第10話「不器用なりに」
自主練の10mダッシュ。
パス練。
基礎練習。
すべてを終え、サブ組はミニゲームに入っていた。
「4日目にして、だいぶ浸透してきているな」
思わずつぶやく。
下手なプライドがない分、吸収が異常に早い。
昨日まで“ただのサブ組”だった彼らが、
今は“考える集団”に変わりつつある。
相変わらず試合を支配しているのは佐藤だ。
抜群のボールスキルに、
ここ数日で急激に伸びたゲームメイク力が加わり、
相手チームを圧倒している。
だが――
今日、その佐藤以上に目立っている男がいた。
■ 左サイドの怪物
「うりゃあああああ!!」
左サイドから、獣のような雄叫びが響く。
ボールを縦に蹴り出すと、
とんでもないスピードで追いかけていく。
まさに“ぶっちぎり”。
「よし、追いついた!」
ほっとした表情でボールを止め、
パスを出そうとした瞬間――
「スキあり!」
簡単に相手DFに奪われる。
……これで10回目だ。
元陸上部の橋本。
走りの理論を語っていた時はあんなに理知的だったのに、
プレーになるとこれだ。
「うわ〜またやっちまった!」
頭を抱える橋本。
「早く戻ってこい!」
柏木が叫ぶ。
「よっしゃあああ!」
また雄叫びを上げながら戻っていく。
俺は思わずつぶやいた。
「……なんかのコントか、これは」
■ ハーフタイム ― 橋本の本音
「橋本」
声をかけると、彼は満面の笑みで振り向いた。
「はい!」
「お前……疲れないのか?」
純粋な疑問だった。
「全然っすね!」
満面の笑み。
太陽みたいな笑顔。
「そ、そうか……」
絶句するしかない。
「ところで、やっぱりそんな感じじゃないとプレーできないのか?」
橋本は少し照れたように笑った。
「そっすね〜
陸上は個人種目だったんで、団体競技って助け合ってる感じがして楽しいっす」
また太陽のような笑顔。
だが次の瞬間、表情が変わった。
「でも……
どうしてもボール扱うと迷惑かけちゃうんです。
そこをなんとかしたいんですけど」
真剣な目だった。
だから俺も真剣に答えた。
「そしたら、自分がおとりになることを覚えてみろ」
「おとり……ですか?」
「お前は足が速い。
突破力、推進力がある。
そんな選手を相手DFが無視できるわけがない。
足元の技術はすぐには伸びない。
でも“どこでスピードを使うか”は、今すぐ変えられる。
後半は、味方がボールをもらいやすいように動き出せ。
空いているスペースに何度も走れ。
ボールが来ないことのほうが多い。
精神的にしんどいだろう。
でも――
あきらめずに走り続けろ」
橋本は拳を握りしめた。
「やってみます!」
その目は、まるで戦士のようだった。
■ 佐藤への指示
「佐藤」
「はい」
「橋本の走りを見てやってほしい。
ボールスキル的に預けるのは難しいかもしれないが、
あいつは“最高のおとり”になる。
上手く使ってやってくれ」
佐藤は静かに頷いた。
「わかりました。やってみます」
■ 後半 ― 変化の兆し
後半が始まる。
前半と同じ光景もある。
橋本が取られる場面も、
雄叫びを上げながら戻る姿も。
だが――
確実に変化があった。
顕著なのは、佐藤がボールを持った瞬間。
前半までの橋本は
“どうせ自分には来ない”
そんなネガティブな空気をまとっていた。
だが後半――
佐藤がボールを持つと、
橋本は一目散に左サイドのスペースへ走り出す。
ただ走っているだけ。
だが、そのスピードは武器だった。
「佐藤!!」
橋本が叫ぶ。
「俺を使え!!」
左サイドをえぐるように走る。
相手DFは無視できない。
右サイドバック裏のスペースに走り込む橋本を、
CBがケアに動く。
その瞬間――
佐藤の目が光った。
「よくやった、橋本」
橋本を見ながら、
ノールックで逆サイドへスルーパス。
空いたスペースに加藤が走り込み、
完璧なトラップからゴール。
ネットが揺れた瞬間、
佐藤は橋本のもとへ駆け寄った。
「今のゴールはお前のおかげだ。
今度は俺に“ボールを出させたくなるように”、
技術を磨いてくれ」
橋本は拳を突き出した。
「おう!
早くお前にパス出させてみるわ!」
その拳は、
“粗削りな怪物”が仲間として覚醒した証だった。
■ 鳥海の決断
「決まりだな」
俺はその光景を見て、
迷いなく決断した。
橋本を起用する。
**<4-2-3-1>
CF:
OMF:佐藤
DMF:
SB:橋本(LSB)
CB:
GK:
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