ヒロインのピンチにタイミング良く颯爽と駆けつけるヒーローの話は100万回見た
ブクマ・評価をありがとうございます!すごく嬉しいです。更新の励みになっています。
初めての連載で慣れないのですが、章というものを追加してみました!
王都であるナーエの外れにある街の名前をエスキナという。
そのエスキナに、私の目的とするチョコミント専門店「ドルチェ・ヴィータ」が店を構えているそうだ。
今回の最終目的は最終的にお店の土地を買い取り、営業に口出しをする権利を獲得することなので本当なら別に誰か使いをやってバーミルトン公爵の名前を出し金とお貴族様権力で従っていただくという力技コースもあるのだが、そんなことをするのなら最初から…それこそブームが巻き起こった2年前から王都の人通りの多い集客の望める良い場所を金とお貴族様権力で買い取り自分で広めるという手があったんだから最初からそれをしている。なぜ今までそういったことをしてこなかったかと言えば、単純に今まで私はいち消費者として、新たに次々と生み出される数々のチョコミント商品を楽しみたかったからだ。
ブームの最中はそれはもう楽しかった。専門店もたくさんあった。公爵家でも、ギルと料理長が色々と厨房で考えては私が試食させてもらって、大変充実した時間だった。
でもブームは去った。
今までチョコミント専門店と謳っていた店達は全てもう違うお店となっている。
唯一残ったのは、「ドルチェ・ヴィータ」のみ。
しかもそこも、もう風前の灯だという。ならば私の取る手は一つしかない。今までの消費者という立場から、自ら率いる役目になろう。そう決心したのだ。
決意も新たに辻馬車にサラとカインと共に乗り込み、目指すのはエスキナの入り口まで。
本当なら王都を出るならば、治安の関係もあるため護衛を連れていき、お店の前まで馬車で移動するべきだ。でもエスキナは王都とは違い店と店の間の道が狭く、馬車で行くには向かない道だという。
それを聞いて初めて、王都の道のように完全に舗装された道路以外の道に出たことがないということに気付いた。お忍びのため公爵家の馬車を使えず、辻馬車を利用していたため王都を出て舗装されていない道に入った瞬間の揺れにお尻が悲鳴を上げる。馬に慣れてるから平気だと思っていたけれど、馬車での揺れは馬とは全然違った。
何とかエスキナの前まで着くと少しふらつきながら馬車を降りる。ここから少し歩くらしいが、流石にそこいらの令嬢とは違って鍛えているため歩くくらいならへっちゃらだ。
「本当に道幅が狭いのね。これは確かに馬車は通れないわ」
「ええ、そうですね。エスキナは主要の道も最低限の幅しかない上に細い路地も多いため、初めて訪れる人は迷子になってしまうそうです。ですからお嬢様、どうか私とサラの傍を離れないでください」
私の言葉に同意しながらカインは注意を促してきた。サラはさりげなく私との距離を詰めて絶対に傍を離れないでくださいと念を押してくる。
…そんな、そこまで言われなくたって迷子になんてなるわけが……
「あったんだなぁ、これが…」
まさかの迷子である。
即堕ち2コマかよ、と突っ込みを自分に入れたくなる。
「サラもカインも、絶対怒ってるわ……どうしよう…ほんとに細い路地がいっぱいね。ちょっと曲がり角を曲がっただけなのに、二人を見失うとか…」
困ったなぁとは思いつつどんどん進んでいく。まあとりあえずここがどこかは分からないが、次に見えた店の店主にでもドルチェ・ヴィータの場所を聞けばいいのだ。そこに向かう道中にでも合流出来れば良いし、会えなくても店で待っていればどちらかは最低でも来てくれるだろう。
歩いていると、ふと女の子の声が聞こえた。声が、というよりもはや叫び声に近いものだと思う。
考えるより先に身体が動いた。狭い路地裏、女の子、悲鳴の三拍子が揃っていれば駆け出さない理由はない。
「…ッやめて、って言ってるじゃない…!!」
近い。今走っている路地の前方右から聞こえる。しかも丁度よく細くてそこそこの強度の角材が道に転がっていた。なんというラッキー。得物が手に入った。
「いやっ…!!近づかないで……だれか…っ!!」
「お願いだ行かないでくれ! ぼくはただ、君とちゃんと話がしたいだけなんだ…!」
今日履いているのが、剣の稽古の時に履いているものと同じくらい踵の低いブーツでよかった。
目的の路地に滑りこむように入りこむと、雨が最近降っていないおかげで土が大げさなくらい舞った。肝心な叫んでいた女の子の姿が見えないのだが、逆に向こうからも私の姿が砂埃が目に入ったせいで見えないらしくゲホゲホと男の咽る声がした。
土煙が少し落ち着いてきた。路地裏には女の子と、それに迫るような形で近くに立って咽ている男がいた。
「何やら揉めているようだけど、何をしているんですか? そこの女性。そう、貴女のことよ…もしかして今、そのゲホゲホやっている男性に襲われでもしていたの?」
格好良く駆けつけたはいいものの、肝心の事実確認がまだだった。
締まりは悪いが、偶然どちらの手も声も止まっているのだからちゃんと何が起きていて、どういった対処が必要なのかを確認しないと、何も聞かずにいきなり駆けつけてきてバコーンと人をぶん殴るだなんて、もし私の勘違いだとしたらはた迷惑極まりない。そういう訳だから、とりあえず話しの出来そうな女の子のほうに訳を聞いてから判断をすることにした。
「…ハッ! あ、そ、そうなんです…! あの、こちらの男性はわたしの働くお店の常連さんで、でも今日たまたまお店のお使いで外に出てたら急にここに引っ張り込まれて、それでいきなり、さっきの男は誰だとかぼく以外の男と話すなとか、いつも見てるのになんでとか言われて怖くなって…!」
私の質問に少しだけ呆けていた様子の女の子が立ち直ると、今だこの状況に立ち直れていない男をささっと避けて私のほうまで駆け寄ってきた。
女の子の話しを聞くにこの男はこの女の子のストーカーで、影ながら常連やりながら女の子をつけまわしていたという事か。…つまりボコっていい対象よね? オッケー私の得物(※そこらへんにあった角材)が唸るぜ!
「ケホッ…ま、待て! 何なんだ貴様こそいきなり現れて! アリスちゃんとぼくは今大事な話をしていたんだ邪魔をする…!うわぁ角材を振り回すな!! 危ないだろう!」
「チッ…やはり狭い路地に長物は不利か…」
「オイ貴様! ぼくに傷を付けたらぼくの家が黙ってないんだぞ! どこの騎士か知らないが、ぼくの祖父は前騎士団長だ! ッひゃあ!」
「その前騎士団長に鍛えられて私の剣の腕は磨かれたのよ。大体前騎士団長のお家って伯爵家じゃない。騎士を輩出することの多い伯爵家の坊ちゃんねぇ…。貴方のその避け方をみるに、一通り剣は仕込まれたけど騎士とは到底言いがたいみたいね。…まあ才能は人それぞれだから騎士道を説くとまでは言わないけど、それがうら若い女の子をストーカーしていい理由にはならないのよ!」
説教をしつつ角材で壁際に追い詰め、壁ドンならぬ角材ドンをする。
顔ぎりぎりに木片をやったため、顔に擦り傷が出来てしまったようだがこのくらいは許されるだろう。
私の迫力に負けたのか、角材が怖かったのか男はへなへなと座り込んだ。
終わったな、そう思い振り返って女の子の無事を確かめる。
女の子は自分の身体の前で両手を組んでおり、祈るかのようなポーズをして立っていた。ポーズは謎だけど怪我もなさそうでよかった…と思っていたら小声で聞こえてきた声に目を瞠る。
…いま、この子は何て言ったんだ。
「…すごい、リズ・バーミルトンがヒロインを助けに来てくれたあのシーンを間近で観ちゃった…!」
まじまじと女の子の姿を確かめると、ピンク色のセミロングの髪がゆるく内側に巻かれていて、蜂蜜のような色をしたぱっちりとした瞳に、興奮からか紅く色づいた頬。服装こそ平民のそれだし、砂埃のせいで少し薄汚れてはいるが、まごうことなき可愛い女の子だった。
ようやくヒロインの登場です!




