第4話「サブ組」
まずは、各個人の実力を改めて観察していく必要がある。
人数はレギュラー組とサポート組の22名を除いた23名になる。
宮本と高橋に関しては、初日の練習から光るものを感じたため、今回は特に意識をしないことにした。
「集中していこう」
「気合入れて」
「そこ頑張ろうぜ」
サブ組から熱量を感じる声がけが聞こえる。
観察することを意識しているため、基礎練習からミニゲームまで
この日は選手に任せている。
「いい雰囲気だな。」
まじまじと思う。モチベーションを高くもち、励ましあいながら
まさに高校生の部活だ。
ここに熱血な指導者からの指導があれば、まさに青春だ。
でもサッカーというスポーツを上手くなりたいということであれば、
この景色は決して良くないな。
「じゃあ、集合しよう」
俺の声でみんなが駆け足で集まってくる。
「今日一日改めて練習をみた感想をみんなに言いたいと思う」
俺がそう言うと、生徒たちは真剣な眼差しでこちらを見てくる。
「まずは、雰囲気がすごく良かった。
お互いを励ましあい、最後の一歩、足を出せるチームだと感じた。
つまり土台がしっかりあるチームになっていることがわかるし、これはひとえに前監督のおかげだな。」
選手たちはまんざらでもない表情で頷いていた。
「ただ、ゆえに問題もある」
生徒たちの表情が一気にかわる。
「前監督はたぶんだが、自分の経験をみんなに伝えていたと思う。
それに関しては、練習や声掛けなどを通して感じることができた。」
「改めて言うが、今のままではレギュラー組に勝てない」
ここで宮本が意を決したように発言してきた。
「すいません。なぜ勝てないのでしょうか」
もっともな質問だ。
「答えは簡単だ。
能力でのみ戦うサッカーだからだ。」
選手たちはまだよくわかっていないようだ。
「前監督はJリーガーになるような選手だった。能力はずば抜けていただろう
そんな選手が大事にしていたことは何だと思う。宮本。」
「わかりません」
間髪入れず宮本は答えた。
「モチベーション、いわゆる気合というやつだ。
自分の能力をいかに100%発揮するかを考えていたに違いない。
そんな選手が監督になり、それをそのまま指導したらどうなる」
「能力の高さでの戦いを強いられる」
高橋がいち早く答えてきた。
「そういうことだ
だから森山・高橋・佐々木がいたからこそベスト16まで行けたし
逆に言えばそれ以上はいけなかったということだ」
「だから・・」そう言おうとした俺をさえぎり
「レギュラーには勝てない」
宮本がそう答えた。
「正解だ」
俺は満足してそう答えた。
「そこで俺の登場だ。
能力がない俺がみんなを勝たせようと考えたときにサッカーというものを深く知る必要があった。
サッカーというものは能力だけで戦うスポーツなのかと。
その構図を変えたいと考えるようになっていった。」
深く深呼吸をして結論を俺は選手たちに向かって言った。
「俺のサッカーは、考えるサッカーだ。
戦術を用いたり、自他ともに分析し、選手の良さを100%引き出せるようなチームにする」
「そのチームに気合や根性は現時点では一切いらない。
つまり頭を使うことを俺は求めたい」
さらに初めの一歩を選手たちに踏み出してもらいたい気持ちで
話を続ける。
「まずみんなには、自分の長所と短所をしっかり把握してほしい。
そして一番大事なのは、把握した先の言語化だ
俺がみんなに与える最初の課題は、
自分の長所と短所を監督のこの俺に言語化して説明してくれ」
とまどいの空気が選手全員を包んだ。
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