してください」
イヤリングに特に思い入れは無い。
レオン様は事情を聞くと眉が下がって情けない顔になってしまった。
「俺が不甲斐なかったから君にそんな不自由な思いをさせてしまってたんだな……」
「いえ、過ぎた事です。それに今の私はレオン様の素敵なところを沢山知っています」
私が微笑むと、レオン様は急に勢いづいて言った。
「お詫びにこの店の宝石を全部……は無理だから君に似合いそうなイヤリングを贈らせてくれ。
もちろん夜会に着けていくアクセサリーとは別に」
それから私たちはハリスン支配人の持ってきたアクセサリーの数々を見せてもらった。
レオン様が選んだのはドレスに合わせてエメラルドをあしらったネックレスやイヤリング、髪飾りなど。
王都の宝石店にも引けを取らない高級品ばかりだった。
それらのアクセサリーはお屋敷に届けてもらうことにして、レオン様と私は店内の品々を見せてもらうことにした。
二人で店内に飾られている様々なアクセサリーを見て歩く。気に入ったのは小さなピンクダイヤを使った花をかたどったイヤリング。普段使いができるのでその場でレオン様につけてもらった。
「ありがとうございます!とっても嬉しい!」
男の人にプレゼントを貰うのも、手づから付けてもらうのも初めての経験でとっても照れ臭い。
レオン様は平気なのかな~と思ったら、レオン様も顔が真っ赤で、お礼を言ったらあさっての方向を向いていた。
そんなこんなで王都に行く準備は整い、明日王都に発つ。さすがに今回の日程は四日ではなく一週間だ。随行者はノア様、アイリス他従者や護衛の騎士が十名ほどだった。
特産祭りも間近に迫ってきた今、何日もこの地を留守にするのは嫌だったが王家からの招待なので仕方がない。実行委員のラルフ達に後を頼んだ。
私は王都に行った後もここに帰ってくる気満々だ。どうして?いつから?この辺境の住人になってしまったのだろう?




