今更夜会ですか?
数日後、ラルフ達実行委員は各地に飛んだ。
今日、私はレオン様と一緒にホーデン村に行き、出店交渉と、タクルたちの集落に建てられているバオの技術を教えてもらう交渉をする。
レオン様、ノア様と一緒にホーデン村に向かった。
村に着き村長の家に招き入れられる。
早速お祭りの説明と出店について話をしたが、村長の反応は芳しくないものだった。
「わしらはそんなに特産品なんてねえからなぁ……レオン様直々に声をかけてもらってすまねえですが」
「この村特産の農産物とかは?それに村はずれの集落の人達の工芸品は見事なものですよ」
私の言葉に村長は急に怒り出した。
「わしらに……あんな奴らと手を組めと言っとるんですか!?あんな奴らと一緒なんてまっぴらごめんだ!!」
「じいちゃんのうそつき!」
私たちが説得する前に抗議の声を上げたのはミアちゃんだった。
「じいちゃん、いつもみんななかよくしなさいっていうのに……じいちゃんはなかよくしないの?」
ミアちゃんの言葉に村長は黙ってしまった。
ミアちゃんは目に涙を溜めて続けた。
「タクルはやさしいよ。ミアがかわにおちそうになったときたすけてくれたもん。おはなもつんでくれたよ。なかよくしちゃいけないの?」
ぽろぽろ涙をこぼしているミアちゃんの頭を撫でてレオン様は言った。
「村長、彼らも同じ村の住人だ。もう少しお互いを知る努力をしてみてはどうだろう?お互いを知ったうえでどうしても相容れぬと言うなら俺たちも考える。村を分かつのもいいだろう。まずは歩み寄ってもらえないか?」
村長は苦虫を噛み潰したような顔をして「向こうの集落の人達が協力するなら」と言った。
私たちは次にタクルたちの集落に向かった。
集落の代表者の老人、カンザの家に入り、先ほどと同様の説明を繰り返した。更にバオのノウハウを教えてほしいと言ったのだが、
「レオン様、声をかけてもらったのは有り難いが、わしらに教えてもらうなんていやだと言うものが多いんじゃないですか?わしらはここでひっそり暮らしていければいいんで……」
「村長はこちらが協力するならと言っているが」
「今までもそうだったんだ。わしらは狩猟を生業としとる。村の奴らと時間や予定が合わない時もある。でもあいつらは自分たちに合わせろと押し付ける。無理だと言うともともと敵の奴らだからという。
何度も相談に乗ってもらったレオン様には悪いがもうわしは関わり合いになりたくないんだ」
「カンザの気持ちはよくわかるよ。でもそれはお互いのことをよく知らないからだと思うんだ。これは一つのチャンスだよ。村の人達だけじゃない、もっと多くの人達に皆のことを知ってもらいたいんだ」
そしてレオン様はカンザの家に集まっていたほかの人達を見回した。
「皆の意見は?やってみたいものはいないのか?」
レオン様の問いかけに一人の男が名乗りを上げた。
「俺やってみたい」
続いて先日私にブレスレットをくれた女の人も賛同した。
「お父さん、私もやってみたい。お父さん私が『ちゃんと家を建てて村の人達と一緒に定住したい』って言ったとき『俺たちの部族の伝統を無くすわけにはいかん』って言ったよね。バオの作り方をみんなが知ってくれれば伝統を無くすことにはならないんじゃないの?」
「お前らがやりたいならやればいい。俺は反対はせん」
しぶしぶではあるが、一応了解は取り付けた。
それから一か月後、第一回特産祭り実行委員会が開かれた。
参加者は出店を希望してくれた十五の町や村の代表と実行委員の面々、レオン様、ノア様。
ラルフ達実行委員が頑張ってくれて十五も出店してくれる町や村が集まった。
そしてタクルの集落の若者たち。
彼らは持ち運べるように解体したバオを一軒荷馬車に積んできて広場で実際に組み立ててくれた。
出店希望者たちは興味深げに眺めている。実際に組み立て終わると中に入って感心していた。
バオの骨組みに使う木材や金具はレオン様の方で用意してくれることになり、上にかぶせる布は各町や村で用意することになった。それぞれの町の特色を生かしたデザインにするそうだ。
町の代表者たちはどのくらいの大きさの布を用意したらいいかとか雨が入らない素材や工夫などの注意点を熱心に聞いている。
なかなかいい滑り出しだ。タクルの集落の若者たちもこんなに受け入れてもらえると思っていなかったらしく、目を輝かせ一生懸命説明している。
ホーデン村の代表者たちは最初離れてその様子を見ていたが、徐々にその距離は近くなっていった。
「ホーデン村の辺りは先の戦争で戦禍に巻き込まれた地域なんだ。親や祖父の代で被害に遭っている。だから彼らに対する忌避感も強かったが、離れた土地の人々はそんなしがらみはないだろう?そういった人々が間に入ることでホーデン村の人達も歩み寄ってくれればと思うよ」
いつの間にかレオン様が隣にいて呟いた。そして私の手を取って言った。
「ティナ、ありがとう。一緒に頑張ってこの祭りを成功させような!」
二か月半の時が過ぎた。
私たちは特産祭りの準備に忙しい時を過ごしていた。
ホーデン村の人達は仲良く準備をしているようだ。
始めに打ち解けたのはミアちゃんとタクルといった子供たち。その後女性陣が仲良くなり一緒に工芸品づくりをしているようだ。妻や母に背中を押され男の人達も歩み寄り始めた。老人たちは我関せずの態度を取っていたが、最近は若いものには任せておけんと言っていろいろ口を出してくるようになったらしい。
タクルの集落の人達はバオ作りの指導が間に合わないと、他のバオの集落の人達にも声をかけた。
ポスターが作られ、領都だけでなくゴットフラム領の各地に配布されると興味を持つ人々も増え、遅ればせながら出店したいと希望した町や村が五つ増えた。
私はずっとゴットフラム領のお屋敷に滞在していた。
最初は一か月ぐらいの滞在で王都かアルフォード家の領地に帰る予定だったが、今ではお祭りの成功を見なくては帰れない気持ちだ。
ううん、正直に言うと、客人ではなくもうゴットフラム領の人間に、この屋敷の住人になったような気持ちだ。
お父様、お母様からは数度手紙が届いた。
私が不自由なくこの地で暮らしているか心配していたが、私がこちらでの様々な事を手紙に書いて送ると安心したようだった。
お兄様からは手紙が届かなかったが、お兄様はレオン様と手紙のやり取りをしていたらしい。
お兄様は、私とレオン様の婚約を以て第一王子ローレンス様の側近となった。
お父様とゴットフラム大公が王都でいろいろ根回しをしてローレンス様を立太子させるべく画策しているらしい。
そんなある日、私とレオン様に手紙が届いた。
社交シーズンの終わりを告げる王家主催の大夜会。
その夜会に二人で出席するようにとの王家からの通達だった。
どうして今更?




