私が実行委員?
お屋敷に帰ってきて夕食後、レオン様とノア様は昼間訪れた村のことを考えているようだった。
「レオン様」
「あ、ごめん。君を楽しませるために連れ出したのに」
私の呼びかけで物思いに耽っていたレオン様はハッと顔を上げた。
「いえ、それはいいんです。昼間の村の人達が歩み寄れない原因はなんでしょう?」
「うーん……一番の原因は相互理解不足かなあ」
「お互いに全くかかわろうとしないからね~」
レオン様の言葉にノア様も頷いて続けた。
「もう意地だよ。意地の張り合い」
「何かお互いに協力せざるを得ないようなことがあるといいんだけどね」
レオン様もお互いに協力させようといろいろ提案したがダメらしい。
「この問題は気長に話し合っていくしかないな。ティナ、今日は疲れただろう。ゆっくり休んでね」
次の日はレオン様とノア様は領都バトレンゼの商業ギルドでお仕事らしい。
私は馬車に同乗させてもらい、アイリスを連れて街まで買い物に出かけることにした。
ドレスではなくちょっと裕福な平民が着るワンピース姿で出かけるので大丈夫だと思ったが、レオン様は心配して護衛をつけてくれた。
護衛は国境騎士団の騎士でサミュエル・ガーラン様。歳はレオン様と同じくらい?
国境騎士団はゴットフラム大公家所有の騎士団だが、領地の警備だけでなく国境の警備も担うため国庫からも交付金が支給されている。
「サムと呼んでください」挨拶の後、それだけ言って後はずっと黙っている寡黙な騎士だ。
商業ギルドの前で馬車を降り、私はアイリスと街歩きを楽しんだ。
いくつかのお店を覗いて買い物を楽しみ、商業ギルドに戻ってきた私は建物の中に足を踏み入れた。
レオン様たちはまだ用事が終わっていないようなので建物一階のエントランスホールのようなところで待っていると、不意にその声が聞こえてきた。
「この領地はバラバラ過ぎるんだ!」
「これだけ広いんだ。しょうがないんじゃないか?」
「だから!最近停滞気味なんだよ。領内の流通が活性化すれば……」
「そうだな。でもなんかいい案があるのか?」
話に惹かれて覗いてみると三人の若者がホール横の休憩室のような部屋で話していた。
「あー、なんかみんなが盛り上がることがないかなあ」
「それだ!」私は思わず叫んでいた。
中にいた三人が一斉に私を凝視した。
「すみません……」
私はそそくさとその場を去ろうとしたが……
「それだ!って何?」
三人の内の一人が声をかけてきた。
「え?あの、お祭りなんてどうかな~なんて」
「「「お祭り?」」」
「ええ。あの……ここの建物の先に大きな公園がありますよね」
私が考えた事、それは……
ここバトレンゼの街の西南に大きな公園がある。広大な芝生の広場の周りを木立が取り囲み、水場もある領都民の憩いの場所だ。
その公園の芝生広場にゴットフラム領の各町や村ごとに簡易建物を建てる。そしてその中で各町や村の特産品や工芸品を売るのだ。
それぞれの町ごとの特色を出した演出をしてもいいし、広場の中央に舞台を作って伝統の踊りとかを披露してもいい。
そうすればこのお祭りに来た人はゴットフラム領内の様々な特産品を知ることができるし、新たな取引も生まれるかもしれない。
この辺境の地は広すぎて町が点在しているため同じ領民でありながらお互いのことを知らなすぎるのだと思う。
私は説明に熱中し過ぎていつしか部屋の中に入り込み、三人に熱弁を振るっていた。
昨晩、レオン様が言った「何かお互いに協力せざるを得ないようなことがあるといいんだけどね」
という言葉に対し、私がずっと考えていたことだ。
昨日行った村、ホーデン村として一つの建物で出店すれば協力するしかないだろう。
それに昨日タクルの集落で見せてもらった工芸品は見事なものだった。
なのにあの工芸品は集落に回ってくる行商の人に卸しているだけだという。バトレンゼの人達はあの工芸品のことを知らないのだ。こんなに近くにいるのに。凄くもったいないと思う。
私の熱弁を三人の若者はポカンとした表情で聞いていたが、
「いいん……じゃないか?」
「俺もいいと思う」と目が輝きだした。
私の手をがっしと掴み、一番背の高い若者が言った。
「俺はラルフ。こいつらはイストとジャンだ。君は?」
「ティナです」
「ティナ、君の提案を上司に掛け合ってくる。ここで待っててくれる?」
あ、私レオン様を待ってたんだ。慌てて入り口を振り返るとアイリスが呆れた顔をして立っていた。
ちなみにサムは無表情だ。
強制的に待っていることを約束させられ、しばらくすると三人は戻ってきた。
三人と上司らしい人と……レオン様とノア様を連れて。
「ティナ、丁度よくご領主様のご子息のレオン様がいらしてたんだ!
君の提案に乗り気になってくれたよ!」
ラルフの言葉にレオン様の眉がピクリと動いた。
「へえ……面白いことを考えたね。俺はいいと思うよ、ティナ」
そう言いながらレオン様が私のそばに来る。
「えっ!ティナ、レオン様と知り合い?」
ラルフの言葉にレオン様は微笑んで私の肩を抱くようにしながらみんなの方を向かせた。
「紹介しておこう。俺の許嫁のクリスティナ・アルフォード侯爵令嬢だ。よろしく頼む」
ラルフ達三人は金魚みたいに口をパクパクするだけで言葉が出てこない。
ノア様が小声で「独占欲丸出し」と言っていた。
上司やレオン様を交えてもう一度話し合いをした結果、私の案は採用になった。
広場に簡易とはいえ建物を建てるのは大変ではないかと誰かが言ったが、それについては当てがあった。
タクルたちの集落のバオだ。あの技術を応用すればいいのではないか?
レオン様に相談すると乗り気になって、すぐ交渉しに行こうと言ってくれた。
お祭りの時期は春先に決まった。王都では社交シーズンが終わり少し経った頃だろう。
今は秋の終わり、四か月後だ。
これから農閑期に入るから準備にも動きやすいだろうとのことだった。
まずは出店してくれる村や町を募ることから始めなくてはならない。できれば領内の様々な地域から集めたい。
実行委員として先ほどの三人プラス三名ほどが選任され、各地域に赴いて交渉にあたることとなった。
そして私も実行委員になってしまった。
なんでこうなった? って当たり前か。




