第44話:試練の瀑布! 第三の使徒、武神の『ガチンコ勝負』とルルの覚醒
天界の第三の丘、『断罪の瀑布』。
そこは、天から地へと流れるのではなく、地上から天へと水が逆流し続ける巨大な滝がそびえ立つ、荘厳な試練の場だった。
「……ほう。重力に逆らう水の流れか。天界の連中にしては、少しは骨のある結界を用意したようだな」
ルシファー様が、逆巻く水飛沫を指先ではじきながら不敵に笑う。
「……おじちゃん。あそこに、誰か座ってる」
パンドラが指差す先。激しく逆流する滝の頂点に、ただ一人、巨大な大剣を膝に置いて座る男がいた。
天界十二使徒・第三の騎士、武神マルドゥーク。
彼は鎧を纏わず、鍛え上げられた上半身を晒し、ただ静かに眼下の侵入者たちを見下ろしていた。
「……来たか。厄災の器と、その守護者たちよ」
武神が立ち上がると、その圧力だけで逆流していた水が真っ二つに割れた。
「ルシファー、そして東方の古き神(上皇)。貴殿らと戦えばこの丘は消滅する。……我の望みは、破壊ではない。……其処な、影を食らう幼子よ。貴殿の『覚悟』を検分させてもらおう」
武神が大剣を地面に突き立てると、パンドラとルルを囲むように不可視の壁が出現した。
「ルルちゃんを離して!」
「案ずるな、少女よ。我は貴殿には触れぬ。……だが、影の子よ。貴殿が『姉』を守る楯として相応しくないならば、この試練、一歩も先へは通さぬ」
『……ルルに、喧嘩……売ってる? ……お空の人、パパじゃないから……食べていい?』
ルルが、いつもより一段低い声で呟く。
「ルルちゃん、ダメだよ! 相手はすっごく強そう……!」
「ルシファー、手を出してはならぬ。これは、あの幼子が自らの殻を破るための通過儀礼じゃ」
上皇様が、珍しく真剣な表情でルシファー様の肩を制する。
「……チッ。気に入らんが、あやつ(管理人)がいない今、ルルが成長せねばこの先は厳しいのも事実か」
戦闘は、武神の神速の一撃から始まった。
ガギィィィィィィィンッ!!!
武神の大剣が、ルルが咄嗟に出した影の腕と激突する。
だが、武神の剣には『概念切断』の加護が宿っていた。ルルの「影」が、まるで豆腐のように切り裂かれる。
『……痛い。……切られたの、初めて』
「影とは実体の裏返しに過ぎぬ。真の無を識らぬ影など、我が武の前では無力!」
武神の猛攻が続く。ルルは何度も影を破壊され、パンドラを背負ったまま滝の壁際に追い詰められていく。
「ルルちゃん! もういいよ、私が……私の『箱』で何とかするから!」
『……ダメ。……パパ、言った。……お姉ちゃんは、ルルが守るって。……お姉ちゃんに、汗、かかせないって』
その瞬間、ルルの周囲から色が消えた。
彼女が抱え続けていた「空腹」が、パンドラを守りたいという「渇望」と混ざり合い、深淵の底に眠っていた真の姿を呼び覚ます。
覚醒:虚無を啜る者
『……お空の人。……教えてあげる。……影の、もっと奥。……パパが、名付けた……ルルの、本当の、名前』
ルルの小さな体が、ドロリとした漆黒の液体へと溶け落ちる。
そして次の瞬間、瀑布のすべてを飲み込むほど巨大な、「数千の眼を持つ虚無の顎」が顕現した。
「な……っ!? これが、深淵の幼生の『成体』だというのか……!」
武神の渾身の一撃を、ルルはその「顎」で正面から受け止めた。
いや、受け止めたのではない。剣が触れた瞬間に、剣を構成する魔力と質量、そして『武神の攻撃』という概念そのものを食い尽くしたのだ。
『……ごちそうさま。……次は、あんたの、右腕……食べていい?』
ルルの無数の眼が、一斉に武神をロックオンする。
天界の守護者である武神が、初めて「捕食される側」としての本能的な恐怖に戦慄した。
「――そこまでだ!!」
武神は剣を引き、深々と頭を下げた。
「……見事。影ではなく、真の『無』。……貴殿こそが、厄災の器を支える世界最強の楯だ。……通るがよい。我の武は、既に貴殿の胃袋の中にある」
ルルは元の幼女の姿に戻ると、フラフラとパンドラの元へ歩み寄り、その膝に顔を埋めた。
『……お姉ちゃん。……がんばった。……褒めて』
「ルルちゃん! すごい、すごかったよ! 怖かったけど、カッコよかった!」
パンドラがルルを強く抱きしめると、ルルは満足そうに「ふふん」と鼻を鳴らした。
【ログ:天界第三の丘を突破。武神マルドゥークが戦意喪失(および武器を完食される)。】
【獲得ポイント:+80,000,000P(誇り高き武神が味わった『自分の存在がただの糧にされるという生物的絶望』より)】
【ルルのステータス:スキル『深淵の真姿』を習得。】
【管理者コメント(自動返信):ルル……よく頑張ったね。パパ、モニター越しに見ていてちょっと怖かったけど、パンドラを守ってくれてありがとう。……お礼に、帰ったら『最高級魔石のフルコース』を作ってあげるからね】
「パパ、見ててくれたんだね! よーし、この調子でどんどん進むよ!」
パパの言葉を支えに、姉妹の絆は天界の理さえも飲み込みながら、さらなる高みへと駆け上がる。
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