第27話
「ところでクルセイダーは何で日本に来てるんだ?」
ある程度の質疑応答が終わった時、思い出しかのように秋雨がエリスティマに問う。
海外も別の問題で大変なことは秋雨も知るところではあるのだが、そんな中でわざわざ来日するのも何かしらの理由があるはずだ。
そんな問いに対して、エリスティマは答える。
「あー、マーリンの指示で九十九って奴を追って来たのよ」
「九十九?」
秋雨は首を傾げる。
マーリンの指示であれば、それなりに重要であることは理解できた。
しかし、その九十九と呼ばれる人物については、秋雨に心当たりがなかった。
「その九十九って誰なんだ?」
話を聞いていた奏多が問う。
すると、エリスティマは少し考えて答える。
「魔女会の聖剣使いを半殺しにした何処かの頂点捕食者よ」
「ちょっと待て、クルセイダー。その九十九って奴が頂点捕食者なのもアレだが、アルトリウスが半殺しにされたのか?」
「そうよ。だから言ったじゃないマーリンと看病したいだけだって」
なるほど、そう言うことか――秋雨は半ば呆れつつも納得する。
マーリンによるアルトリウスの寵愛ぶりは傍から見ても凄まじい限りだが、愛されている側もまんざらではなさそうなのを秋雨は知っているので、無問題なのかもしれない。
「……流石に変じゃないかな?」
孝也が難しい顔をして口を開いた。
それについては秋雨も同意の意を示す。
この短期間で他世界、或いは惑星の頂点捕食者が集まり過ぎている。
封印されているルクシャ・ハーナについては今更ではあるが、アンネリーゼ、アレクシス、更に九十九となるとあまりにも異常だ。
「クルセイダー、その九十九って奴は何が目的なんだ?」
「……人類という種の生命体としての強度を一段上げるため。そして、来るべき脅威に対抗する為なんて戯言を吐いていたわね」
エリスティマの言葉の前半についてはアンネリーゼやアレクシスの思想と合致する。だが、後半の『来るべき脅威』については初耳だった。
「私たちにとっては頂点捕食者自体が脅威でしかないんだけど?」
志乃が真顔で言う。
それに対し、対峙した奏多と孝也も深く頷いている。
「頂点捕食者とは、奏多君たちが同意するほどなんですね」
「正直アレには私たちだけじゃ絶対に勝てないですよ、東雲先生」
志乃が力強く断言する。
「アンネリーゼに勝てたのは、神木守さんが権能を抑えたことと玉水の力があったからこそ。俺たちだけじゃ、確実に殺されていたと思う」
異世界帰還者の中で最高の実力を有する奏多の言葉。
それだけで頂点捕食者の異常性が全員に伝わる。
「アルトリウスは九十九に挑んで半殺しにされたのか?」
「まあ、九十九って奴自身がアルトリウスの実力を試したかったみたい。まあ、最後は『見込み違いだったか』って吐き捨てるように言っていたけどね」
「……その口ぶりからだと実力者を探しているみたいだな」
「みたいね。ちなみにアタシに対しては『魔力放出するだけのゴリラか』って鼻で笑われたわ。クソ、思い出すとイラついたきたんだけど⁉」
正直、九十九の認識は合っている――と秋雨は思う。
「……となると、その九十九は日本に実力者を探しに来た可能性があるのか」
「そういうこと。で、日本の実力者となれば五行神家の当主。或いはそれに連なる術者に絞られたわけよ。そこでアルトリウスを半殺しにされてブチ切れたマーリンが『絶対に探し出して、潰せ』って御達しをアタシが受けたってわけよ」
恐らく九十九の目論見などはどうでも良くて、単純に寵愛対象のアルトリウスが半殺しにされて怒っているだけ。
少なくとも秋雨は確信した。
「……マーリンは乗り込んでこないんだな」
「だから、今は看病で忙しいのよ」
溜め息交じりに言うエリスティマは遠い目をする。
「となれば、頂点捕食者に遭遇した場合の対応策を考える必要がありますね」
リファが顎に手を当てながら言う。
頂点捕食者との間に隔絶した差がある以上、少なくとも異世界帰還者が単身で相手にできる存在ではない。
単身で相手をした場合、形を度外視にすれば生き残れる可能性があるのは奏多だけだろう。
「逃げれるなら遮二無二に逃げるべきだろう。話を聞く限り、自分たちが数人集まったところで対抗できるとも思えないな」
ノヴァクが難しい顔をする。
「極力単独行動は控えるべきでしょうね。仮に一人になった場合は警戒を怠らないように注意するべきでしょう」
「リファの言う通りだな。自分たちの身は自分たちで守るとしよう」
奏多が全員へ向かって言った。
「玉水は……心配不要だな」
「大丈夫よ、勇者君。シューウには最強の保護者がいるしね」
エリスティマの言う保護者とは玲香のことである。
確かに最強の保護者ではある。
「……クルセイダー、お前後で泣かす」
「はぁ? やれるもんならやってみさないよ」
そのあとは秋雨とエリスティマの罵詈雑言合戦が始める。
そんな光景を見た奏多たち異世界帰還者たちは思うのだった。
へえ、玉水って結構喋るんだな――と。




