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主人公は蚊帳の外で、  作者: 鶴次
第三章 クロ
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第三十六回 合流

 転移魔法の強烈な光が収まり、戻りつつある視界の中でシロちゃんが顔面から着地しているのが見えた。シロちゃんは両手をついて体を起こし、頭をふるふると振っている。どうやら無事なようだ。

 辺りを見渡すとさっきより一回り小さい部屋に転移していることに気が付いた。石畳の床に、この魔王城で見慣れたパイプと溝が天井と壁を走り、部屋の奥のある一点に収束している。その収束点には沢山のパイプが繋がれた禍々しい椅子が設置してある。そこにはミイラとゾンビを足して二で割ったような、とてもではないが生きた人間には見えないものが座っている。

「どこだ、ここ……」

 俺のつぶやきに被せるように誰かのうめき声が聞こえてきた。

 声の方に顔を向けると、片膝を立て、苦しそうに胸を抑えるイーサンがいた。

「お、イーサン。大丈夫、じゃあないな……」

 イケてる面を歪ませ歯を食いしばるイーサンは、俺たちが転移してきたことにすら気が付いていないようだ。

「どうした? 腹でも痛いのか」

 心配して少し近寄ると、イーサンの奥に、肩で息をしながらゆっくりと立ち上がる世川が見えた。イーサンの方に顔を向けた世川の額には、不気味な文字が写っている。

「イーサンさん、ありがとうございます。魔王は絶対、仕留めます」

 いつもの短剣を構え、世川は部屋の奥に向かって走り出した。

「え、魔王? もうクライマックスなの? 俺たちが来る前に何があった!?」

 俺が展開についていけず、おろおろしているとシロちゃんの後ろの方から声が聞こえた。

「ぐっ、頭が、いたい。こ、ここは……?」

 振り返ると頭を押さえながら起き上がるサクラギとカンダがいた。

「あれ、私たち、魔王城にいたはずよね? どうして、ここ学校……?」

 焦点の合わない目でサクラギとカンダがあたりを見渡している。

「え、こいつら大丈夫? どう見ても魔王城だよ、ここ。幻術とかにかかってんのか?」

 俺がサクラギの顔の前で手を振っているとギンが話しかけてきた。

「どうやらそのようだぞ。我にもここが我が故郷に見える。伴侶の姿まで……」そう言うギンの視線は部屋の奥のイスに座るミイラみたいなやつに注がれている。薄暗い中目を凝らすと、そのミイラかゾンビか分からないやつに剣を振り続けている世川が見えた。

(あれ? あいつ、魔王倒しに行くって言ってたよな? 何やってんだろ……)

 ミイラに向かって鬼気迫る素振りをしている世川はとりあえず放っておいて、ギンに向き直る。

「俺にはここが普通の魔王城にしか見えないけど? ……なんか俺、はぶられてばっかだな」

 ギンはフンと鼻を鳴らし答えた。

「他人に魂を踏み荒らされる方が良いか? 代われるものなら代わってやりたいぐらいだ」

 ギンは幻術で触れられたくないところに触れられているのだろう。とても機嫌が悪い。

「この不快な術をかけているのはおそらく奴だ。我が殺してやる」

 ミイラの方を睨んでいたギンは俺の襟首を咥えるとシロちゃんへと放り投げた。

 咄嗟にシロちゃんに乗り移ると、後からギンも入ってくる。

 ギンはシロちゃんの首をコキコキと鳴らすと、ミイラの方を見て少し驚いた声を上げる。

「これほどの術をかける奴がこんな死にぞこないだったとは……」

 ギン(シロちゃん)は狼の時の様に四つん這いになると、舌で口の端を舐めた。

「我を、我が伴侶を愚弄したこと、後悔させてやる」

 言葉を紡ぎ終わる前にギン(シロちゃん)は四肢で冷たい床を蹴って走り出す。

 30mはあった距離を一瞬で詰め、世川の横を通り過ぎ、ミイラの前に躍り出た。

 驚く世川を横目にギン(シロちゃん)は腕を振りかぶる。即座にシロちゃんの華奢な腕を泥が覆い、鋭い爪のついた黒いガントレットが生成された。

「散れ」

 躊躇なく振り下ろされる腕を見て今回もワンパンか、と軽い気持ちでいると、突然うなじに激痛が走り、体の動きが止まった。

「ぐっ、なんだこれはっ!? 何をした!」

 ミイラの首をかき切る直前で止まった腕を見てギンが俺に怒鳴る。

「し、知らねぇよ! 俺にお前を止められるわけねぇだろ!」

 俺がギンに怒鳴り返していると、うなじを刺すような痛みが急に消えた。何かに拘束されていた体から力が抜け、ミイラの足元に倒れ伏す。俺1人だったら顔面を強打していただろうが、ギンが咄嗟に手をついたおかげで何とか体勢が保てた。

「いったい何が」

 顔を上げようとする俺(シロちゃん)にミイラの影がかかった。シロちゃんの首についている首輪にミイラのかさついた指が触れる。

(う、動いた!)驚きのあまり声が出せない俺とは違い、ギンがミイラの腕を振り払おうとするのが分かった。しかし、実際にシロちゃんの腕が動くことはなかった。

(……これは、おい、お前。この娘の体を動かせるか)

 ギンの問いに答えようとして声が出ないことに気が付いた。

(……動かせない。あれ? 乗り移ってるのに、何でだ?)

 困惑している俺をよそに、シロちゃんの体は勝手に立ち上がる。

 眼球だけは動かせるようで、すぐそばの仰々しいイスにふんぞり返っているミイラを睨んだ。

(くそぉ、こいつか? こいつが首輪に触ってから、シロちゃんの体が動かせなくなったし、こいつのせいだよな!)

 俺の視線は意に介さず、ミイラは口元を動かしながら干からびた指をさした。

 シロちゃんはミイラが指した世川へと体を向ける。

 世川が悲しそうな表情で短剣をこちらに向けて構えた。

「君が魔王の側に着くなら、僕は君を倒さなくちゃいけない。許してくれとは言わない。ここはそういう世界だと分かったから。……だけど、だから、僕が魔王を倒してこの世界を変える!」


 あれ、なんで俺(シロちゃん)と世川が戦うことになったの?


魔王城とか魔王といった単語が出てきているので察している方は多いと思いますが、この三章が最終章になります。と言っても、まだ一万文字以上は続きますので、最後までお付き合いしていただけると嬉しいです。

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