第三十七回 勇者との闘い、再び
十九回のサブタイにも『勇者との闘い』ってつけちゃってて困った
シロちゃんと世川が激闘を始めてしまったので、シロちゃんから出て観戦することにした。
乗っ取ってるのに体が動かせないし、もしかしたら抜け出ることもできないんじゃないかと焦ったがそんなことは無かったようだ。
「何でシロちゃんを動かせなくなったんだろ」
魔法を無効化できる聖剣を持ったシロちゃんに世川は決定打が出せず、もっぱら剣での応戦が続く中、俺が呟くとギンが喋った。
「体は動かせずとも乗り移ってはいた……あの娘の意思は常と変わりなく、体だけが勝手に動いている、のだろう。あの首輪から感じていた魔力とあの死にぞこないの魔力は同じものだ。あやつが小娘の体を首輪で操っていると考えるのが妥当なところか」
「じゃあ、あの首輪もしくはミイラをぶっ殺せばシロちゃんは解放されるのか!」
ギンの考察で希望が見えた俺は「さっそく伝えねぇと!」と気合を入れて体を浮かすが、その手段がないことに気が付く。
「あぁ、乗り移れはしても体を動かせないんじゃ、喋れねぇよな……」
世川には死んでほしくないけど、シロちゃんが死ぬのも困るし……、と戦いの行方を傍観してると後ろから声が聞こえてきた。
「君達! よかった、お願いがあるのだけど」
振り返ると懐かしのフジさんがいた。
「あ、フジさん。元気してた?」
俺が言い切る前にフジさんが言葉をかぶせてくる。
「ユヅキを止めたいの。彼、勘違いをしてるわ。私が直接話したい! だから、あの娘に乗り移るのを手伝ってほしいの」
「……つまり、俺にシロちゃんとフジさんのつなぎ役になれと?」
「えぇ、話が早くて助かるわ。独眼がやってるようにあなたを介して乗り移れば、過去の魔王から影響は受けず、正気を保てるはず。今すぐお願いしたいのだけれど」
そう言ってフジさんは俺を見てくるが、俺はシロちゃんとミイラに視線を移した。
「けど、今は無理だぞ。あのミイラがシロちゃんを外から操ってて、俺らが取り憑いても動かせそうにない」
「そんな! そのミイラってどこにいるの! 何とかしなくちゃ」
フジさんの返答に首をかしげつつミイラを指さす。
「え、あそこだよ。あのでかいイスに座ってる。干からびたやつ」
フジさんは俺の指さす方向と俺を見比べながら目を丸くしている。
「え、ミイラ? あれはユヅキだけど……?」
「え、ユヅキって現魔王の?」
俺とフジさんが顔を見合わせているとギンが口を開いた。
「あの死にぞこない、かなりの術者だろう。自身の姿を偽る魔法をかけているのはないか」
ギンの言葉にフジさんが口に手を当てる。
「……そうよ。ユヅキは勇者の時から幻術や精神攻撃を得意としていたわ。ここに入った時にかけられた術は破ったと思っていたけど、まだ術中にいたなんて」
フジさんが自己解決してしまい、自分が置いて行かれそうになるのを感じたため、慌てて解説を求める。
「す、すみません。つまり、あのミイラがユヅキっていう現魔王で、皆に幻術をかけてる、っていうこと?」
俺の問いにフジさんが頷く。
「えぇ、ユヅキは二重に幻術をかけていたの。まずこの部屋に入った瞬間に発動する、戦闘意欲を削ぐような幻術。自分が一番幸せを感じていた時を見せる……これはかなり強力な術で、術強度もそうだけど、何より幻術だと気づいても術から抜け出したくないと本人が思ってしまうところ。無理に術を解くと最悪、精神が崩壊して命を落としてしまうほどの」
「うわ、こわっ! 元勇者のくせにえげつない!」
俺の反応にフジさんが少し困ったような顔をした。
「……そう感じてしまうでしょうね。でも、ユヅキは血を見るのが苦手な人だったから、こういう手段を取らざるを得なかったのよ。勇者って魔王を倒さなければならない者だから」
「そ、そうか。なんか誤解してすまん」
「いいの。……話を戻すわ。今言ったような強力な幻術をかけていたから、他の術はもうかかってないと思い込んでいたようね。君にはユヅキがミイラに見えるのよね。相変わらず、精神攻撃には強い、というか認識すらできないみたいね。……術にかかっている私には勇者だった頃より少し大人びた、青年くらいのユヅキが見えてる」
そう言いながらミイラもといユヅキを見るフジさんの目は少し潤んでいるようだった。
フジさんの話を聞いたおかげで、世川がミイラに向かって素振りしていた意味が分かった。
(たぶん世川も幻術の青年ユヅキと戦っていたんだろうな)
あいつ何やってんの、とか思ってごめんという意思を込めて、世川に視線を送る。
世川はシロちゃんの全身から出る刀身の圧倒的手数に押され、後方にぶっ飛んでいくところだった。
「うわ、世川大丈夫かな」
飛んで行った世川はカンダにキャッチされ、サクラギに回復魔法をかけられている。
カンダもサクラギも世川と同じように額に文字が浮かび上がっているのが見えた。
「あの文字、イーサンの精神支配呪ね。ユヅキの幻術の上書をするなんて……無茶なことするわ。でも、さすがね」
となりでフジさんが感心していた。
(よくわからんが、イーサンって本当にすごいやつなんだな)
適当な感想を抱きながら世川たちを見ていると、サクラギに何かの魔法をかけられた世川とカンダが俺たち(シロちゃんとユヅキ)目がけて走り出してきた。
さっきとは比べ物にならないほどのスピードが出ており、2人の通った後の床がえぐれている。
「サクラギさんの強化魔法!? まずいわ。この娘一人ではかなり分が悪い。あぁ、呑気に君と話してる場合じゃなかった! この状況をどうにかしないと」
慌てるフジさんの隣で俺は右腕を頭の後ろに組み、後ろにいたギンのモフ毛に寄りかかるために体を倒す。
「何とかしたいけど、俺たちもう死んじゃってるからなぁ……あっ」
ギンに素早く避けられた俺はそのまま空中で後転を決めた。
今日はあともう一話上げます。




