転⑪
⑪蘭世 何よ 頼む あの連中を 見逃してくれないか ハチクマの息子は お前やオレとは 関係無い 貴方には関係無くても アタシにはあるの 何故 元々は ハチクマの息子と近づく為に 店を出したの 何だと ゆくゆくは 上京や難波にも店を出す為よ 贔屓筋はいくらあっても構わないわ あの手この手で ようやく手なづけたというのに 玄徳はハチクマの息子と目を合わせた ハチクマの息子は どうやら違うと 言っていた ともかく この場は 自分と蘭世とで 差しで 二人きりで 話したい まだまだ コレからくる連中だっているだろうし このままだと お互いに困るだろ この状況は 蘭世はまた 首を傾げた そうね せっかくハチクマの息子とお近づきになれるチャンスだったのに 残念だわ フランク アンタって ホントに厄介 疫病神ね いいわ ハチクマの息子は外に出してあげる 悪い 恩に着る おい 蘭世がOKした 重ね重ね悪いが 店を出てくれないか 二人っきりで話がしたい 自分からも頼む さりげなくハチクマの息子と目を合わせる 分かった 玄徳 後は任せた おい 自分らは 外に出るぞ 連中が引き上げていく 例のボーイが慇懃無礼に見送りに立った ソレを見届けると フランクはまたどっかりと腰を降ろした 蘭世は とみると 膝のタイツに コレット銃を格納したところだった 先ほどは目にも止まらない早業だった 扱い慣れている あまりいい気はしなかった 濱崎でも良からぬことをしていなければいいが 蘭世も座ったらどうだ いいや アタシはコレで結構 放っといて 立ちっぱなしだった 勢い 蘭世を上目遣いで見ることになる いつの間にか先程のボーイが片手で盆に何やら得体の知れない飲み物を運んできていた 横目でソレを見ながら アペリティフ 食前酒よ カップサイズはアタシと同じ 有り難く頂戴しなさい 最期の晩餐ね 乾杯といきますか 毒杯か 蘭世は 少しビクッとしながら いいカンね さぁ ソレを仰いで 死んでお仕舞い イヤだね ソレならまだ 銃で撃ち殺された方が マシだ 自分にも銃をくれないか タイマンで勝負しようぜ 早撃ちのJJに競り負けた 貴方には ムリだわ JJ仕込みのアタシに勝てるかしら 何だって JJの仕込みだって そうよ JJ仕込み じゃあ 今頃気づいた そうよ アタシは 元々JJのスケよ まずい具合に喉がカラカラに渇き始めていた しまった 何から何まで 蘭世の思う壺じゃないか 次第次第に袋小路に追い込まれている自分を感じていた なら JJを追い込む必要なんて無いじゃないか 何故だ そのまんまで ハマで 上海バンド街で 勝ちを占められたじゃないか ヒトは刈り込み時期があるわ JJはあの時が最期 クロコッチはクロコッチの フランクはフランクの 刈り込み時がね なんで 蘭世にそんな事がわかる わかるわよ わかるからアタシは 蘭世なの そんな理屈が あるわよ ナンバーワンにはナンバーワンなりの オンリーワンじゃ ダメなのか オンリーワン 蘭世は蘭世なりの 春海や芽唯にも それなりの 何よソレ ソレが何の役に立つの いいこと 世の中はナンバーワンでなけりゃ収まらないの ナンバーワンでなけりゃ 何にも決められないのよ だから アタシは ナンバーワンになるしかなかったの わかる まぁ 貴方にはわからないかもね 先ほどから何やら黒い霧のようなものが 蘭世を取り巻いていた 貴方は嫌われ者 JJの店でも 皆んなから嫌われていたわ そんなはずは いいえ 貴方は店の控室で 平気で 女の子たちの品定めを大声でく喋っていた わかる 番台に立った芽唯は何度も鉛筆の芯を折っていたわ 顔に微笑みを貼り付けながらね アタシはそんな芽唯を見ながらとてもコワかったわ なのに 貴方は何も気づこうとはしなかった なら何だって誰も注意しない 注意してくれたら 直していたかも かもよ かも知れないなら誰も注意なんかしないわよ そんな事は 自分で気づくものなの 春海だってそう あの人の事だから 表立っては何も言わないけど 曖昧に あのヒトはまぁ ああだからってね 春海も貴方の事嫌ってたわね 喋り疲れたからか 蘭世はアペリティフを一気に飲み干した 途端に倒れた 何が起こったか 直ぐにはわからなかった 蘭世 おい 蘭世 どうした 何が起こった 阿呆みたいに 繰り返し 声がリフレインするだけだった 先ほどのボーイが 介抱しようとしてか蘭世を抱き起こしていたが 玄徳を見るなり 首を振った まさか 死んだ 暫く ぼんやりと眺めていたが 突然 立ち上がって おい お前 わざとだろ お前わざと 自分と蘭世のカップを入れ替えただろ ボーイが無言のまま玄徳を見上げた ソレはどうやら肯定の印だった 何故だ お前もか お前も 蘭世が 声を呑み込んだ ボーイは 暫くそのまま佇んでいたが やがて立ち上がり 一礼して立ち去ろうとした その後姿に 玄徳は おい サツを ポリスを呼んで来てくれ 呼びかけると ボーイは型通り立ち止まり 肩で振り返ると一礼し そのまま立ち去っていった




