第9話「攻撃の中心」
基本練習が終わり、いよいよミニゲームに入る。
「さっきのA組とB組に分かれてミニゲームを行う。
基本練習のポイントを、自分なりに解釈してプレーで表現してくれ」
短く告げると、選手たちの目が一斉に鋭くなる。
昨日までのサブ組とは違う。
“考える準備”ができている目だ。
俺が見たいのはただ一つ。
理解力と実行力、そのバランス。
言われたことをどれだけ理解し、
どれだけ自分の武器と結びつけられるか。
その差が、今日のミニゲームにすべて現れる。
■ 試合開始 ― 3分
A組はボールスキルが高く、ポゼッションは圧倒的。
だが、まだ連携が浅い。
ボールは回るが、崩しきれない。
一方のB組は宮本を中心に、体を張った守備に徹している。
前監督のスタイルに近い展開で、彼らにとっては“慣れた戦い方”だ。
――普通なら、A組のミスからB組がカウンターで点を取る。
それが昨年ベスト16まで行けた“勝ちパターン”。
だが今日は違う。
A組には“考える”という武器がある。
均衡が崩れるのは、時間の問題だった。
■ 均衡崩壊 ― 佐藤の覚醒
「佐藤!」
柏木がCBの位置から鋭い縦パスを通す。
後ろ向きで受けようとする佐藤に、宮本が素早く寄せる。
「ここで奪ってカウンターだ!」
宮本の声が響く。
だが――
佐藤は一瞬で状況を読み切っていた。
「右足側にボールが来た……ってことは左からDFが来るな」
一瞬の首振り。
空いている右サイドを確認。
そして――
完璧なトラップからのターン。
「マジか……!」
宮本が置き去りにされる。
B組は“宮本が取る”と信じて前のめりになっていた。
その重心の傾きを、佐藤は見逃さない。
ドリブルで持ち上がり、空いたスペースへ――
スルーパス。
「ナイスパス!」
FWの加藤が裏へ抜け出し、
丁寧なトラップから冷静にゴールへ流し込む。
ネットが揺れた瞬間、
B組の空気が一気に沈んだ。
「……まるで、うちの負けパターンだ」
宮本が呆然とつぶやく。
“得意な展開”のはずだった。
なのに、なぜ失点したのか理解できない。
一方A組は、
柏木・佐藤・加藤の三人が、
今のゴールの“意味”を確認し合っていた。
「今の感じ、よかったな」
佐藤が言う。
「パスにメッセージを込めてみたけど……
こんなにもうまくいくんだな」
柏木は照れくさそうに笑った。
昨日まで半信半疑だった男が、
今は“戦術の手応え”を感じている。
「俺は佐藤がターンすると思ってスペース探しただけだけど」
加藤はクールに言い放つ。
だが、その目は確かに輝いていた。
■ A組、圧倒
その後もA組は立て続けに2点を奪い、
ゲームは3-0で終了した。
「集合!」
選手たちが息を切らしながら集まる。
■ フィードバック ― 宮本の悔しさ
「今回A組が勝ったが、負けたB組はどう感じた?」
宮本が代表して答える。
「守備時間が長くなるのは覚悟していました。
ボールの取りどころだけは確認して、体を張ろうと話していました。
でも……少しずつ逆を突かれるようになって……
最後は、振り回されすぎて体力的にも限界でした」
悔しさを噛みしめながらも、
敗因を冷静に分析している。
――宮本は伸びる。
そう確信した。
■ MOM ― 佐藤の覚醒
「佐藤、今日のMOMはお前だ。
このゲームの勝敗を決めたのは、お前のプレーがスイッチになっていたことだ」
佐藤は深く頷いた。
「ありがとうございます。
自分としては……自分の長所と短所が見えてきたことが大きいです。
もっと突き詰めていきます」
その表情は、
“ただのテクニシャン”ではなく、
“ゲームを動かす選手”の顔だった。
3日目にして、ここまで理解してくれる選手がいる。
思わず、にやけてしまった。
■ 鳥海の決意
「じゃあ今日はここまで。
クールダウンして帰宅してくれ」
選手たちは充実した顔で散っていく。
監督室に戻り、今日を振り返る。
「サブ組がレギュラー組に勝つには、
佐藤を中心とした攻撃と、
宮本を中心とした守備。
この二つが機能しないと難しい」
ホワイトボードに目を向ける。
フォーメーション図はまだ空欄だ。
俺はペンを取り、
初めて“名前”を書き込んだ。
「最初のレギュラーは……やっぱりこいつだな」
OMF:佐藤
その文字は、
南東京高校サッカー部の“革命の第一歩”だった。
と呼ばれる。
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