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主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第三章 クロ
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第三十八回 黒い少女

(三人そろえば何とやらよ! もっと気合入れて!)

(は、はいっ!)

(……)

 俺とギンは今、フジさんと一緒にシロちゃんに取り憑いていた。

 首輪の制御を気合で解こう作戦の決行中であった。

(取り憑いちゃったんだから! 後には引けないもんっ。やるしかないのよぉ!)

 頭の中でフジさんの涙声が聞こえる。

 過去の魔王に再び取り込まれるのが怖いのか、今までシロちゃんに一向に触ろうとしなかったフジさんが気合見せてシロちゃんに取り憑いたのだ。俺もいつもよりは頑張ろうと努力をしているが……

 目の前で火花が散り、思わず(うわっ)と声が上がる。

 世川・カンダと戦闘中のシロちゃんに乗り移っているのだ。思わずびびって集中なんてできない。

 大きなため息の後、低い声が頭に響いた。

(そもそも、この小娘を操る術式は首輪に彫られたものだろう? 生き物の呪文による魔法ならまだしも、鉄に彫り込まれた術式を気合で曲げられるのか)

 ギンに痛いところを突かれたのか、声が詰まるフジさん。

(……だって、他にできること、無いじゃない!)

 結局、いてもたってもいられなかったフジさんはこの作戦をノープランで実行したらしい。

 何だかフジさんに親近感が湧いてきて、気が緩みそうになるが、頬をかすめる世川の攻撃に無理やり意識を戻された。

 2対1でもっと不利になるかと思っていたが、今のところ互角にやり合っている。ユヅキが手を貸してくれているようで、幻影と戦っているのか世川やカンダの空振りや無駄な跳躍が目立つ。

「ユヅキ、本当にミイラになるまで私を待っていたなんて……やっぱり、早くユヅキと話して彼を止めないと」

 フジさんが気合を入れなおした時だった。

 サクラギのブーストがかかった世川が目にもとまらぬ怒涛の攻撃で俺たち(シロちゃん)を抑え込んだ瞬間、カンダが床をめがけて巨大なハンマーを振り抜いた。

「そらぁぁぁぁぁああ!」

 掛け声と同時にものすごい衝撃が部屋に走る。

 そして一拍間をおいて轟音とともに床が崩壊し始めた。

 俺たち(シロちゃん)は咄嗟のことに判断できず、石畳の瓦礫と共に落下した。


 思わず目を瞑っていた俺は体の浮遊感が収まり、目を開けるが、あたりは真っ暗で何も見えない。

(とりあえず、抜けるぞ)とギンとフジさんに声をかけ、シロちゃんから抜け出る。

 2mほど真っ暗な中を浮上すると瓦礫の上に出た。

 辺りは粉塵が舞ってよく見えないが、カンダの攻撃で床が抜けて下の部屋に落ちたらしい。

「うわ、シロちゃんが生き埋めになってる……早く助けねぇと!」

 咄嗟に瓦礫に手を伸ばそうとして、自分の手も無ければ、仮にあったとしてもすり抜けて意味がないことを思い出した。

 幽霊ってほんと使えねぇな、とため息を吐いていると、フジさんの切羽詰まった声が鼓膜を貫いた。

「待って! まだ殺さないで!」

 フジさんが手を伸ばす先にはユヅキに切りかかる世川が見えた。

「あ、世川早まるな!」

 俺も咄嗟に叫ぶが世川に届きはしない。うわぁ、南無三! と心の中で唱えたとき、背後で瓦礫をかち割るような鈍い音が聞こえた。驚き振り向く間もなく、ものすごい勢いで体が引っ張られ、気が付いたときにはユヅキと世川の間に飛び出していた。世川の短剣からユヅキをかばうように両腕を広げるシロちゃんが見えた。

「シロちゃ――」

 急に出てきたシロちゃんを躱すことができず、世川は短剣をそのまま振り抜いた。


 土埃が上がる薄暗い空間にシロちゃんの白い髪が舞った。瓦礫の上に倒れたシロちゃんを後から落ちてくる白い髪が覆う。思わず短剣を落とし、後ずさった世川とは対照に、ユヅキが今にも砕けそうな体を動かしシロちゃんを起こした。ゆっくりと目を瞬かせたシロちゃんの首から赤いリボンと一緒に武骨な首輪が落ち、静寂をかき鳴らした。


 となりにいたフジさんが俺の止める間もなくシロちゃんに憑依した。

「シロちゃん無事でよかったけど、フジさんは大丈夫かな。過去の魔王に飲み込まれるんじゃ……」

「ふん、放っておけ」とギンがよそを向いた。

 フジさん(シロちゃん)がユヅキの干からびた頬に手を当て、「ユヅキ」と優しく呼びかける。いきなりのクライマックス感に戸惑いつつも、ラストの拍手をどうするかで頭を悩ませているとギンが小突いてきた。

「なんだよ。今なんかいい感じになってるのに」

 ギンに視線を送ると、ギンは部屋の奥から目を逸らさず口を開いた。

「いるぞ。お前が探していた死霊ではないのか」

 ギンの視線の先を見ると、薄暗い部屋の奥に黒くてうごうごした塊が見えた。

「あ、あれ! もしかして……」

 慌てて近寄ろうとして、シロちゃんから3mほど離れたところで稼働限界範囲に達する。

 俺が見つめる中、黒い塊から一本一本黒い華奢な腕がほどけてゆく。

「クロ――」

 沢山の黒い腕の中から現れたのは、磁器の様な白い肌に、濡羽色の髪、こちらが吸い込まれそうな底の見えない瞳の少女であった。

「――ちゃん?」


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