好きなものを好きなだけ食べるといつか飽きがくる
お洒落するのが好きだ。
自分自身ではそれほど今の流行を掴んだりましてや最先端をいったりするような気概も意気込みもないので、主にお母様とサラ、後は衣装の仕立て屋さんの成すがまま決められるままなのだが。
では正確には何が好きなのかというと。
皆のお人形状態で着たり脱いだりする時間はとてつもなく長くてぐったりしてしまうのだが、それがちゃんとした衣装として完成し、それをきちんと着付けて貰った完成形の状態(サラ曰くご令嬢モード)の自分……を見た周りの賛辞を受けるのが好きだ。
何だよただのナルシストかよと思われるだろう。ナルシスト上等である。
だって、転生した自分、すっっっっっごく可愛いのだ。何を着ても似合う。びっくりしてしまう。
そりゃあ平々凡々のうっすいしょうゆ顔で飽きるほど鏡をみながら時間がないながらも悪戦苦闘し何とかオフィスレディらしく量産型女子と呼ばれる顔に作っていたあの頃とは、かけるお金も、手がける人員も、支度にかける時間も、ベースとなる私自身のスペックも、天と地ほどの差がある。
そりゃあ自分の顔大好きにもなる。スキンケアだって楽しい。磨いた分だけ日々可愛く美しく成長していくのを見るのは、成果のこないダイエットなんかとは比べ物にならないくらい楽しい。
ただひとつ残念なのはこれだけ手間隙かけて磨いても、ギルがうちの公爵家を継ぐだけなので誰か金持ちを捕まえて玉の輿を目指す!とかの目標が立てられないことくらいかな。
そんなわけで、今日もサラがひとつの作品を作り出した。
タイトルは「ご令嬢の街歩きスタイル☆ ~町娘の格好をしても少しだけにじみ出てしまう良い所のお嬢様感~」である。命名は勿論私です。え? センスはないです言われなくても知ってるよ!
そしてサラはそのタイトル通りの仕事をしてくれた。
町娘が着るような胸下で切り替えのあるAラインの地味めに見えるような茶色のワンピースに、少し履きつぶしたように見えるショートブーツを合わせて髪にはスカーフを巻いて目立つ私の髪を隠す。
本当に生地を町民らと同じにしてしまうと私の肌に傷がつく!と仕立て屋のお姉さんがわざわざダメージ加工をしてくれたので、パッと見は町に溶け込めるけど、振る舞いなんかは身についてしまっているので見る人が見れば貴族のお忍びだとバレてしまうだろうな、といった装いだ。
そう、今日は街歩きをするのだ。
あえてお忍びだとばれやすくしたのにも理由がある。
2年前、王妃様とのお妃教育の時間を使って私がチョコミント味をおススメしてから、王妃様は早速自分の開いたお茶会でチョコミントをお披露目してくれた。
やはり女性、しかも王妃様と同世代の今までのお菓子しか食べたことのない貴族女性には刺激が強いものの受け付けは正直に言うと良くは無かった。しかし王妃様からのおススメというネームバリューがあるのと、チョコとミントを混ぜ合わせるだけというお手軽な所と、ミント水といったようなアレンジレシピの豊富さが良かった。王妃様のお茶会に出席したご夫人方は家で料理人やメイドにレシピを言付けた。結果、それぞれの家でチョコミントや私の伝えた以外のミントレシピが開発されることになった。
簡単に言えば前世でのパクチーブームやタピオカブームみたいなものだったように思う。好き嫌いがあるからおススメしづらいと二の足を踏んでいた私の葛藤のなんて小さいことだったろう。
とにかくミントを入れとけ!チョコも追加だ!! みたいな流れが1年は続いた。私はウハウハだった。
しかしブームというものは盛り上がるときは燃え盛る火のごとく盛り上がるものだが、下火になるときはあっという間だ。2年も経つと「え? チョコミント? 貴女田舎出身ね? そんなものとっくに流行は去っておりましてよ!」なーんて事態になってしまったのだ。
私は枕を塗らした。私だってここまで盛り上がってくれなんて頼んでなかったのに、勝手に食べまくった結果勝手にもう飽きただなんて…みんなひどい。私はただ、チョコミントを美味しいねって一緒に食べ比べたりするような仲間が欲しかっただけなのに。
そんな拗ねに拗ねた私の耳に朗報が届いたのだ。情報源はカイン、実家からの確かな筋とのこと。
何の情報かって、王都の少し外れにある町では、チョコミント味を主に扱う専門店がまだ商売を続けているとの情報だ。
私はその話を聞いたときにお忍びでその店に行き是非そこのチョコミントを味わいたい!と目を輝かせた。しかしカインはまだ話に続きがあります、と手のひらを見せて私を制した。
曰く、ブームが去ってからというもの、盛況とは程遠い売り上げになってしまったそのお店では、今はご主人と若い売り子の2名で店を回しているのだが、そろそろ場所代の支払いもきつくなってきたのでいよいよ店を畳むしかなくなってきた…という情報だった。
私は燃えた。その店の味を調べ、私の舌が満足出来るようなら即店ごと買い上げねばならぬ、と。
そうして私がオーナーとなった暁にはその店で店主に今まで通りのチョコミントを…いや、オーナーとなれば多少メニューに口を出しても許されるだろうし、ブーム再燃とは決して言わないがチョコミントを好きな人間が好きなようにくつろげるような隠れ家のような空間を提供できるように造り替えさせてもらうくらいは望んだっていいはず…!
捕らぬ狸とは良く言ったものだ。今の私は確かに皮算用している。
しかしこの下火ブームの影響でチョコミント自体を古いと言われた私の傷ついた心を癒すには、チョコミントしかないのだ。
そして我々一同(私とサラとカイン)はアマゾンの奥地……違った、王都の外れにあるというチョコミント専門店へと向かった。