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かくして秋雨は降る  作者: 霜月風炉
第三章
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第64話

 ――時は少し遡る。

 会場でちょうど会談が始まってであろう時、控室で律と雪が椅子に座って息を吐いていた。


「一先ずは無事始まったな」


 律は天井を仰ぎながら、いろんな意味で問題となるであろう会談に直接参加しなくて良かったことをしみじみと噛み締める。

 そんな様子を見ていた雪はクスクスと笑う。


「参加しなくて良かったって顔に出ているよ」

「そりゃあ、そうだろ。玲香さんがいるだけでも胃が痛いのに、各国の政府関係者を始め、それ以外の強者が集っているんだ。進んで参加しようなんて思わないよ。そういう意味じゃ、秋雨は凄いよな」


 年齢もそう変わらない秋雨のことを、律は心底感心していた。

 勿論、秋雨の身に起こった出来事はある程度把握しており、そんな状況でも神水守家の当主として振舞う姿には尊敬の念を覚えるほどだ。

 同時に責任感に潰されないか心配になってしまうのだが……。


「そうだね。秋雨君は凄いよね。だけど、心配にはなるけどね」

「それには全面的に同意だな。ま、俺も阿蘇の件から秋雨ほどじゃないけど強くなったはずだ。隣に立てるような存在になりたいよな」

 

 九十九と呼ばれる頂点捕食者との因縁。

 阿蘇の際は一方的な邂逅となったが、何故か自身に執着していることから再び相まみえることになるだろう――と、律は思っていた。


「俺の身に宿っている不死の力もよくわからないしなぁ」


 九十九に一度殺された掛けた際に発現した不死の力。

 きっとこの力を九十九は知っていたのだろう。

 また、雪のことを『はじまりの魔女(シネンシス)』と呼んでいたことも謎としてある。

 魔女――と言えば、律にとって最も身近な者はエリスティマなどの魔女会に所属している者たちだ。

 しかし、どうもそれとは異なることは、直感として律は断定していた。

 恐らく、律が知るような存在とは別の概念の意があるのだろう。


「私がはじまりの魔女(シネンシス)と呼ばれている理由もわからないんだよね。知っての通り、魔法なんて使えないしね」

「手掛かりもない以上、慌てても仕方ない。とは言っても、スッキリはしないよな」


 眉間に皺を寄せながら、律は腕を組んで唸る。

 知らぬうちに何か大きな渦に巻き込まれ、飲まれているような気が律はしていた。

 その発端は間違いなく九十九。

 九十九は一方的に律のことを知っていたようだが、律は九十九のことを知らない。

 そして、何よりも律は九十九とは妙なシンパシーを感じていた。

 理由はわからない。

 だが、きっと何かしらの意味はあるのだろう――と、律は考えていた。


「とにかく今後の流れは今回の会談次第かな?」


 雪はそう言うと手を組んで大きく背伸びをする。

 律も「そうだな」と頷いた時だった。


「「ッ――――⁉」」

 

 強烈な威圧が降り注ぐ。

 律と雪はバッと立ち上がると、即座に周囲を警戒する。


「この威圧……似たようなものに覚えがあるな」

「そうだね。恐らくは――頂点捕食者」


 二人の意見が合致した。

 そして、その威圧の発生源も直ぐに理解した。


「会談の行われている部屋だ」

「律、急ぐよ」


 あそこには強者が集っていることもあり、滅多のことはないだろう。

 だが、気づいた以上は向かわない理由がない。

 二人が一歩を踏み出そうとした時、背後から言葉が投げかけられた。


「お前たちの相手は私だ」

「姉さん⁉」


 律は雪を突き飛ばし、腰に差していた刀を引き抜く。

 ガキンという音が響き渡る。


「お前は!」

「阿蘇以来となるか、桜目律」


 雪へと斬りかかってきたのは九十九だった。

 その攻撃を律は受け止め、睨みを利かせる。


「不意打ちとはいただけないな!」

「ふん、私の知る桜目律ならば、難なく対応できると確信していたまでだ」

「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ!」


 渾身の力を持って律は九十九を突き飛ばす。

 九十九はトントンと数歩後ろへ跳んで、律と雪を観察するように視線を向ける。


「ありがとう、律。助かったよ」

「突き飛ばして悪かったよ、姉さん。だけど、今は――」

「うん、無駄口は叩けないね」


 雪も小刀を抜き、構える。


「相手は頂点捕食者。今はとにかく俺たち二人で相手をするしかない」

「うん。バックアップは任せて」


 律と雪は九十九を真っ直ぐ見据えながら戦う意志を固める。

 その様子を見た九十九は「ふん」と鼻で笑う。

 そして、告げる。


「桜目律。桜目雪。その実力を私に見せてみると良い」

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