第9話「攻撃の中心」
基本練習も終わり、
ミニゲームを開始する。
「さっきのA組とB組に分かれてミニゲームを行う。
基本練習のポイントを自分なりに解釈してプレーで表現してくれ」
簡潔に言い、スタートさせる。
ここで俺が見たいのは、理解力と実行力の度合いとバランスだ。
言われたことをどれぐらいできるのか、理解できているかと
さらに自分の長所や短所との兼ね合いのバランスを見てみたい。
試合が開始して、3分。
ゲーム展開は、A組がボールスキルがB組より高いため、ポゼッション率が圧倒的だ。
ただ、まだ連携ができていないため効果的ではない。
それに比べB組は、宮本を中心に体を張って対応することに集中できるし
前チームのスタイルに似た展開になっているのでやりやすそうだ。
たぶん、今までであればA組のミスからB組がカウンターで点を取る展開になるだろう。
それがベスト16になれた得意な展開であるからだ。
でも今回はそうならないはずだ。
もうそろそろ均衡がくずれるだろう。
「佐藤」
柏木がCBの位置から縦パスを入れる。
後ろ向きで受けようとする佐藤に宮本がしっかりと寄せていく。
「ここで奪ってカウンターだ!」
そう叫ぶ宮本だが
「右足側にボールが来たか。ってことは左側からDFが来るんだな。」
それならと空いているはずの右側を一瞬首を振ることで確認。
そしてすばやくトラップしターンをする。
「マジか」
宮本が一瞬でかわされる。
宮本が取ると信じて疑わなかったB組は、全員が前のめりになり、
チームの重心が前傾になっていた。
そこを見逃さない佐藤。
ドリブルで持ち上がり空いたスペースにスルーパスを送る。
「ナイスパス」
FWの位置にいた加藤がCBの裏に飛び出す。
丁寧にトラップをし、しっかりとゴールを奪う。
ゴールを奪われたB組は意気消沈。
「まるでうちの負けパターンだ」
宮本が呆然としている。
得意なパターンに持ち込んだB組は、なぜ点を取られたか理解していないようだ。
それに比べてA組は、柏木・佐藤・加藤の三人がゴールを奪ったプレーをしっかり確認しているようだ。
「今の感じよかったな。」
佐藤が言う。
「パスにメッセージを初めてこめてみたけど、こんなにもうまくいくんだな。」
俺の指導に半信半疑だったのか照れくさそうに柏木が答えた。
「まぁ、俺は佐藤がターンしてくれると思ってスペース探しただけだけど。」
クールに加藤は答えていた。
その後もA組は立て続けに2点を取り、ゲームは終了した。
「集合」
ゲームのフィードバックを行うため選手たちを集める。
「今回、A組が勝ったが負けたB組はどう感じた?」
代表して宮本が答える。
「守備時間が長くなるのはメンツを見て覚悟はしていました。
ボールの取りどころだけは、みんなで確認をして体を張っていこうと話し合いました。
でも、少しずつA組に逆をつかれるようになって苦しくなりました。
最後は、振り回されすぎて体力的にも限界でした。」
「そうか」
ゲーム中は難しかったみたいだが、しっかり敗因を分析したんだなと感心する。
「佐藤、今日のMOMはおまえだ。
このゲームの勝敗を決めたのは、おまえのプレーがスイッチになっていたことだ。」
そういう俺に佐藤は、
「ありがとうございます。
自分としては、自分の長所と短所が見えてきたことが大きいです。
もっと突き詰めてきます。」
そう言う佐藤は、しっかりつかんだ顔をしていた。
3日目にして一人でもここまで俺のサッカーを理解してくれることはかなり嬉しい。
ちょっとにやけてしまう。
「じゃあ、今日はここまでにする。
各自クールダウンをして帰宅してくれ」
「はい!」
選手は充実した顔でクールダウンに向かった。
監督室に戻った俺は、今日を振り返る。
「サブ組がレギュラー組に勝つには、佐藤を中心とした攻撃を構築することと
宮本を中心とした守備を機能させること。
これができないと難しい。」
「それはそうと佐藤は、もう自分の長所がボールスキルで
短所がゲームを把握・考えることをしなかったことだと気づいてるようだな。」
「それに比べ、宮本がこれからどう気づいていくかが重要になる。
あいつが輝かないことには、レギュラー組に勝つことや
その先の東京で勝つことなんてまず無理だからな。」
監督室にあるホワイトボードに目を移す。
そこにはフォーメーション図。
各ポジションには名前を書ける欄がある。
今は、全ポジションが空欄になっていた。
俺はペンを取ると、そこに初めて名前を書く。
「最初のレギュラーはやっぱりこいつだな」
OMFの欄に佐藤の名前を記入した。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
<4-2-3-1>
CF:
OMF:佐藤
DMF:
SB:
CB:
GK:
※加藤 はじめ
身長170cm 普通な青年
スペースを見つけるのが得意でシュート技術が高い。
プレースタイルはクールな性格があわさって「ヒットマン」と呼ばれる。
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